Heroic〜龍の力を宿す者〜

Ruto

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2章

101:希望の旗印

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「クウガ、王都にいるはずじゃ……」

た、確かダンジョンを攻略したら王都に行くって

「その話は後」

体が光り、痛みや疲労が消える

クウガがハイヒール使ってくれたのだろう

「行けるね。街の人を連れて避難して」

ここにいたら邪魔なんだ。あの強さの敵は今の僕にはどうしようもない。だから今は……

「! 、クウガ! 海にも魔物が!」

そうだ、ガルドさん達が

「大丈夫、そっちにはソウマが向かったから」

ギィン!

スケイルメイルの男の持つ斧がクウガによって弾かれる

「行け!」

その声で僕は駆け出した

武器と武器がぶつかり合って生まれる、激しい戦いの音を聞きながら

助かった安堵と悔しさを胸に 




~~~~~~




「推進装置がやられた!」

悲痛な叫びが船上に響き渡る

「も、もう、お終いだ!」

「お、俺は逃げるぞ」

「こうなったら一か八かで……」

時間を稼ぐという目的で戦闘を行ってきたが、その中で最も重要な役割を担っていた船を進ませるための装置が魔物の攻撃によって破壊された

機動力があったからこそ、今まで何とか戦えていたのだ

つまり、機動力は心の支え

それを失い、統制が効かなくなる一歩手前

「狼狽えるな!」

そこで放たれた一喝

「移動手段は残してある! 離脱するぞ! 活路を開く、魔道砲と魔術の用意を!」

ガルドである

死なない為に。それだけを考えて、この作戦を実行したのだ。保険は何重にも掛けていたのだ

現状においてこれ以上がないであろう指示を飛ばすガルド。しかし彼の内心は不安で埋め尽くされていた

Sランク魔物である水竜の襲来という緊急事態。更にはこのタイミングでの街中の爆発音と煙

今、大切な家族を守る為に戦っている

しかし、こことは別の場所。煙が立ち上った領主館。そこには彼の大切な娘が避難していた。直ちに駆けつけたい。けれども現状がそれを許してくれない

ここを投げ出せばどの道ピンチになってしまうのだ。家族は大事だ。だけど、この街の人達もガルドにとっては大切な繋がりだった

カターン

不意に音が聞こえた

音の方向を見れば、青い顔をして口元を抑えるヒルデ。その手には握られているはずの杖がなかった。杖を落としたことで音が鳴ったのだろう

たが、今重要なのは音が何故鳴ったかではない

何故、ヒルデが戦いの最中に武器を落としたのか。そこが重要なのだ

そして、その答えはヒルデの視線の先

海竜の向こう側

今まで自分達が戦っていた水竜よりも4倍以上大きい水竜。更に、その水竜はある特徴を持っていた

「水竜王」

誰かがそう呟いた

竜/龍種には様々な種類がある

とりわけ、竜種に絞ると

亜竜、幼竜、成竜、古竜

そして、竜王である

亜竜はワイバーンなどの竜に近しい魔物

幼竜から古竜は生きた年月

竜王は各種の最も強き竜。証を持つもの

証とは刻印

王には何処かしらに刻印が刻まれるのだ

そして、巨大な水竜は証たる刻印を持っていた

希望が消えたのを全員が理解した

可能性など万に1つも無かったのだと

自分達が必死こいて頑張っていたのは、文字通り無駄な足掻きでしか無かったのだと

絶望を前にして腰が抜けるもの、泣き崩れるもの、逃げようとするも足がすくんで動けないもの、反応は様々だ

そんな中、ガルドは生きる為に、思考していた

考えろ、海に飛び込むか?

意味がない。海水ごと街と吹き飛ばされてお終いだ

攻撃するか?

自分達の攻撃などアレには効果がない

逃げる?

それこそどうやって

繰り返される自問自答

だが、この局面を打開できる考えは思い付かなかった

大気が震え出した

攻撃が来るのだろう

俺達の頑張りは何も意味が無かったのか?

娘と義息子のこれからを見守れないのか?

「現実は非情だな」

ドンッッッッ!

水竜王による水弾が放たれた。水竜の物と比べ物にならないほどの大きさと速さ

せめて、心だけは負けまいと最後まで目を見開いていた

だから

その瞬間を見た

空から何かが自分達の乗る船と迫り来る水竜王の水弾の間に降り

「ぜぇぇっあ!」

バァーンッ!

裂帛の気合いと共に繰り出された攻撃で水竜王の水弾を消し飛ばしたのを

「顔を上げろ!」

戦場に響く声

「立ち上がれ!」

その声は絶望に染まった心を

「大切な物を守りたいのなら、立ち向かえ!」

希望に塗り替える

「俺が力を貸してやる!」

力を持っていた




~~~~~~





また、俺はこんな子供に対して攻撃をしている

自分の体なのに、自分の意思とは無関係に動かされる体

首にある黒く輝く首輪が全ての原因

だが、この首輪を自分ではどうする事も出来ない

それにこの首輪をどうにかしたとしても俺にはもう何にもない

あるのは罪だけだ

ああ、なんで逃げてくれないんだ

君では俺に勝てないのに

ああ! 避けてくれ!

止められない、斧を振り下ろすこの腕を

だが、俺と子供の間に音もなく何かが舞い降りた

いや、落ちて来た

ガギィーン!

「ふー、間に合ったー」

長い銀の髪

頭から生える3本の角

俺はこいつを知っている

俺の恩人

クウガ……




~~~~~~




ギャリン!

ガキンッ!

キンッ!

ガギン!

武器と武器のぶつかり合う音が辺りに響く

早い! 来るのが早すぎる!

間違いない、クウガだ。資料の顔と一致する

だが、想定外だ!

何故、あのマルドロと此処まで渡り合っていやがる。実力が未知数だったが、俺の用意出来る最高戦力だぞ。こいつ以上などもうあの方々か、あの怪物どもくらいだぞ

どうする、互角ならまだしもマルドロが明らかに押されている。仕方ない。俺も1回死ぬことになるから使いたくは無かったが、仕方ない

眼鏡の男は懐に忍ばせていた物を砕いた

今迄、散々邪魔をしてくれたようだが、これで貴様も終わりだ

ゴゴゴゴゴゴッ

大気が震え

大気に漂う魔素が呼応する

「ふふっ、終わりだ」

思わず口から出た言葉

「終わらないよ」

「!? 、聞こえて」

「向こうにはソウマが行ったからね」

それに奴は反応した。マルドロと戦っている最中だというのに

ドンッッッッ!

水竜王の一撃が放たれた。この街ごと死ね!

バァーンッ!

「今の音は!?」

1つ目の音は水竜王の攻撃が放たれたもののはずだ

じゃあ、もう1つは……

「余所見は駄目だな」

押されていたとはいえ、相手はあのマルドロだ。視線を2人の戦いから逸らし、海の方を向いても問題は無いと高を括ってしまった

背後から聞こえる声、それは恐ろしく冷たいものだった

「あんたは先に退場してもらおう」

やばい!

振り向く

だが、刃はもう目の前にある

回避は間に合わない。ならば

フルガード!

俺の全力の防御にして最強の盾

キンッ!

「かはっ!」

ドサッ

「そんな、馬鹿な」

俺のフルガードが破られるなんて……

だが、此奴は間違いを犯した

死した後に俺達は悪魔へと!

ボッ

何だ、何故俺は燃えている

何で燃えた箇所から俺の体が消えていってるんだ!

なんで悪魔化が発動しない!

なんで!

なんで!

なんで!

なんで!

「死にたくな……」

フッ

男の体は燃えてなくなり

その場には、何も残らなかった
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