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.第1章 高校2年、前期

19 女子高生よ、大志を抱け!

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「おっはよー、礼奈。連休どうだったー?」
「ひたすら部活だよー。そっちは?」
「同じく!」

 クラスで小夏と落ち合うなり、どちらからともなくハイタッチした。小夏はそのまま、既に席に着いていた私の前の席に座って声をひそめる。

「でも、一つ面白いことが」
「面白いこと……?」

 私が首を傾げると、小夏が頷く。さらり、と揺れるボブショートがチャーミングだ。

「試合があったんだけど、慶ちゃん、他校の生徒に連絡先聞かれてやんの」
「……へぇ」

 何と反応したものか分からず、とりあえず口の形を変えずに声を出すと、小夏が噴き出した。

「全然興味ない反応ー!」

 ばしばしと机を叩く小夏は一人で大ウケしている。私は困惑して眉を寄せた。

「……いや、だって……まあ、いいんじゃない? そういうことがあっても……」

 私と小夏だって同じようにして知り合ったのだ。
 と思ってから、自分の考え違いに気づく。

「あ、もしかして女子ってこと?」
「男子だったらわざわざ言わねー!!」

 小夏は腹を抱えて、ひぃひぃ言いながら笑う。涙が浮かんできたらしく、目を拭っている

 不意に視界が陰ったと思ったら、机の横に学ランの姿があった。

「高木の高笑い、朝っぱらからうるせぇ。耳障り」

 ぶっきらぼうに言い放つ慶次郎は敵意に似た表情を小夏に向けている。私はそれを見上げて、「あ、おはよ慶次郎」と当たり障りない挨拶をした後、首を傾げた。
 たまには、私が慶次郎を茶化してやるのもいいだろう。

「可愛かった?」
「は?」

 慶次郎が全力で眉根を寄せている。私はじっと慶次郎を見上げる。

「連絡先、聞いてきた子。可愛かった?」

 慶次郎は私を見下ろしたまま、言葉を失った。かと思うと目をさまよわせ、「何の話だ。知るかよ」と吐き捨てて自分の席へ向かってしまった。

 ちっ。つまんないの。

 私はふんと鼻を鳴らす。

「せめておはようくらい言えっての」

 呟く私の正面では、まだ小夏が笑っている。むしろさっきよりも悪化していて、息も絶え絶えの様子だ。

「小夏、笑いすぎ。どうしたの」
「いや、今の、今……は、はぁ……」

 小夏は息を吸って、吐いて、整えながら、額を押さえて呟いた。

「む……無自覚の罪……」
「……何のこと?」

 私は眉を寄せる。小夏はそれを受けてまた笑い始める。

「いや、何でもない……やっぱ礼奈、最強だわ……」
「小夏?」

 全然説明になっていない。訝しむ私に、小夏は「気にしないで」と手を振って、にこりとした。

「ま、でも、大丈夫。礼奈の方が全然可愛かったから」

 そう言われても嬉しくも何ともない。自分の平凡さはよーくわかっているのだ。
 「別に私より可愛くてもいいけど……」と言ったとき、前の席の子が登校してきて、小夏が席を譲った。
 立ち上がった小夏は机の横に立って聞いてくる。

「家族ではどっか行かなかったの?」
「んー、おばあちゃんちで親戚の集まりがあったけど、私は合宿で行けなかった」
「へぇ。おばあちゃん、お近くなの?」
「鎌倉」

 答えると、小夏は「あらいいわねぇ」と目を輝かせた。

「ちょっと足伸ばせばすぐなのに、意外とあんまり観光に行かないよね、鎌倉。花火大会とかもあるのに」
「ああ、あるね。でも私も行ったことない」
「え、ほんと?」

 小夏が身を乗り出した。

「せっかくおばあちゃんいるのに?」
「うん、そうだけど……」

 一度家族でも話に上がったことはある。けど、住人だった父の「鎌倉の花火大会はえげつない人混みになる」という言葉に、みんな行く気が失せてしまったのだ。
 鎌倉はただでさえ人が多い。さらに多くなったら……呼吸困難になりそうだ、と想像してしまう。

「もったいないよー。高校生のうちに行きたいなー」
「って、今年しかなくない?」

 来年は受験だ。そうそう外出もできないだろう。

「でも今年は部活あるよー」
「……確かに」

 確か花火大会は夏休みの始め頃。私もコンクールの地区大会がその前後だから、楽しめないだろう。

「それだったら、勉強の息抜きに、来年」
「それもいいかも」
「そういう励みがないとがんばれないし」
「だよねぇ」

 二人で話しているうちに、先生が来てホームルームが始まった。

 来年は、受験かぁ。
 勉強の他には何も手につかないだろうな。
 となれば、やっぱり、今を楽しまなくちゃ。
 部活も行事も。

 私は改めてひとり、こくこくと頷く。

 あとは……恋、でもできれば最高なんだけど。
 こればっかりは都合よくいかないから仕方ない。
 自分の「高望み」を意図的に棚に上げて、先生の話に意識を向けた。
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