4 / 85
第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
04 今後の交遊関係を考えるとどっちの道を選ぶべきか本気で迷う件について。
しおりを挟む
そんなわけで臨んだプレゼンは、ほとんどすべてこの三時間で作り直した力作である。この一週間、準備にかけた時間を返せ。結構うんうん言って作ってたのに。
見た瞬間、佐々マネが笑ってた。全部作り直したの?って。そうですけど何か。洗いざらい自分をさらけ出す所存ですわ!という私の開き直りが通じたのか、何だかみんなの目線が生暖かい気がするけど気にしない。鋼の精神を以て気にしない。
そもそも、何度も言うように私はおもちゃ部門に入社したのだ。ゲームなんてほとんどやったことがない。経験があるのは弟につき合ってやった格闘ゲームかカーゲームで、恋愛シュミレーションゲームなんて見たこともない。そんなものを企画なんてできませんと愚痴ってみたら、いやむしろやったことのない人の意見を聞きたいんだよと言われてなるほどと頷いてしまった単純な私。そんなわけで私にとっては未知の世界に加えて何かを創作した経験なんて美術と技術の時間しかない。技術なんて見本通りに切ったりつけたりするだけだし。ああ、あと俳句?国語のときに作った気がする。素直でいいわねって先生に笑われた。暑い日はやっぱり食べたいアイスクリーム。字余り。
何かを無から産み出すなんてどうすればいいのと迷子になっていた私に佐々マネは言った。君、行動心理学やってたんでしょ。結構周りの人観察したりしない?その辺から題材持ってくれば。
その手があったかー!と周りの人に思いを馳せながらも、昨日までは一応理性で押し止めつつキャラクター設定を組んでいた。でも、今日作り直した三時間でそんな理性が働くはずもなく、もうダダ漏れだ。いろいろダダ漏れ。これもし採用になっちゃったらモデルにした当人に謝りに行った方がいいんじゃないかなと思うくらいに。いやむしろ謝るべきはその妻か。いやいややっぱり何も気付かれない方が互いのためかもしれない。
そして考えてみたら全員既婚男性である。なんだよ私の周りそんなにいい男たくさんいるのかよもう売り切れだけどなちくしょー!
でもきっと採用にはならないに違いない。だって今日プレゼンを任されたあとの二人はネオロマをこよなく愛する女子と男子である。え?男子?うん、男子。女子ってこういうのにときめくんだーって彼女にやらせてもらってハマったって言ってた。彼女とゲームとかオタクの癖に地味にリア充だな爆発しろ。
ということで、せっかく頑張った三時間の努力の結晶、消え去る前に皆様にご披露いたしたく候。よいか?準備はよいか?決してツッコミの準備ではないぞ。
まずはヒロイン、同時にターゲットの女性像。毎日仕事を頑張って、女性活躍促進の波に乗せられそうな気配を全力で拒否りつつも逃れ切れなそうなアラサー。三十歳の誕生日に彼氏にフラれて凹んでたら、社内外からいきなりチヤホヤされるようになっちゃてどうしよう!この時点でお前痛すぎだろと鼻でせせら笑うあなたはもうUターン推奨!ブラウザバックプリーズ!
攻略対象は4人。一人目は取引先の責任者。俺様で仕事ができる、フェロモンの塊のような大人の男。彼に憧れる女性は後を立たず、来るもの拒まず去るもの追わずと噂が立つが、ヒロインには一途に愛を捧げる。え?もちろんマサトさんがモデルですよ。それが何か?
二人目は会社の後輩。年下と思えない穏やかさを持ち、冷静沈着、茶道を嗜む。でも怒らせると怖い腹黒男子。笑顔でライバルを牽制する。ヒロインのことをさりげなく気遣い、残業中にそっと差し入れをしてくれる。ちなみにこれのモデル、マサトさんの弟のざっきーね。
お次は社内SE、よれよれシャツがトレードマークの先輩社員。ゆるい性格でついついがんばりすぎてしまうヒロインの息抜きにいつも一役買ってくれる。ヒロインと仲がよくなるにつれて段々と服装が整っていき、イケメン度がアップする。これはサークルの部長だった相ちゃんこと相川という男がモデルだ。
そして最後は会社の同期。体育会系のノリで明るい笑顔が絶えない。不器用で自分の気持ちにも無自覚だが、ヒロインには大甘。ヒロインのことを茶化しながらもいつも味方になって応援してくれる。これは今日から海外旅行に行くと連絡があった幸弘がモデル。
そんなキャラクターに囲まれて、恋も仕事も諦めないまま上手く行っちゃうハッピーエンド、ハーレムありの御都合主義上等!もちろんR18指定でしょ。それ以外ないでしょ。
ねえその憐憫の目やめてくれる。泣きたくなるから。分かってるの私分かってるのよ。ここで冷静になったら負けだって。ここで賢者モードになったらきっともう立っていられない。
こんなんばれたらマジで殺されそう。ざっきーに。結構ブラコンなんだよねあの人。俺はともかく兄さんモデルにしたの?とかっていい笑顔で黒いオーラ纏いそう。でもマサトさんは困りながら苦笑してきっとこう言うんだろう、仕方ねぇなぁって。いやん萌え!それに頭ポンとかついたら私きっと萌えすぎて立ってられない。そんな幸せなオマケないけどね!そんな女子に勘違いさせるような振る舞いは進んでしないマサトさんなのである。そこもまたイイ。
そんな現実逃避のような妄想を繰り広げている内にプレゼンも質疑応答もすべて終わり、さながら全力を出し切ったランナーのような気分でやれやれと会議室を出ようとしたとき、佐々マネの声に我に返った。
「じゃ、吉田さんの案を中心にして揉んでいこう」
ーーえ?
やばいこれ何フラグ?終わった。なんかよくわかんないけど終わった。とりあえずざっきーに殴られに行った方がいいかな。それとも幸弘に笑われに行った方がいいかな。きっとあいつなら腹を抱えて大ウケするに違いない。さらに相ちゃんの妻、えみりんに鼻先で笑われたら、きっともう怖いものはない。そうだ、ざっきーに笑顔で殴られるのはその後でもいい。
脳内でさらなる現実逃避を繰り広げている私をそっちのけで、会議は終わったのだった。
見た瞬間、佐々マネが笑ってた。全部作り直したの?って。そうですけど何か。洗いざらい自分をさらけ出す所存ですわ!という私の開き直りが通じたのか、何だかみんなの目線が生暖かい気がするけど気にしない。鋼の精神を以て気にしない。
そもそも、何度も言うように私はおもちゃ部門に入社したのだ。ゲームなんてほとんどやったことがない。経験があるのは弟につき合ってやった格闘ゲームかカーゲームで、恋愛シュミレーションゲームなんて見たこともない。そんなものを企画なんてできませんと愚痴ってみたら、いやむしろやったことのない人の意見を聞きたいんだよと言われてなるほどと頷いてしまった単純な私。そんなわけで私にとっては未知の世界に加えて何かを創作した経験なんて美術と技術の時間しかない。技術なんて見本通りに切ったりつけたりするだけだし。ああ、あと俳句?国語のときに作った気がする。素直でいいわねって先生に笑われた。暑い日はやっぱり食べたいアイスクリーム。字余り。
何かを無から産み出すなんてどうすればいいのと迷子になっていた私に佐々マネは言った。君、行動心理学やってたんでしょ。結構周りの人観察したりしない?その辺から題材持ってくれば。
その手があったかー!と周りの人に思いを馳せながらも、昨日までは一応理性で押し止めつつキャラクター設定を組んでいた。でも、今日作り直した三時間でそんな理性が働くはずもなく、もうダダ漏れだ。いろいろダダ漏れ。これもし採用になっちゃったらモデルにした当人に謝りに行った方がいいんじゃないかなと思うくらいに。いやむしろ謝るべきはその妻か。いやいややっぱり何も気付かれない方が互いのためかもしれない。
そして考えてみたら全員既婚男性である。なんだよ私の周りそんなにいい男たくさんいるのかよもう売り切れだけどなちくしょー!
でもきっと採用にはならないに違いない。だって今日プレゼンを任されたあとの二人はネオロマをこよなく愛する女子と男子である。え?男子?うん、男子。女子ってこういうのにときめくんだーって彼女にやらせてもらってハマったって言ってた。彼女とゲームとかオタクの癖に地味にリア充だな爆発しろ。
ということで、せっかく頑張った三時間の努力の結晶、消え去る前に皆様にご披露いたしたく候。よいか?準備はよいか?決してツッコミの準備ではないぞ。
まずはヒロイン、同時にターゲットの女性像。毎日仕事を頑張って、女性活躍促進の波に乗せられそうな気配を全力で拒否りつつも逃れ切れなそうなアラサー。三十歳の誕生日に彼氏にフラれて凹んでたら、社内外からいきなりチヤホヤされるようになっちゃてどうしよう!この時点でお前痛すぎだろと鼻でせせら笑うあなたはもうUターン推奨!ブラウザバックプリーズ!
攻略対象は4人。一人目は取引先の責任者。俺様で仕事ができる、フェロモンの塊のような大人の男。彼に憧れる女性は後を立たず、来るもの拒まず去るもの追わずと噂が立つが、ヒロインには一途に愛を捧げる。え?もちろんマサトさんがモデルですよ。それが何か?
二人目は会社の後輩。年下と思えない穏やかさを持ち、冷静沈着、茶道を嗜む。でも怒らせると怖い腹黒男子。笑顔でライバルを牽制する。ヒロインのことをさりげなく気遣い、残業中にそっと差し入れをしてくれる。ちなみにこれのモデル、マサトさんの弟のざっきーね。
お次は社内SE、よれよれシャツがトレードマークの先輩社員。ゆるい性格でついついがんばりすぎてしまうヒロインの息抜きにいつも一役買ってくれる。ヒロインと仲がよくなるにつれて段々と服装が整っていき、イケメン度がアップする。これはサークルの部長だった相ちゃんこと相川という男がモデルだ。
そして最後は会社の同期。体育会系のノリで明るい笑顔が絶えない。不器用で自分の気持ちにも無自覚だが、ヒロインには大甘。ヒロインのことを茶化しながらもいつも味方になって応援してくれる。これは今日から海外旅行に行くと連絡があった幸弘がモデル。
そんなキャラクターに囲まれて、恋も仕事も諦めないまま上手く行っちゃうハッピーエンド、ハーレムありの御都合主義上等!もちろんR18指定でしょ。それ以外ないでしょ。
ねえその憐憫の目やめてくれる。泣きたくなるから。分かってるの私分かってるのよ。ここで冷静になったら負けだって。ここで賢者モードになったらきっともう立っていられない。
こんなんばれたらマジで殺されそう。ざっきーに。結構ブラコンなんだよねあの人。俺はともかく兄さんモデルにしたの?とかっていい笑顔で黒いオーラ纏いそう。でもマサトさんは困りながら苦笑してきっとこう言うんだろう、仕方ねぇなぁって。いやん萌え!それに頭ポンとかついたら私きっと萌えすぎて立ってられない。そんな幸せなオマケないけどね!そんな女子に勘違いさせるような振る舞いは進んでしないマサトさんなのである。そこもまたイイ。
そんな現実逃避のような妄想を繰り広げている内にプレゼンも質疑応答もすべて終わり、さながら全力を出し切ったランナーのような気分でやれやれと会議室を出ようとしたとき、佐々マネの声に我に返った。
「じゃ、吉田さんの案を中心にして揉んでいこう」
ーーえ?
やばいこれ何フラグ?終わった。なんかよくわかんないけど終わった。とりあえずざっきーに殴られに行った方がいいかな。それとも幸弘に笑われに行った方がいいかな。きっとあいつなら腹を抱えて大ウケするに違いない。さらに相ちゃんの妻、えみりんに鼻先で笑われたら、きっともう怖いものはない。そうだ、ざっきーに笑顔で殴られるのはその後でもいい。
脳内でさらなる現実逃避を繰り広げている私をそっちのけで、会議は終わったのだった。
1
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる