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2章
108:《魔闘士》の弟子
しおりを挟む獣の鳴き声が夜の森に木霊する
日は沈みきり、真上に上った月が淡い光で世界を照らす
月明かりの綺麗な夜の中、ある男が1人、城のテラスにて外を眺めながらワイングラスを傾けていた
綺麗な銀の髪、真紅の瞳、僅かに見える歯は数本が鋭く尖っている
男はただ静かに、ワインを飲みながら
空を見上げる
その端整な顔立ちや怜悧な瞳からはなんの感情も読み取ることは叶わないだろう
空を仰ぎ見るその男の瞳には
暗い夜空に浮かぶ
3つの小さな月が映るだけだった
~~~~~~
あの女の頭の中を見て、捕まっている人達を助けに行ったのが深夜
俺たちは今、馬車に揺られ王都に向かっていた
生きたいと願う人は居なかった。誰もが殺してくれと、そう願った。瞳に光は無く、体は痩せこけ、汚れていた。せめて、痛みが無いようにと俺は一瞬で終わらせた
守るべき者達を俺は、自ら手に掛けたのだ。仲間をこの手で殺したのだ
あの時から、彼を殺した時から、自問が止まらない
あれは本当に最善だったのか、本当に助けられなかったのか、殺す必要なんて無かったんじゃないのか、後悔と悔恨の渦に捕まってしまった
それに、覚悟はしていたんだ。けど、そんな物は何の役にもたっていない
「酔ったの?」
「酔ってないよ、イヴ。大丈夫だから」
「そう」
そんな悲しそうな顔しないでくれよ胸がもっと痛くなる
「クウガはラキアに会えなくて寂しいだけだぞ~」
ソウマの何時もの悪ノリ
「ヒューヒュー! アッツアツ!」
乗っかるイヴ
「あっ、あっつあつ?」
フレッドまで……
でも
「そうかもしれないね」
賑やかさは拡散し、王都に到着するまで、馬車の中では車輪と蹄の音のみが聞こえていた
王都に到着するとフレッドやイヴが少しばかり元気になって馬車の中も明るくなった
馬車の乗り合い場所にて降り、徒歩で王城に向かった。門は顔パス、と言っても正式なものではないので裏口からだ。連絡は既にしてあるのでキルトさんの待つ部屋へ向かう
「い、今から、お、王様と会うんだよね? 緊張してきたんだけど」
「もう、ウチの彼氏なんだからしゃんとしてよね!」
フレッドが緊張した様子を見せるとイヴが言葉はいっちょまえな様子で返す。けれどイヴ、手と足の動きが一緒になってるよ
そんな2人を連れ添って俺とソウマは慣れた足取りで進んで行く
王城の廊下なので絵画やら壷やらが一定の間隔で並べられている。正直な話、そちら方面の知識や興味はない為価値は分からないが、前に値段を聞いたときはびっくりしたものだ
向かう部屋は8階にあるので、魔力で動く昇降箱に乗り込む
この昇降箱。とても便利で階段を上る労力と手間が省ける。実はこれを作ったのは弟のリンガであったりする。聞けば、アイデアは師匠が出して作成された様なので師匠の前の世界にあったものなのだろう
「「おお~」」
この箱が移動する時に感じるふわふわっとしたものを感じたのだらう。フレッドとイヴが驚きと戸惑いの混じったような声を出す。イヴは「エレベーター……」だなんて小さい声で呟いていた
昇降箱が8階に到着し、箱から出て廊下をまた進めば目的の場所だ
コンコン 「入れ」
「「「「失礼します」」」」
「おう、来たな2人とも。それちらの2人は初めましてか、俺が国王のキルトディア・アルメキアだ」
座っていた執務机から立ち上がり自己紹介をするキルトさん
「フレッドです!」
「イヴです!」
「そう緊張するな、今は公式の場ではないからな。では移動するぞ」
そうキルトさんは言うとせっせと歩き出した
「え? ちょっ、キルトさん報告は? それにどこに行くんですか」
報告の為に早く戻ってこいって言われたから来たのに。いや、報告なら魔道具で十分したんだけど
「それはもう魔道具で十分受けた。あいつが練兵場で待っとる」
うわ、嘘つかれた。この人、師匠と同じで平気で嘘つくからな~。それと練兵場?
「あいつって?」
ソウマが聞く
「お前達の師匠だよ」
~~~~~~
冒険者ランク
それは強さを表す為の最も一般的な指標
その中でも最強を意味するランクSSS
1個人が1国家戦力を凌駕する戦闘能力を有している事を簡潔に表している
そんな化物達の中でも最強と呼ばれる人物がいる
それが、《魔闘士》アイト コウヅキ
彼の伝説や噂話は大量にある。その一撃は大地を割り、その速さは竜を上回る。その眼は真実を見抜き、悪事を暴く。魔王でさえ敵わぬ最強の男。誰もが一度はその名を耳にし、尊敬や畏怖を集める
そんな生きる伝説が王城の練兵場にて模擬戦を行うという。相手は彼の弟子。息子ではなく弟子だ
彼の数ある噂話のうちで、今最も注目されている事柄だ。彼の息子も弟子同然だが、息子とは別にもう1人存在するという噂が数面前から広まっていたのだ。やれ王都から居なくなったのは弟子をとったからだ、やれ世間に姿を現さなくなったのは弟子を鍛えているからだと。実際の所それは事実であったのだが、殆どの者は知らなかった。知っていたのは国王、各騎士団長のみ
何故、弟子を取ることにそこまで騒ぐのか。理由は単純な事だ。最強と言われるほどの男の弟子、それが弱い訳がない。それともう一つ、彼は弟子を取らない事でも有名であったのだ。それ故に世間は注目した
邪神が完全に復活を果たした事が確認されてから20年。邪神の完全な復活をもって魔王が増え、魔物が増え、堕神が天災の如くに力を行使する時代。誰もが苦しみ助けを求める。世界は英雄の誕生を望んでいるのだ
~~~~~~
練兵場の周り、それから練兵場を上から見ることの出来るテラスには人が大勢集まっていた
ふだんの訓練時にも此れだけの人は集まらない
何故、これだけの人が集まっているのか、此処で何があるというのか
それは練兵場の真ん中にて立つ男に関わりがあった。アイトである
アイトは中央で腕を組み入り口を見据えている
王城内の者達に王より通達があった
「これより《魔闘士》とその弟子の模擬戦を行う。見学したい者はテラスか練兵場の周りに集まるが良い。ただし、職務が有るものは職務を全うすること」
職務時間であった者は涙を流して悔しがり、職務時間外だった者はこれないものに嫌味を言うのも忘れて練兵場へ走り出した
勿論、アイトの戦いを見れるからであるのだが、その弟子であるクウガの戦いも見たいからだ
アイトの息子であるソウマの実力は王城内では知られ、認められている。ソウマは偶に訓練に付き合っていたり、ベドラグアとの戦いを見ていたからだ
だが、クウガはそうではない。勿論、クウガも王城にはそれなりに来ているし、仲良くなった兵士や騎士もいる。その為、クウガがアイトの弟子だということはこの王城内であればそれなりに知られているのだ。しかし、クウガはこの王城にて力を見せたことはない。それ故に皆気になっている。更に一部の者、ソウマと特に親しい者達はクウガのことをソウマから直接聞いていたりする
曰く。あいつは俺より強く、天才であると
彼等からすれば、ソウマも天才なのだ。そんな存在が天才だと、顔に憧れを浮かべながら言うのだ。気になる、気にならないはずがない
そして、クウガが王と共に練兵場に現れた
貫禄を見せつける王と共にいるというのにその存在感は微塵も薄れてなどいない
多く視線が注がれる中、師弟は言葉を交わし、距離を取る
両者が構えを取り、離れた場所に位置だった王が開始の合図を告げた
「始め!」
友が、王が、騎士が、兵士が見守る中、後に大きな話題となる戦いが
今、始まった
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