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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
29 前田の七不思議(七つもないけど)。
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「で、さっきの話だけどさ。前田さんってどんな人なの?」
勝哉がまた訳の分からない無茶振りをしてきた。
私は天ぷらにかじりつきながら苦笑する。
「どんな人って……」
「スタッフロールだと、プログラマーみたいだったけど。姉ちゃん苦手じゃなかったっけ、理系の人」
「理系の人が苦手なんじゃなくて、理論先行型の人が苦手なのよ」
そういう意味では前田は苦手ゾーンど真ん中だ。
「前田は……そうだなぁ。SEで同期で……周りは自由人て呼んでるけど、私は鉄仮面て呼んでる」
「はぁ。自由人に、鉄仮面、ね」
達哉が首を傾げた。
「つまり、姉ちゃんのペースに飲まれる人じゃない訳だ」
「何よそれ。まるで私が人を巻き込む気質みたいに」
「違うの?」
疑問の声は家族四人の声が重なった。仲良すぎでしょ。しかもそこで重なるとか、私を何だと思ってるの。
「巻き込んでないよ。勝手に面白がられるだけで」
「それ、巻き込むって言わないのかなー」
「自覚がないからこそなんだろうよ」
勝哉と達哉が言い合って納得している。おいおい。
「でも、それなら新鮮なんじゃないの?前田さん」
「新鮮?」
「姉ちゃんの言葉に笑わないんでしょ」
私はそのとき初めて気づいた。そういえば、あいつの笑顔って見たことない。
「……前田って」
私は神妙な顔で口元に手を添え、考えるポーズを取った。
「表情筋、大丈夫なのかな」
私の言葉に、弟たちが噴き出す。
「いや、だってあいつ、あんたたちと同い年のはずだよ。でも全然感情が出ないっていうか。脱力系?いやむしろ諦め系?」
前田が一番よく見せるのは、諦観の表情だ。小馬鹿にしたような嘆息や台詞付きで。
「なに、諦め系って」
「こんな感じ。『吉田さん、もうちょっと落ち着いた方がいいんじゃない』」
私はいつかの台詞を反復しながら、半眼で嘆息して見せた。
「ーーうぬぁ!むかつく!」
勝手に真似して勝手に怒りが復活する。弟たちは大ウケした。それを見て私は唇を尖らせる。
「他人事だと思って!」
「他人事だもん。でも、いいね、その人。ちゃんと姉ちゃんに指摘してくれるんだ」
「そんな指摘いらんわ!」
だいたい落ち着けるんならもっと早い段階で落ち着いてるわ!三十にもなってこれなんだから察しろと言いたい。
「で、姉ちゃんはそんな風に食ってかかってるのね」
「私が短気なの知ってるでしょ!?」
「知ってるけど。じゃあ関わらなければいいじゃない」
「同じプロジェクトに絡んでるのよ!」
勝哉は笑う。
「そうなの?ならよかったじゃない。ゲーム部門への異動、不安に思ってたんでしょ。知り合いいるなら心強いじゃん」
「知り合いって言ったって、私は最初忘れてたくらいなんだからーー」
言いかけて、ふと気づく。前田は私のことを覚えていた。他の同期が軒並み忘れているのにーーそして、前田自身、ゲーム部門の同期すらあやふやなのに。
「姉ちゃん、次何飲む?モスコミュール作ろうか」
達哉が立ち上がりながら言った。私はウォッカベースのカクテルが好きなので、我が家にはウォッカが常備してある。
「うん、いる。ありがとー」
言いながらまた思い出す。
ーーモスコミュールとかもあるけど。好きじゃなかったっけ?
他人に無関心な男が、なんで私の好きなカクテルを知ってたんだろう。
ーー前田って、私のこと好きだったりして。
自分で口にした冗談を思い出す。
「ーーいや、ないわ。ないない」
私が真顔で首を振ると、家族は顔を見合わせて首を傾げた。
勝哉がまた訳の分からない無茶振りをしてきた。
私は天ぷらにかじりつきながら苦笑する。
「どんな人って……」
「スタッフロールだと、プログラマーみたいだったけど。姉ちゃん苦手じゃなかったっけ、理系の人」
「理系の人が苦手なんじゃなくて、理論先行型の人が苦手なのよ」
そういう意味では前田は苦手ゾーンど真ん中だ。
「前田は……そうだなぁ。SEで同期で……周りは自由人て呼んでるけど、私は鉄仮面て呼んでる」
「はぁ。自由人に、鉄仮面、ね」
達哉が首を傾げた。
「つまり、姉ちゃんのペースに飲まれる人じゃない訳だ」
「何よそれ。まるで私が人を巻き込む気質みたいに」
「違うの?」
疑問の声は家族四人の声が重なった。仲良すぎでしょ。しかもそこで重なるとか、私を何だと思ってるの。
「巻き込んでないよ。勝手に面白がられるだけで」
「それ、巻き込むって言わないのかなー」
「自覚がないからこそなんだろうよ」
勝哉と達哉が言い合って納得している。おいおい。
「でも、それなら新鮮なんじゃないの?前田さん」
「新鮮?」
「姉ちゃんの言葉に笑わないんでしょ」
私はそのとき初めて気づいた。そういえば、あいつの笑顔って見たことない。
「……前田って」
私は神妙な顔で口元に手を添え、考えるポーズを取った。
「表情筋、大丈夫なのかな」
私の言葉に、弟たちが噴き出す。
「いや、だってあいつ、あんたたちと同い年のはずだよ。でも全然感情が出ないっていうか。脱力系?いやむしろ諦め系?」
前田が一番よく見せるのは、諦観の表情だ。小馬鹿にしたような嘆息や台詞付きで。
「なに、諦め系って」
「こんな感じ。『吉田さん、もうちょっと落ち着いた方がいいんじゃない』」
私はいつかの台詞を反復しながら、半眼で嘆息して見せた。
「ーーうぬぁ!むかつく!」
勝手に真似して勝手に怒りが復活する。弟たちは大ウケした。それを見て私は唇を尖らせる。
「他人事だと思って!」
「他人事だもん。でも、いいね、その人。ちゃんと姉ちゃんに指摘してくれるんだ」
「そんな指摘いらんわ!」
だいたい落ち着けるんならもっと早い段階で落ち着いてるわ!三十にもなってこれなんだから察しろと言いたい。
「で、姉ちゃんはそんな風に食ってかかってるのね」
「私が短気なの知ってるでしょ!?」
「知ってるけど。じゃあ関わらなければいいじゃない」
「同じプロジェクトに絡んでるのよ!」
勝哉は笑う。
「そうなの?ならよかったじゃない。ゲーム部門への異動、不安に思ってたんでしょ。知り合いいるなら心強いじゃん」
「知り合いって言ったって、私は最初忘れてたくらいなんだからーー」
言いかけて、ふと気づく。前田は私のことを覚えていた。他の同期が軒並み忘れているのにーーそして、前田自身、ゲーム部門の同期すらあやふやなのに。
「姉ちゃん、次何飲む?モスコミュール作ろうか」
達哉が立ち上がりながら言った。私はウォッカベースのカクテルが好きなので、我が家にはウォッカが常備してある。
「うん、いる。ありがとー」
言いながらまた思い出す。
ーーモスコミュールとかもあるけど。好きじゃなかったっけ?
他人に無関心な男が、なんで私の好きなカクテルを知ってたんだろう。
ーー前田って、私のこと好きだったりして。
自分で口にした冗談を思い出す。
「ーーいや、ないわ。ないない」
私が真顔で首を振ると、家族は顔を見合わせて首を傾げた。
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