キミロマン

松丹子

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20 天使

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 陽菜がフェラに対して抵抗を感じていたことは知っている。
 元カレが下手だと言ったーーと聞いたからだ。
 だから、俺には今まで、させなかった。

 それでも、気恥ずかしそうに俺を見上げて、おずおずとペニスに口を寄せる健気さに、俺は何も言えなかった。ぺろり、と控えめに亀頭を舐めて、俺の顔をうかがい、ちゅぅ、と先端を吸って、またぺろりと舐める。
 その行為がもたらす刺激以上に、陽菜のその表情と、俺の前に裸で跪く視覚が刺激的だった。

「ひ、陽菜……やっぱ」

 いいからやめて、と言おうとして、陽菜が怯えたような目をしたのに気づいた。
 しまった。陽菜にとっては、下手だと言われたトラウマの行為なのだ。これでやめろと言っては、「やっぱり下手なんだ」と思わせることになる。

「な、なんでもない……」

 どうにかそう言うと、陽菜はほっとしたように微笑んだ。

 ああくそ、こんな卑猥な状況でその笑顔は反則だろ!

 心中の叫びに賛同するように、俺の屹立がぴょいんと跳ねる。
 陽菜はさして大きくない口で、一所懸命俺に奉仕してくれた。口の中に含み、裏を舐め、根本にキスをして、また口の中に入れーー

「っーー」

 奥まで入れるとえづくからだろう。口の中に含む長さが中途半端で、自然と腰が動きそうになる。陽菜の頭に手を添えて、もっと奥まで突き立てたい衝動に駆られる。けれどそうするわけにもいかない。手を伸ばしたくなる衝動をこらえ、片手をバスタブの縁に添えて体重を支えたまま、片手で自分の口元を覆う。

「……気持ちいい?」

 陽菜が上目遣いで見上げてくる。

 くっそ可愛い。エロい。ぶちこみたい。汚したい。たまんねぇ。

「……気持ちいい、よ」

 声が上擦りそうになるのを必死で抑える。
 陽菜が嬉しそうな顔をした。

 あーあーあー、なんだよくそ。
 さっきまで俺が翻弄していたはずなのに、すっかり陽菜に翻弄されている。
 それが無邪気だからこそ翻弄されるのだ。たまらなく可愛い。愛おしい。

「もっと、咥えた方がいいのかな」
「っ、ん、まあ、できたら」
「そっか……」

 ちゅう、ぺろ、と俺をしゃぶりながら、陽菜が言う。その吐息が俺にかかるのも、また甘やかな刺激になる。

「でも、うぇってなっちゃうからなぁ……」

 子どものような言いぶりに、俺の心中がかき回される。そういう無邪気さが陽菜の武器だ。丸い目が俺を見上げる。

「東、気持ちいいときとか、よくないときとか、教えてね?」

 うん、と曖昧に頷きながら、深呼吸する。落ち着かないと、今度こそ陽菜の中に欲望を突き立てて吐き出しかねない。さっきのような罪悪感を抱くのはもうごめんだ。彼女には彼女の人生があるのに、俺が一方的な、一見一時的な感情で奪ってはいけない。

「っ、陽菜……」
「うん、ん?」

 俺を咥えたまま、陽菜が首を傾げる。とにかくエロい。

「あの……奥まで咥えるの、辛ければ……む、胸とか」

 ためらいながら口にする。あの豊かな胸でこすり上げれたら、見た目だけでもイケそうな気がする。
 ……そうだ、早く終わらせてしまおう。いずれにせよこのままというのは辛い。ぶち込みたくなるけどゴムもない。持って入ればよかったと後悔すらしている。

 陽菜は恥ずかしそうに、俺のそれに胸を寄せた。

 想像以上の弾力に思わず視線をさまよわせる。バスタブをたたき続けるシャワーに濡れた陽菜の胸が、俺の先走りでさらにぬめって、不器用に上下する。

「……どうかな?」

 見上げる陽菜の丸い目を見て、「うん」と余裕なく答える。控えめに言って最高。そんな答えを心中で呟き、弾んできた息を吐き出す。
 ゆるゆると、陽菜の胸が俺を挟んで行き来する。刺激が緩やかすぎて、もうちょっと……こう……物足りない。

「陽菜……あの」
「なに?」

 頬が紅潮しているのは恥ずかしいからか、一所懸命が故か、はたまたバスルームの温度のせいか。
 そうだ、おちおちしていたら二人してのぼせてしまう。

「ごめん……やっぱり、口……借りていい?」
「ん、うん」

 陽菜は覚悟したように頷いて、俺の屹立から胸を離すと、「いくよ」と口を開いた。

「ちょっとだけ……我慢して」
「んっ」

 俺を咥えた陽菜が頷く。俺は陽菜の頭を抱えて、自分を抜き差しする。陽菜が苦しそうな顔をする。

「ごめん、陽菜……ちょっと我慢してね」
「んっ、ぅぐっ……」

 ああ、ごめん。でも、気持ちいい。
 背徳感と罪悪感が快感を増幅させる。
 陽菜がぎゅうと目をつぶる。顎が疲れたのか、歯が当たりそうになる。

「陽菜っ……陽菜っ、もう」

 いいよ、と腰を引こうとしたら、陽菜が俺の腰に手をかけた。

「待っ、出るっーー!」

 えづきながら、陽菜が俺のそれを咥え込む。
 う、と呻きながら、陽菜の口に欲望を吐き出した。
 シャワーが変わらずバスタブをたたき続けている。

「っ、はぁ、っはぁっ……」

 陽菜が俺から口を離すと、変な顔をした。

「変な味」
「ったり前ーー」
「東の味」

 陽菜がぺろりと、唇を舐める。
 赤い舌が、桃色の唇を濡らす。

「これが、えっちな味ね?」

 さっき俺が口にしたセリフを、その可愛い口でーー
 くそっ。
 俺は陽菜を抱きしめて唇を吸う。その途端、眉を寄せた。

「……まっず」
「あはははは」

 陽菜は笑う。明るく。無邪気に。
 俺もつられて笑った。

 裸で、シャワーにたたかれながら、明け透けに笑うこの天使がーー

 俺の、唯一。
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