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第一章 こちふかば
13 意味ありげな二人
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「お父さん力持ちー」
「健人も抱っこー」
「健人、後でしてやるから」
「おーろーしーてー!」
じたばたするがびくともしない。くっそ。無駄。この人の鍛えた身体、マジ無駄。
何より恥ずかしいのは、周りの目だ。身長だけを考えても、一八〇センチを超えてる神崎さんに抱き抱えられて目立たないはずがない。その上彼は容姿に恵まれているんだから、いろんな感情の視線がこちらにひしひしと伝わって来る。
しかし暴れるのが無駄なあがきと分かると、諦めて力を抜いた。男の肩甲骨に頬杖をつく。
「神崎さんの目線、気持ちいいっすね」
「ああ?頭が正常に戻ったなら下りろ」
「こんな高い場所から見下ろしてたら、なんか偉くなった気になるのも分かる」
「俺が偉そうだってことか?落とすぞ」
「暴力反対ー」
話しているとぱしゃりとシャッター音がした。見やるとヨーコさんがいい笑顔でスマホを構えている。
「名取さん、その写真の意図は?」
「花見の思い出」
いや絶対違うでしょ。にこにこ笑顔はいつもと変わらないけど、何かに悪用する気でしょ。私がじたばたするより先に、嘆息した神崎さんがようやく私の身体を下ろしてくれた。
足先が地面についた途端、ふらついてたたらを踏む。神崎さんが私の肘を支えた。
「おいおい、大丈夫かよ」
「多分。屈伸してみよう」
「阿呆か、やめろ。名取さんに支えてもらえ。片付けは俺たちがやるから」
神崎さんは言いながら私の靴を揃えてくれた。
だからーその無駄な気遣いー。
「神崎さんはさぁ」
靴に乱暴に足をつっこみながら私は言う。
「そういうのやめた方がいいと思う」
神崎さんは半眼を返してきた。
「お前がグダグダになるからいけないんだろうが。イチイチやるかよこんなこと」
返されて、
ーー抱っこの件じゃないんだけどなぁ。
と嘆息する。ヨーコさんも靴を履いて、私の肩を横で支えてくれた。神崎父子と安田さんが片付けをし、残りものは隣の宴会へおすそ分けしている。
「あ、そうだ」
ちらほらと感じる視線の先に、咲也くんを見つけて手を振る。
咲也くんは靴を履いてレジャーシートの外側を回り込んで来た。
「大丈夫?」
「だいじょぶだいじょぶーいつものことだから」
私は言いながらスマホを取り出した。
「連絡先教えてよ。また飲もう」
咲也くんはきょとんとして、複雑な笑顔を見せた。
「いいの?」
「何が?」
「いや、ええとーー」
咲也くんは言葉を探すように視線をさ迷わせたが、先に口を開いたのは私の隣に立つヨーコさんだった。
「ええんやないの」
静かでありながら、確信に満ちたその声音。
私が首を傾げていると、咲也くんが苦笑する。
「ヨーコさんがそう言うなら」
言いながら、咲也くんがスマホを取り出した。
何、それ。いつの間にツーカーの仲になったんだろう。咲也くんとは私の方が話してるつもりだったけど。
「おっ、大澤くんやるねぇ」
「ひゅーひゅー」
「違いますよ」
冷やかして来る会社の上司たちに、咲也くんは苦笑を返した。
「忘れ物見つけたら連絡くださいねー」
私はおじさま方に笑顔で手を振る。
<大澤 咲也>
彼の連絡先に登録された絵は、まさに桜の写真だった。
「健人も抱っこー」
「健人、後でしてやるから」
「おーろーしーてー!」
じたばたするがびくともしない。くっそ。無駄。この人の鍛えた身体、マジ無駄。
何より恥ずかしいのは、周りの目だ。身長だけを考えても、一八〇センチを超えてる神崎さんに抱き抱えられて目立たないはずがない。その上彼は容姿に恵まれているんだから、いろんな感情の視線がこちらにひしひしと伝わって来る。
しかし暴れるのが無駄なあがきと分かると、諦めて力を抜いた。男の肩甲骨に頬杖をつく。
「神崎さんの目線、気持ちいいっすね」
「ああ?頭が正常に戻ったなら下りろ」
「こんな高い場所から見下ろしてたら、なんか偉くなった気になるのも分かる」
「俺が偉そうだってことか?落とすぞ」
「暴力反対ー」
話しているとぱしゃりとシャッター音がした。見やるとヨーコさんがいい笑顔でスマホを構えている。
「名取さん、その写真の意図は?」
「花見の思い出」
いや絶対違うでしょ。にこにこ笑顔はいつもと変わらないけど、何かに悪用する気でしょ。私がじたばたするより先に、嘆息した神崎さんがようやく私の身体を下ろしてくれた。
足先が地面についた途端、ふらついてたたらを踏む。神崎さんが私の肘を支えた。
「おいおい、大丈夫かよ」
「多分。屈伸してみよう」
「阿呆か、やめろ。名取さんに支えてもらえ。片付けは俺たちがやるから」
神崎さんは言いながら私の靴を揃えてくれた。
だからーその無駄な気遣いー。
「神崎さんはさぁ」
靴に乱暴に足をつっこみながら私は言う。
「そういうのやめた方がいいと思う」
神崎さんは半眼を返してきた。
「お前がグダグダになるからいけないんだろうが。イチイチやるかよこんなこと」
返されて、
ーー抱っこの件じゃないんだけどなぁ。
と嘆息する。ヨーコさんも靴を履いて、私の肩を横で支えてくれた。神崎父子と安田さんが片付けをし、残りものは隣の宴会へおすそ分けしている。
「あ、そうだ」
ちらほらと感じる視線の先に、咲也くんを見つけて手を振る。
咲也くんは靴を履いてレジャーシートの外側を回り込んで来た。
「大丈夫?」
「だいじょぶだいじょぶーいつものことだから」
私は言いながらスマホを取り出した。
「連絡先教えてよ。また飲もう」
咲也くんはきょとんとして、複雑な笑顔を見せた。
「いいの?」
「何が?」
「いや、ええとーー」
咲也くんは言葉を探すように視線をさ迷わせたが、先に口を開いたのは私の隣に立つヨーコさんだった。
「ええんやないの」
静かでありながら、確信に満ちたその声音。
私が首を傾げていると、咲也くんが苦笑する。
「ヨーコさんがそう言うなら」
言いながら、咲也くんがスマホを取り出した。
何、それ。いつの間にツーカーの仲になったんだろう。咲也くんとは私の方が話してるつもりだったけど。
「おっ、大澤くんやるねぇ」
「ひゅーひゅー」
「違いますよ」
冷やかして来る会社の上司たちに、咲也くんは苦笑を返した。
「忘れ物見つけたら連絡くださいねー」
私はおじさま方に笑顔で手を振る。
<大澤 咲也>
彼の連絡先に登録された絵は、まさに桜の写真だった。
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