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第三夜 帰宅途中ひったくりに襲われた結果。
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安斎さんは私を抱いた後、また身体を労るように手を当ててくれた。
「すみません……痛くなかった?」
「痛くは……ないです」
痛くはないですが。
困ったことに……大変、気持ち良かったです。
今まで経験したことのなかったモノの圧迫感は、正直一瞬苦しかったのだけど、それを超えると快感がすさまじかった。
内側を全て、マッサージされているみたいで。
そんな自分の脳内コメントが卑猥すぎて赤くなる。
私を見た安斎さんが笑った。
「どうかした?」
穏やかなバリトンが耳元で囁く。
うっは。
いつもよりもカジュアルな声かけに思わず萌えた。
「安斎さんの声……」
「はい?」
「暗闇で聞くと破壊力が……」
「破壊力?」
安斎さんはくすりと笑った。
知らぬ間に向きだしにされた私の肩や背中を、厚みのある手でさすってくれる。
温かなその手が気持ち良くて、眠ってしまいそうだった。
「小絵さんの声も」
安斎さんは静かに言った。
「可愛かったですよ、すごく……。もう、忘れられないだろうな」
「や、やめてください……」
気恥ずかしさで爆発しそうだった。
真っ赤になった顔を枕に埋める。
安斎さんはくすくす笑って、私の耳寄りの頬に唇を触れた。
「小絵さん」
しまった。守るべきは顔じゃなくて耳だった。
気づいたが時既に遅し。安斎さんは私の耳元で静かに囁く。
「いつでも、解してあげますから……疲れたときでも寂しいときでも、呼んでくださいね」
安斎さんは、両手でやわやわと私の身体に触れる。
その温もりから優しさを感じて、ほう、と息をつく。
「眠ってもいいですよ。……鍵、かけて帰りますから。おやすみ、小絵さん」
まぶたがだんだん重くなってきて、遠くから安斎さんの美声が聞こえる。
この声に、毎日おやすみなんて言われたら……
愛を囁かれたら……
幸せ、かも……
引ったくりに遭った緊張から気が緩んだこともあるだろう。
意識は案外あっさりと、フェードアウトしていった。
翌朝起きてみると、安斎さんはもういなくなっていた。
机の上には連絡先を書いたメモが置いてあった。すごく綺麗な優しい字は女性的だったけど、安斎さんの人柄が感じられた。
鍵はドアポストに入れておきます、とあったので、ドアポストを開けると確かに鍵が入っていた。
それを回収してまた机に戻る。
メモを手に取ると、ため息をついた。
もう、枯れかけていると思っていた矢先に。
ヒモノ女になるんだといっそ決意すら固めようとしていた矢先に。
机には昨夜彼が開けた箱があった。
私は思わず頭を抱え、安斎さんが置いて行ったメモを手に取る。
とりあえず、連絡先の登録だけでも……
いやでも、それなら助けてくれたお礼を一言……
思って、とりあえず当たり障りのないメッセージだけを送ることにした。
【昨夜はお世話になりました】
安斎さんからの返事はすぐに来た。
【こちらこそ、お邪魔しました】
という簡潔な文章と、お辞儀する絵だった。
「すみません……痛くなかった?」
「痛くは……ないです」
痛くはないですが。
困ったことに……大変、気持ち良かったです。
今まで経験したことのなかったモノの圧迫感は、正直一瞬苦しかったのだけど、それを超えると快感がすさまじかった。
内側を全て、マッサージされているみたいで。
そんな自分の脳内コメントが卑猥すぎて赤くなる。
私を見た安斎さんが笑った。
「どうかした?」
穏やかなバリトンが耳元で囁く。
うっは。
いつもよりもカジュアルな声かけに思わず萌えた。
「安斎さんの声……」
「はい?」
「暗闇で聞くと破壊力が……」
「破壊力?」
安斎さんはくすりと笑った。
知らぬ間に向きだしにされた私の肩や背中を、厚みのある手でさすってくれる。
温かなその手が気持ち良くて、眠ってしまいそうだった。
「小絵さんの声も」
安斎さんは静かに言った。
「可愛かったですよ、すごく……。もう、忘れられないだろうな」
「や、やめてください……」
気恥ずかしさで爆発しそうだった。
真っ赤になった顔を枕に埋める。
安斎さんはくすくす笑って、私の耳寄りの頬に唇を触れた。
「小絵さん」
しまった。守るべきは顔じゃなくて耳だった。
気づいたが時既に遅し。安斎さんは私の耳元で静かに囁く。
「いつでも、解してあげますから……疲れたときでも寂しいときでも、呼んでくださいね」
安斎さんは、両手でやわやわと私の身体に触れる。
その温もりから優しさを感じて、ほう、と息をつく。
「眠ってもいいですよ。……鍵、かけて帰りますから。おやすみ、小絵さん」
まぶたがだんだん重くなってきて、遠くから安斎さんの美声が聞こえる。
この声に、毎日おやすみなんて言われたら……
愛を囁かれたら……
幸せ、かも……
引ったくりに遭った緊張から気が緩んだこともあるだろう。
意識は案外あっさりと、フェードアウトしていった。
翌朝起きてみると、安斎さんはもういなくなっていた。
机の上には連絡先を書いたメモが置いてあった。すごく綺麗な優しい字は女性的だったけど、安斎さんの人柄が感じられた。
鍵はドアポストに入れておきます、とあったので、ドアポストを開けると確かに鍵が入っていた。
それを回収してまた机に戻る。
メモを手に取ると、ため息をついた。
もう、枯れかけていると思っていた矢先に。
ヒモノ女になるんだといっそ決意すら固めようとしていた矢先に。
机には昨夜彼が開けた箱があった。
私は思わず頭を抱え、安斎さんが置いて行ったメモを手に取る。
とりあえず、連絡先の登録だけでも……
いやでも、それなら助けてくれたお礼を一言……
思って、とりあえず当たり障りのないメッセージだけを送ることにした。
【昨夜はお世話になりました】
安斎さんからの返事はすぐに来た。
【こちらこそ、お邪魔しました】
という簡潔な文章と、お辞儀する絵だった。
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