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21 それから
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「東ー。あーずま。起きてよー。今日、映画行くって約束じゃん」
「んんー……」
夜型の東は、相変わらず朝に弱い。こんなんで、この春からお勤めできるのか心配だ。
「東ぁ」
大学卒業後院に行った東よりも一足早く、私はアパレル系の会社に就職した。今は百貨店で服の販売をしている。
大学は東の方が先輩だったけど、社会人の先輩は私だ。毎日勤めることの大変さを身をもって経験している。
研究室に入り浸っている東は、私が早番のときだけは少し早めに帰ってくる。大学在学時は最低でも隔日でしていたセックスも、今は週に2度あるかないか。お互い疲れているから仕方ない。
避妊をせずに行為をしたあの後、東は私の両親と、自分の親を集めて話をしてくれた。
私がアパートの住民に強姦されそうになったこと。
実は春からつき合い始めていること(そこで私は首を傾げそうになったけど、机の下で手をつねられて、「あ、そうか。セックスしたときからつき合ってるってことにしたのか」と気づいた)。
そしてーーいずれ、結婚を考えていること。
どっちの両親も驚いていたけれど、「同棲を許してほしい」と言う東の決意は固かった。院には行きたい。けど、今のままでは陽菜が心配だ。必ず安定したところに就職して、陽菜と2人で暮らす稼ぎは得る。だから同棲させて欲しい。
あまり口数が多くはないけれど、言ったことは頑として曲げない東のことを、一番よくわかっているのは東の両親だ。
私の両親の表情をうかがいながら、「うちは異論ないですが」と困惑顔。
うちの親も、「東くんがもらってくれるなら安心だ」とむしろ安堵顔。
そんなわけで、その冬頃から同棲し始めている。
すっかり布団にくるまった東を見て、私はため息をついた。
「……東ってば。約束守んないと、見限っちゃうよ」
唇を尖らせてみたとき、布団の中から伸びた手が私を引き寄せ、転がす。
「わ」
「やだ」
上に乗られて抱きしめられて、東の香りに包まれて、じたばたした。
「待ってよ。冗談だよ」
「やだ。陽菜、行っちゃやだ」
ぎゅぅと抱擁の合間に、さりげなく硬いそれを押し付けられている。
や、やだやだっ、デートのつもりで小ぎれいな恰好したのにっ。
「東っ、映画っ」
「んー……」
くんくんと鼻を動かして、東がようやく目を開く。
「……陽菜、いい匂いする。香水?」
「あ、うん……職場で買って」
社員割引が使えるから、ついついあれこれ買ってしまうのだ。新しい香水はフローラルな甘さと柑橘系のさわやかさを感じる匂い。冬から春に向かうこれからの季節にちょうど良さそうな軽やかな香だなと思って選んだ。
「……いい匂い……」
「ちょっと! こら! 何を押し付けてるのよ!」
「だって、陽菜がいい匂いだからいけない……」
モゴモゴと半分口の中で呟きながら、私の身体をまさぐる。
「はぁ……好き……陽菜……」
私を抱きしめたまま幸せそうに呟かれては、邪険に振り払うこともできない。
仕方ないなぁ……
柔らかい東の髪を撫でて、頬にキスをする。東が鼻面を伸ばしてきて、ちゅ、と唇に触れるだけのキスをする。
「……だから待ちなさいって! 映画! 駄目!!」
さりげなーく服の裾を割って入ってくる手を上からたたくと、東が唇を尖らせた。
「陽菜、冷たい」
「冷たくない! 私はセフレじゃない!」
東ははっとした顔で、むくりと起き上がった。
「うん、セフレじゃない。行こう」
「え、あ、うん……」
いきなりキビキビと動き出した東にうろたえていた私が立ち上がると、東がそっと耳元でささやいた。
「……帰ってきたら、いい?」
私は照れ臭さをごまかすようにため息をつく。
「仕方ないなぁ」
東は優しく微笑んだ。
FIN.
******
ご覧くださり、ありがとうございました!
「んんー……」
夜型の東は、相変わらず朝に弱い。こんなんで、この春からお勤めできるのか心配だ。
「東ぁ」
大学卒業後院に行った東よりも一足早く、私はアパレル系の会社に就職した。今は百貨店で服の販売をしている。
大学は東の方が先輩だったけど、社会人の先輩は私だ。毎日勤めることの大変さを身をもって経験している。
研究室に入り浸っている東は、私が早番のときだけは少し早めに帰ってくる。大学在学時は最低でも隔日でしていたセックスも、今は週に2度あるかないか。お互い疲れているから仕方ない。
避妊をせずに行為をしたあの後、東は私の両親と、自分の親を集めて話をしてくれた。
私がアパートの住民に強姦されそうになったこと。
実は春からつき合い始めていること(そこで私は首を傾げそうになったけど、机の下で手をつねられて、「あ、そうか。セックスしたときからつき合ってるってことにしたのか」と気づいた)。
そしてーーいずれ、結婚を考えていること。
どっちの両親も驚いていたけれど、「同棲を許してほしい」と言う東の決意は固かった。院には行きたい。けど、今のままでは陽菜が心配だ。必ず安定したところに就職して、陽菜と2人で暮らす稼ぎは得る。だから同棲させて欲しい。
あまり口数が多くはないけれど、言ったことは頑として曲げない東のことを、一番よくわかっているのは東の両親だ。
私の両親の表情をうかがいながら、「うちは異論ないですが」と困惑顔。
うちの親も、「東くんがもらってくれるなら安心だ」とむしろ安堵顔。
そんなわけで、その冬頃から同棲し始めている。
すっかり布団にくるまった東を見て、私はため息をついた。
「……東ってば。約束守んないと、見限っちゃうよ」
唇を尖らせてみたとき、布団の中から伸びた手が私を引き寄せ、転がす。
「わ」
「やだ」
上に乗られて抱きしめられて、東の香りに包まれて、じたばたした。
「待ってよ。冗談だよ」
「やだ。陽菜、行っちゃやだ」
ぎゅぅと抱擁の合間に、さりげなく硬いそれを押し付けられている。
や、やだやだっ、デートのつもりで小ぎれいな恰好したのにっ。
「東っ、映画っ」
「んー……」
くんくんと鼻を動かして、東がようやく目を開く。
「……陽菜、いい匂いする。香水?」
「あ、うん……職場で買って」
社員割引が使えるから、ついついあれこれ買ってしまうのだ。新しい香水はフローラルな甘さと柑橘系のさわやかさを感じる匂い。冬から春に向かうこれからの季節にちょうど良さそうな軽やかな香だなと思って選んだ。
「……いい匂い……」
「ちょっと! こら! 何を押し付けてるのよ!」
「だって、陽菜がいい匂いだからいけない……」
モゴモゴと半分口の中で呟きながら、私の身体をまさぐる。
「はぁ……好き……陽菜……」
私を抱きしめたまま幸せそうに呟かれては、邪険に振り払うこともできない。
仕方ないなぁ……
柔らかい東の髪を撫でて、頬にキスをする。東が鼻面を伸ばしてきて、ちゅ、と唇に触れるだけのキスをする。
「……だから待ちなさいって! 映画! 駄目!!」
さりげなーく服の裾を割って入ってくる手を上からたたくと、東が唇を尖らせた。
「陽菜、冷たい」
「冷たくない! 私はセフレじゃない!」
東ははっとした顔で、むくりと起き上がった。
「うん、セフレじゃない。行こう」
「え、あ、うん……」
いきなりキビキビと動き出した東にうろたえていた私が立ち上がると、東がそっと耳元でささやいた。
「……帰ってきたら、いい?」
私は照れ臭さをごまかすようにため息をつく。
「仕方ないなぁ」
東は優しく微笑んだ。
FIN.
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