32 / 100
本編
31
しおりを挟む
「はー。ごちそうさま。美味しかった」
「お粗末さま」
手を合わせ、食器を手に立ち上がるあゆみと共に、冬彦も立ち上がった。
「あ、いいよ。片付けるから」
「いや、俺がやるよ。先に風呂入ったら。女性の方が時間かかるし」
「えっ……あ、うん……」
あゆみがうろたえて目をさまよわせた。冬彦はその戸惑った表情に微笑み、頬に手を添える。
「何、緊張してんの」
「いや……別に」
あゆみは答えて、上目遣いで冬彦を見上げた。
「……あの。ほんとに、泊まるの?」
「え、今さら?」
冬彦があゆみを見つめて言うと、あゆみはぐっと喉の奥で呻いた。またしても目をさまよわせ、顔を赤く染めてうつむく。
「……だ、だって……」
冬彦は笑った。あゆみの髪をそっと撫でる。
「冗談だよ。ほんとに嫌ならネカフェかどっか行くけど?」
「ね、ネカフェって……学生じゃあるまいし」
あゆみが批難するように眉を寄せた。
「別に男一人ならどこででも大丈夫だよ。人のことあんまり気にすんな」
冬彦は微笑みながらあゆみの両頬に手を添え、顔を近づけた。
「あゆみが嫌なことはしたくない。だから気にせず言って」
冬彦の囁くような声音に、あゆみは動揺して目をさまよわせた。
「……嫌、じゃないけど……」
「ないけど?」
「……その……やっぱり、そういうこと、する?」
目を合わせないあゆみを見下ろし、冬彦は数度まばたきをする。
沈黙の気まずさにあゆみが目を泳がせ始めたのを見て、冬彦は笑った。
そっと肩を抱き寄せる。
「あゆみがしたくないなら、しない。したいなら、する」
「……そこに、小野田くんの意思は……?」
「んー。この前痛い思いさせたから、俺の意思は二の次」
言いながら、あゆみの髪を指先でたどった。
「でも、今度するときは、ちゃんと気持ち良くしてあげるよ。二度と痛い思いはさせない」
あゆみが冬彦の肩に額を乗せ、服の裾をつまんだ。
「……いや、じゃないよ」
蚊の鳴くような声で、ぽつりと言う。
冬彦はその頭を抱きしめた。
「……無理しなくていいんだよ」
「してない……」
あゆみは言って、おずおずと冬彦を見上げる。
「……痛く、しないんでしょ?」
冬彦は微笑んだ。頬にキスをし、耳元に口を寄せる。
「しないよ。約束する」
あゆみは照れて冬彦の胸に顔をうずめた。
冬彦は頭を数度撫で、首筋に口づけようと顔を寄せる。
それを察して、あゆみが慌てた。
「お、お風呂! 汗まみれだから!」
「……別にいいのに」
「さ、さっきしょっぱいって言ったじゃない!」
「ただ感想を述べたまでだよ。嫌だとは言ってない」
「わ、私がやだ!」
あわてふためいて冬彦の腕から逃れたあゆみは、浴室へと向かった。浴室といっても、単身世帯によくあるバストイレ一体型だ。
「あ。と、トイレ行くなら今どうぞ」
「んー、大丈夫。後で行くから。覗きついでに」
「こらっ!」
あゆみが慌てる様を見て冬彦は笑う。
「冗談だよ。鍵、かかるんだろ」
「か、かかるけど……」
「じゃあかければいいじゃん。そしたら俺入れないし」
「……と、トイレ行きたくなったら……?」
「子どもじゃあるまいし、我慢するよ」
冬彦は笑って、あゆみの背中を軽く押した。
「ゆっくり入っておいで。俺のことは気にしなくていいから」
冬彦の言葉に、あゆみは頬を赤く染めたまま、こくりと頷いた。
* * *
あゆみの後、冬彦がシャワーを借りた。
翌日着るつもりだったTシャツを身にまとって浴室から出てくると、あゆみが広げた資料をかたづけている。
「あんまり動くとまた汗かくぞ」
「えっ……あ、うん」
冬彦の言葉にあゆみは頷いたが、そわそわと落ち着かない。
じっとしていられないのだろうと察して笑うと、冬彦はあゆみに近づいた。
あゆみの頬に手を伸ばし、親指でそっと撫でる。
あゆみは顔を赤くして目をさまよわせたが、自分から冬彦に近づくと、背中に手を回した。
あゆみの柔らかい抱擁を受け止め、冬彦は目を閉じる。
ゆっくりと髪を撫で、額に口づけた。
「……小野田くん」
「ん」
「私、どうしたらいいのか、わかんないけど……」
冬彦は笑った。
「何もしなくていいよ」
あゆみの目を覗き込み、冬彦は微笑む。
「あゆみは、ただ感じてくれればいい」
静かに囁いて、唇を重ねた。
「お粗末さま」
手を合わせ、食器を手に立ち上がるあゆみと共に、冬彦も立ち上がった。
「あ、いいよ。片付けるから」
「いや、俺がやるよ。先に風呂入ったら。女性の方が時間かかるし」
「えっ……あ、うん……」
あゆみがうろたえて目をさまよわせた。冬彦はその戸惑った表情に微笑み、頬に手を添える。
「何、緊張してんの」
「いや……別に」
あゆみは答えて、上目遣いで冬彦を見上げた。
「……あの。ほんとに、泊まるの?」
「え、今さら?」
冬彦があゆみを見つめて言うと、あゆみはぐっと喉の奥で呻いた。またしても目をさまよわせ、顔を赤く染めてうつむく。
「……だ、だって……」
冬彦は笑った。あゆみの髪をそっと撫でる。
「冗談だよ。ほんとに嫌ならネカフェかどっか行くけど?」
「ね、ネカフェって……学生じゃあるまいし」
あゆみが批難するように眉を寄せた。
「別に男一人ならどこででも大丈夫だよ。人のことあんまり気にすんな」
冬彦は微笑みながらあゆみの両頬に手を添え、顔を近づけた。
「あゆみが嫌なことはしたくない。だから気にせず言って」
冬彦の囁くような声音に、あゆみは動揺して目をさまよわせた。
「……嫌、じゃないけど……」
「ないけど?」
「……その……やっぱり、そういうこと、する?」
目を合わせないあゆみを見下ろし、冬彦は数度まばたきをする。
沈黙の気まずさにあゆみが目を泳がせ始めたのを見て、冬彦は笑った。
そっと肩を抱き寄せる。
「あゆみがしたくないなら、しない。したいなら、する」
「……そこに、小野田くんの意思は……?」
「んー。この前痛い思いさせたから、俺の意思は二の次」
言いながら、あゆみの髪を指先でたどった。
「でも、今度するときは、ちゃんと気持ち良くしてあげるよ。二度と痛い思いはさせない」
あゆみが冬彦の肩に額を乗せ、服の裾をつまんだ。
「……いや、じゃないよ」
蚊の鳴くような声で、ぽつりと言う。
冬彦はその頭を抱きしめた。
「……無理しなくていいんだよ」
「してない……」
あゆみは言って、おずおずと冬彦を見上げる。
「……痛く、しないんでしょ?」
冬彦は微笑んだ。頬にキスをし、耳元に口を寄せる。
「しないよ。約束する」
あゆみは照れて冬彦の胸に顔をうずめた。
冬彦は頭を数度撫で、首筋に口づけようと顔を寄せる。
それを察して、あゆみが慌てた。
「お、お風呂! 汗まみれだから!」
「……別にいいのに」
「さ、さっきしょっぱいって言ったじゃない!」
「ただ感想を述べたまでだよ。嫌だとは言ってない」
「わ、私がやだ!」
あわてふためいて冬彦の腕から逃れたあゆみは、浴室へと向かった。浴室といっても、単身世帯によくあるバストイレ一体型だ。
「あ。と、トイレ行くなら今どうぞ」
「んー、大丈夫。後で行くから。覗きついでに」
「こらっ!」
あゆみが慌てる様を見て冬彦は笑う。
「冗談だよ。鍵、かかるんだろ」
「か、かかるけど……」
「じゃあかければいいじゃん。そしたら俺入れないし」
「……と、トイレ行きたくなったら……?」
「子どもじゃあるまいし、我慢するよ」
冬彦は笑って、あゆみの背中を軽く押した。
「ゆっくり入っておいで。俺のことは気にしなくていいから」
冬彦の言葉に、あゆみは頬を赤く染めたまま、こくりと頷いた。
* * *
あゆみの後、冬彦がシャワーを借りた。
翌日着るつもりだったTシャツを身にまとって浴室から出てくると、あゆみが広げた資料をかたづけている。
「あんまり動くとまた汗かくぞ」
「えっ……あ、うん」
冬彦の言葉にあゆみは頷いたが、そわそわと落ち着かない。
じっとしていられないのだろうと察して笑うと、冬彦はあゆみに近づいた。
あゆみの頬に手を伸ばし、親指でそっと撫でる。
あゆみは顔を赤くして目をさまよわせたが、自分から冬彦に近づくと、背中に手を回した。
あゆみの柔らかい抱擁を受け止め、冬彦は目を閉じる。
ゆっくりと髪を撫で、額に口づけた。
「……小野田くん」
「ん」
「私、どうしたらいいのか、わかんないけど……」
冬彦は笑った。
「何もしなくていいよ」
あゆみの目を覗き込み、冬彦は微笑む。
「あゆみは、ただ感じてくれればいい」
静かに囁いて、唇を重ねた。
0
お気に入りに追加
394
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
奥手な羽野君の素顔〜性欲が爆発してキスしたらなぜかキスを返されました〜
AIM
恋愛
どこにでもいる普通の女子高校生、結城凛。容姿、運動神経、学力ともに秀でたところは何も無いのに、性欲だけがちょっと強いせいで悶々とした日々を送っている。そんなある日、図書館でよく見かけていた地味で優秀な同級生、羽野智樹に弾みでキスしてしまう。ドン引きされたと思って身構えていたらなぜかキスを返されて、しかも、翌日もう一度キスされたと思ったら家に誘われてしまい……。
奥手(?)な男子高校生×性欲に振り回される女子高校生の身体から始まる恋物語。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる