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第十三章 マイスイートホーム(ヒメ視点)

03 ゲストの選び方

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 予定通り、いい夫婦の日に入籍を済ませた私と光彦さんは、晴れて同棲を始めた。
 毎日いちゃラブ! とうきうきしていた私だけど、生活を始めてみたら当然そうも行かず。
 いつも会う日は、仕事を早めに切り上げてくれていたんだと今さら気づいた。
 一緒になってみると、会う約束がないから残業もし放題だ。光彦さんが帰宅するのはだいたい午後九時くらい。残業しすぎると仕事ができない奴だと思われると言っていたのは外資ならではかもしれないけれど、それでもそんな時間になるんだな、なんて、基本的に定時上がりの私は少しギャップを感じる。 
 でも、家族になるって、ウキウキしてばかりじゃいられないし、まあこんなもんだよね。
 空いた時間を前向きに考えることにして、思いついたのが料理教室だった。ずっと実家暮らしだったから、自炊以前に献立すら、あんまり自信がない。
 新しい料理のレパートリーが増えると、土日に作るのが定番になった。まだ慣れない私は作るのに時間がかかるけど、光彦さんは何も言わずに待っていてくれて、ときどき手伝うと言ってくれて、できあがれば嬉しそうに食べてくれる。
 ただ美味しい、と言うだけでなくて、こうするともっと旨そうだなとか、味が濃いとつまみによさそうとか、お店の開拓が趣味だと言うだけあって一言くれるのが結構ありがたかった。

 一方、結婚式の準備は、私が着々と進めた。日にちはやっぱり七夕にしよう、と言うと、光彦さんはあきれた顔をしながらも否定しなかった。
 幸い次の七夕は土曜だ。また曇りかもしれないけれど、もう織姫と彦星の逢瀬に想いを馳せて切なくなることはないだろう。
 だって、きっと二人は、雲の上でこっそり会っているのだろうから。それも頻繁に。光彦さんが何の気無しに口にしたそんな話が、今はとっても気に入っている。
 結婚式場も会場セットも演出も、光彦さんは「任せる」と言った。
「ただし七夕のコスプレはしないぞ」
 と半眼で釘をさされ、ち、とわざとらしく言うと、額を小突かれる。
「似合うと思うんだけどなぁ。牽牛コス」
「お前の織姫コスだけにしろ」
 こんなことで言い合ってもと思い、とりあえず承ったけれど、私はあきらめていない。結婚式が駄目でもどうにか一度は。いい方法を考えよう。
 一人、拳を握って誓うのだった。

 * * *

 ゲストで誰を呼ぶかを決めるとき、まず互いの血縁者からリストアップしていた私はふと手を止めた。
「どうした?」
 光彦さんがそれに気づいて首を傾げる。
 私は大学のときの友達の名前を書きながら、うん……と頷いた。
「……こういうのって、呼ぶの、マナー違反かなぁ」
「誰を?」
 言いながら私の手元を見た光彦さんは、ああ、と苦笑した。
「津田ちゃんだっけ?」
「うん……」
 大学では、基本的に四人でつるんでいた。一人だけ呼ばない、というのはおかしいと思うけど、津田ちゃんの思いを知っている今となっては呼ぶのはためらわれる。
 どうしようと頭を悩ませていると、
「あんまり気にしないでいいじゃないの」
 さらりと言った。
「元カレ元カノでも呼ぶ人はいるし、行く人もいるし。結婚式に呼びたいくらい大切な友達なんだってことだろ。来るかどうかは相手次第だけど、嫌な気持ちにはならないんじゃないか」
 光彦さんの言葉に、私はちらりと目線を上げる。
「手紙とかメールだと相手の様子が分かりにくいなら、電話してみるとか、会ってみるとか、してもいいし」
 言いながらお茶を飲むと、私の視線に気づいて目を上げた。
「何だ?」
「ううん。ヤキモチとか妬かないの?」
「何でだよ」
 光彦さんは笑って私の頭に手を伸ばした。
「お前はここに戻って来るんだろ。だったら妬く必要ないじゃないか」
 私は微笑んで頷いた。
「光彦さんは? 誰を呼ぶの?」
「あー。そうだなぁ」
 首を傾げつつ、考える。
「高校大学の友達と……まあ、マーシーんとことジョーんとこかな」
「上司は?」
「呼んでもいいけど呼ばなくてもいい。演出どうしたいかで考えるよ」
「そっか」
 言って私はリストに書いていく。
「アヤノさんとヨーコさんもってことだよね?」
「うん」
 光彦さんは頷いて笑った。
「お前は妬かないの?」
「え? 何に?」
「橘。呼んでもいいの?」
 私は目をまたたかせて首を傾げた。
「……何で?」
 光彦さんは噴き出した。
「だって、アヤノさんを好きだったの、昔の話でしょ」
「まあな」
「告白したわけでもないんでしょ」
「そうだけど」
「これからも、家族ぐるみでつき合って行きたいんでしょ」
「うん」
「なら、いいじゃない」
 私は言いながら名前をリストアップした。
「私も、アヤノさんのこと好きだし」
 光彦さんは笑う。
「あ、そう。ならよかった」
 光彦さんは言った後、ふと思い出すように遠い目をした。
「……もう一人、いるんだけど……未婚女性だと唯一になるから、嫌ならやめる」
「そんな、気にしなくても。誰?」
「江原っていう奴。会社の後輩」
 少し気遣わしげな光彦さんの表情がおかしくて、私は笑った。
「呼んで。光彦さんの大事な友達なら、私も会いたい」
 光彦さんはほっとしたように微笑んだ。
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