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2章
81:スカー
しおりを挟む階段を降りた先に広がっていたのは、また上の層とは違う
岩は赤熱し、溶けたモノが溶岩となって流れている。偶に地面のひび割れから炎が噴き出していて凄く暑そうな景色だ
実際、フレッドには暑すぎて戦闘にまで影響が出かねなかったのでリンガ製作のマジックアイテムを貸した
溶岩が横を流れていくのを視界に入れながら進んでいく
26層に出てくる魔物は1種類だけだった
一定以上のダメージを与えると爆発する岩が獣人で身体のゴツイ人をかたどったような姿のロックビースト
溶岩の中を泳いで移動するマグマフィッシュ
ロックビーストは離れた距離からの魔法で一撃。マグマフィッシュは溶岩を弾として飛ばしてきたのが面倒だったくらいで、溶岩から飛び出して体当たりしてきたところを斬り伏せて進んだ
27層では26層にでてきた2体に加えて、マグマゴーレム
マグマゴーレムは身体が溶岩で出来ているのだが、岩や鉄なんかで出来ているゴーレム達とは違い、身体が流動しており変形が自由自在となっていた。その為、水と氷と風の属性魔法で急速に冷やしてからしか打撃や斬撃の効果はなかった。結局は氷で閉じ込めて砕くのが1番楽だった。勿論素材は駄目になってしまうが
そんなこんなで相手によって的確に対処をしながら進み28層
はっきり言うと26、27層は暑さなどが気にならない上に、魔物を倒すのが作業じみていてつまらなかった
だが、28層からは少し違った
ここからはマグマフィッシュが出てこなくなり、新たにマグマリザードマン・エリート。此奴らが中々戦いがいのある相手だった。体躯は人間よりも少し大きいくらいだがその俊敏性は高く、力も強い。体にはマグマが常に纏わり付いており、防御にも攻撃にも影響を与えてくる。得物は個体で違う。そんな良敵なのだが、はっきり言ってその技術は稚拙で力押し一辺倒な為にこいつでも物足りない
そんな事を思いながらも黙々と進み続け、ロックビーストと入れ替わりでブレイズシャークが出現するようになった29層でそいつと出会った
一見では、普通のマグマリザードマン・エリートと見間違うだろう
だが、よく見れば違う。体格はエリートよりも小さい。だが、その動きは洗練されているように見え、感じる圧力はこちらの方が上。手に持つは少し反りのある剣が2本
そして、体の至る所に見られる傷跡
ダンジョンに出てくる魔物は大抵はダンジョンの挑戦者にやられてしまう。しかし、挑戦者が魔物に負けて魔物が勝つという場合もある
そこから更に低い確率となるが、その勝った魔物が勝ち続け、経験を積む。つまり、レベルが上がり、戦闘技術が磨かれた魔物が出ることがある
そう言った魔物は、幾多もの戦いを勝ち抜いたことで刻まれた傷跡から、俗にスカーと呼ばれている
「「俺が」」
俺とソウマの声が被る
お互いに向き合い
「「じゃんけん、ぽん!」」
ソウマとじゃんけんは本気でやろうとすると、相手の手を出す瞬間まで見て、それに対応した手を出すというのが繰り返され、拉致があかないので、決めたものをぱっと出すと決めている
俺が出したのはパー。ソウマはグー
「しゃあっ!」
「くっそ~」
グッと握り拳をして喜びを声に出す
いや~、今日は運が良いみたいだ
「じゃあ、ちょっと待っててね」
「はーい」
「早く終わらせろよ~」
ソウマの嫌味を聞き流して、マグマリザードマン・エリートのスカーに接近する
30mの所で向こうもこちらに気づいたようだ。すると、その瞬間に地面を陥没させる程の力による踏み込みで勢いよく仕掛けてきた
繰り出される2本の斬撃。右下からのものと左上からのもので挟むようにして2本の剣が迫る。剣には魔力が纏わりついていた
俺は既に両手に提げていたいつもの魔鉱石製の剣に魔力を纏わせて迎え撃つ
ドンッ!
内から開くように剣を振り、互いの得物がぶつかり合い、衝撃が地面にヒビを入れるなどの影響を周りに与える
互いの剣が真っ向からぶつかり合い弾かれる。初撃は互角
魔力をそんなに多く持たないリザードマンという種族だが、魔力が無いわけではない。普通は使ったりせず、魔物特有の強靭な肉体で持って戦うのだが、このスカーであるリザードマンはここまでの戦いでそれ見て、己が物にしたと言うことだろう
つまり、下手をしたら身体強化まで
ブンッ!
「うおっ!」
ガギーン!
リザードマンは剣が弾かれると先程よりも更に速く動き、斬撃を繰り出してきた。体を魔力の光で覆いながら
予想外の動きだった為に反応が少し遅れ、剣で受けたものの少し移動させられてしまった
「いいね。楽しくなってきた」
身体強化までも使えることに驚きはしたが、相手が強くなり、楽しい戦いが出来ると分かったのだ。これは燃える
表情は爬虫類の顔な上に魔物なので読み取ることが出来ないが、リザードマンの発する威圧感が強まったように感じられた
今度はこっちから行くぞ
空いた距離を3歩で詰め、間合いに踏み込む。リザードマンの驚愕の感情がを感じ取りながら攻撃を開始する
先ずは左に持つ剣での上からの振り下ろし。これに、リザードマンは右に持つ剣で迎撃してくる。だが、俺は剣と剣がぶつかる直前に腕の力を抜く。呆気なく弾かれるが、想定していた重みがなかったことでリザードマンの体勢にほんの僅かに乱れができる。そこへ続けて右に持つ剣で横薙ぎの斬撃。リザードマンは振り上げていた右の剣を振り下ろす形で迎え撃ってきた。それは予想できてたことだったので横薙ぎの軌道から斜め上の軌道に変えて最初の打ち合いの時よりも強い力で弾いた。想定外の衝撃は効果的に発揮され、リザードマンの体勢が崩れる。が、スカーなだけあって体勢が崩れつつも左に持つ剣で斬撃を放ってくる。だが、所詮は苦し紛れの攻撃に過ぎず、俺はそれを足捌きのみで躱し、マジックアイテムであるグリーヴの効果を発動して刃を出現させて、右足を逆袈裟のように振り上げた
スカーといえど、この程度かとがっかりとした気持ちが湧いてきたが、リザードマンはこれに対処してきた
魔力を纏わせた尻尾で
しかも尻尾を俺の足に軽く当てるようにして尻尾の上を滑らして、そこから力を加えて俺の体勢を崩そうとしてきた
まあ、俺には【空歩】があるので何も無い宙を蹴って離脱し、一旦距離を取った
やっぱり俺もまだまだだな。しっかりと相手の力量を分析しきれていない
互いに体勢を整え、剣を構える
俺は自然体で立つ。両手に持つ剣の切っ先を地面に向けるようにして提げる
リザードマンは足を肩幅に開き、腰を落とした体勢。尻尾が揺れ、剣の切っ先は2本ともがこちらに向けられている
横で地面のひび割れから炎が噴出したのを合図にして、リザードマンが爆発したように、俺は滑り出すように、動き出した
開いていた距離は瞬く間に無くなり、互いに剣の間合い。そうして始まる剣戟
振り下ろしに振り上げで、力強く振るわれた横薙ぎを剣の上を滑らして受け流し、繰り出した袈裟懸けは力強い迎撃で弾かれる。剣と剣がぶつかり合い、音と衝撃が辺りを蹂躙する
剣の応酬は時間が経つにつれて激しさと速さを増していく。時にはリザードマンの尻尾が、俺の蹴りが繰り出された
ギィン! ギィン! ギィン!
と素早いテンポで剣と剣がぶつかり合う音が響く
長いようで一瞬のような剣戟に変化が。リザードマンを覆う魔力の光が薄れ、動きが悪くなっていく
魔力切れだ。元々魔力をあまり持たない魔物。にも関わらず燃費の悪い身体強化。魔力操作の技術も稚拙。その為、更に燃費が悪くなる
楽しかったがここまでのようだ。せめて、身体強化の残っているうちに息の根を止めてやる
剣を受け流すだけでなく、こちらから更に力を加えて力の向きを俺の思う通りに操り、体勢を強制的に崩した
そして、近距離から更に強く一歩を踏み込みリザードマンの懐へ
一瞬だけ身体強化を発動し、正に電光石火となりて両の手に持つ剣を1度ずつ振るった
リザードマンの体に2本の斬線が走り、斬線が走った場所から勢いよく血が噴き出して後ろに倒れ込んだ
その時のリザードマンの顔がなぜか俺には笑っているように見えた
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