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第三部
08
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神崎さんには、私の家の最寄駅を走る路線沿いの駅に降ろしてもらった。
「本当にいいのか?」
「うん、大丈夫。暗くならないうちに帰れると思うし」
神崎さんは苦笑した。
「……ま、何かあったらいつでも言えよ。相談にのってやるから」
私はまばたきをして、その言葉が示すところを探ろうとする。
「大学のこと? 留学のこと?」
「まぁ……それもあるけど」
言いにくそうな顔を見て、ああ、と察した。
「うん、なんかのときには連絡する」
笑ってドアを開けた。
「奥さんによろしく伝えてね」
「ああ。そっちも、お母さんと彼氏によろしく」
言われて照れ笑いすると、神崎さんも笑った。
「ちょっとうらやましいな」
「何が?」
「そういう……初々しい恋愛はしたことないから」
「そうなの?」
私は車を降りて振り向いた。
「充分、そういうふうに見えたけど」
「は?」
「私の練習試合に来たときの神崎さんと奥さん」
神崎さんは言葉を失った後、照れてそっぽを向いた。
「ふふ、じゃあね。おやすみなさい」
「ああ。……気をつけて」
ドアを閉じて手を挙げると、神崎さんが軽くクラクションを鳴らしてくれた。
遠ざかる車を見送って、改札へ向かう。
山ちゃんへの返事をまだしていないことに気づいて、スマホを取り出した。
何度かコールを鳴らすと、もしもし、と控えめな応答がある。
「あ、山ちゃん。今帰りだよ」
話しながら改札を入り、ホームへ向かう。
「ダム見に行ったんだ。公園もあって、子どもがいっぱいいた。放流するとこも見たの。すごい迫力だった」
山ちゃんが黙っているのをいいことにうきうきと話すと、
『うん、楽しんだんなら、よか』
私はくすぐったさを感じて笑った。
「山ちゃんとも、そのうち行こうね。ドライブ」
弾む声で、私は言った。
「どこがいいかな。海? 山? 二人で行ったら楽しそう」
山ちゃんは少し沈黙した後、くすりと笑った。
何? と聞くと、
『いや。……初恋の人と行ったんやろ。その人の話が一個も出て来んなと思っただけちゃ』
私は思わず顔を赤くした。
「え、う、だって、その」
神崎さんとの会話ですぐ浮かんだのは、恋愛のことだった。
そして山ちゃんとの……キスのこと。
私は思い切って、息を吸った。
「山ちゃん」
『何ね?』
「私、山ちゃんのカノジョ?」
山ちゃんは黙った。私はおずおずと続ける。
「山ちゃんは……私のカレシ?」
一呼吸後、山ちゃんは一つ咳ばらいをした。
『彼女でもない女とこんな電話せん』
強がる言葉は精一杯の照れ隠し。
私は笑った。
「うん、よかった」
『……何が』
「私、カレシでもない人とちゅーしちゃったかなって思ってた」
山ちゃんは絶句した。
『……もしかして、その話を……』
「あ、電車来た。切るねー」
『お、おい! ぐっちゃ……』
山ちゃんの呼びかけも待たず、私は電話を切った。
ホームに電車が走り込む。
その風を受けながら照れ臭さに笑うと、開いたドアに足を踏み入れ、ご機嫌で電車に揺られて帰った。
* * *
いつもお付き合いくださりありがとうございます!
作品お楽しみいただけていますでしょうか…
この翌日の神崎さんの様子を本日のブログにて公開します。
もしよければご覧ください(^^)
(2018/8/2 松丹子 拝)
→神崎家シリーズSS集にも掲載開始しました(2020/05/27追記)
「本当にいいのか?」
「うん、大丈夫。暗くならないうちに帰れると思うし」
神崎さんは苦笑した。
「……ま、何かあったらいつでも言えよ。相談にのってやるから」
私はまばたきをして、その言葉が示すところを探ろうとする。
「大学のこと? 留学のこと?」
「まぁ……それもあるけど」
言いにくそうな顔を見て、ああ、と察した。
「うん、なんかのときには連絡する」
笑ってドアを開けた。
「奥さんによろしく伝えてね」
「ああ。そっちも、お母さんと彼氏によろしく」
言われて照れ笑いすると、神崎さんも笑った。
「ちょっとうらやましいな」
「何が?」
「そういう……初々しい恋愛はしたことないから」
「そうなの?」
私は車を降りて振り向いた。
「充分、そういうふうに見えたけど」
「は?」
「私の練習試合に来たときの神崎さんと奥さん」
神崎さんは言葉を失った後、照れてそっぽを向いた。
「ふふ、じゃあね。おやすみなさい」
「ああ。……気をつけて」
ドアを閉じて手を挙げると、神崎さんが軽くクラクションを鳴らしてくれた。
遠ざかる車を見送って、改札へ向かう。
山ちゃんへの返事をまだしていないことに気づいて、スマホを取り出した。
何度かコールを鳴らすと、もしもし、と控えめな応答がある。
「あ、山ちゃん。今帰りだよ」
話しながら改札を入り、ホームへ向かう。
「ダム見に行ったんだ。公園もあって、子どもがいっぱいいた。放流するとこも見たの。すごい迫力だった」
山ちゃんが黙っているのをいいことにうきうきと話すと、
『うん、楽しんだんなら、よか』
私はくすぐったさを感じて笑った。
「山ちゃんとも、そのうち行こうね。ドライブ」
弾む声で、私は言った。
「どこがいいかな。海? 山? 二人で行ったら楽しそう」
山ちゃんは少し沈黙した後、くすりと笑った。
何? と聞くと、
『いや。……初恋の人と行ったんやろ。その人の話が一個も出て来んなと思っただけちゃ』
私は思わず顔を赤くした。
「え、う、だって、その」
神崎さんとの会話ですぐ浮かんだのは、恋愛のことだった。
そして山ちゃんとの……キスのこと。
私は思い切って、息を吸った。
「山ちゃん」
『何ね?』
「私、山ちゃんのカノジョ?」
山ちゃんは黙った。私はおずおずと続ける。
「山ちゃんは……私のカレシ?」
一呼吸後、山ちゃんは一つ咳ばらいをした。
『彼女でもない女とこんな電話せん』
強がる言葉は精一杯の照れ隠し。
私は笑った。
「うん、よかった」
『……何が』
「私、カレシでもない人とちゅーしちゃったかなって思ってた」
山ちゃんは絶句した。
『……もしかして、その話を……』
「あ、電車来た。切るねー」
『お、おい! ぐっちゃ……』
山ちゃんの呼びかけも待たず、私は電話を切った。
ホームに電車が走り込む。
その風を受けながら照れ臭さに笑うと、開いたドアに足を踏み入れ、ご機嫌で電車に揺られて帰った。
* * *
いつもお付き合いくださりありがとうございます!
作品お楽しみいただけていますでしょうか…
この翌日の神崎さんの様子を本日のブログにて公開します。
もしよければご覧ください(^^)
(2018/8/2 松丹子 拝)
→神崎家シリーズSS集にも掲載開始しました(2020/05/27追記)
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