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個人的番外編
おっさん達の事情
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意識をなくした聖女を見下ろし、召喚場所に集った者達は皆溜息を吐いた。まさか、召喚した聖女がここまで暴れるとは。
伝承に残る聖女とは、どこまでも清楚で神々しく、その場にいるだけで周囲を明るく照らしたとある。それに比べてこの聖女は……
見た目は、かなり地味だ。顔立ちにも華やかさはなく、平凡かそれ以下だろう。肩の辺りまでの長さの髪の色も明るい栗色で、特別目を見張るところはない。
着ているものだけは、皆で目を見張った。何というはしたない格好か。薄手で体の線が出ていて、しかも足が丸見えなのだ。これが今回の聖女とは。もしや、自分達は聖女を召喚したつもりで、全く別の存在を喚び出してしまったのだろうか。
白装束でまとめたこの国の神職の長、ニーバル大司教が内心そんな事を考えていると、横から声がかかった。
「……聖女とは、このような存在なのか?」
この国、マイエンドスの国王がそうこぼすのも無理からぬ事、とニーバル大司教は額を手で押さえる。
正直、聖女召喚とは国単位で行うものではなく、教皇庁領で行われるものだ。それを、ここマイエンドスで聖女召喚を行ったのは、偏に国王の野心によるものだ。
もっとも、それに手を貸した大司教も、同じく野心を持ってこの儀式に挑んだのだが。しかも、教皇庁から召喚の秘儀を盗み出してまでだ。
聖女召喚の秘儀はきちんと執り行い、漏れはただの一つもない。その結果として召喚されたのがあの女性なら、彼女が聖女でなくてはならないのだが。
「……私共と致しましても、まさかこのような事になるとは思っておらず」
彼等が思い描く聖女とは、まさしく伝承に残るような存在だ。決してこちらの胸ぐらを掴んで叫び出すような女性ではない。
その聖女は今、大司教の放った術により意識を失っている。単純に寝ているだけなので、体に影響はないはずだ。
とはいえ、この女性が聖女かどうかは、もうじきわかるだろう。聖女はどのような瘴気でもいとも簡単に浄化してしまう。彼女が本物であれば、現在も王都にはびこる瘴気はたちどころに浄化されるはずだ。
ニーバル大司教がそう思っていると、外から何やら騒ぎが聞こえてくる。何事かと扉を見ると、マイエンドス国王の侍従の一人が駆け込んできた。
「へ、陛下! 大変でございます!!」
「何事だ?」
「お、王都の瘴気が!!」
侍従の言葉に、ニーバル大司教は国王と視線を合わせた。王都を覆う瘴気に、何か変化があったのだ。
「瘴気がどうした?」
国王の問いに、侍従が息を整えて一気に言い放った。
「消えました! ほんの少し前に、綺麗さっぱり消えてなくなったのです!!」
再び、大司教は国王と視線を合わせる。今度は、双方の表情に歓喜の色があった。召喚は成功したのだ。自分達が喚び出したのは、正しく聖女である。
そうなると、今も術で眠り続けているこの聖女が問題だ。おそらく、術を解いて目が覚めれば、先程同様騒ぎ出すだろう。この場でそれをやられるのは、色々とまずい。
先程までの激しさの片鱗など見えない聖女を見下ろし、大司教は国王に尋ねた。
「して、聖女様の今後は?」
「とりあえず、王宮内に用意した部屋へ運べ。ああ、丁重にな」
国王の命令で、物陰に隠れていた近衛がわらわらと出てくる。彼等のうち、一番体格がいいものが聖女を抱き上げ、四人の仲間と供にいつの間にか表れた侍女共々、その場を立ち去った。
その姿を見送りながら、大司教は重い溜息を吐いた。例え思っていたような人物でなかったとしても、この世界はあの聖女に頼る他ないのだ。
願わくば、神のご加護がありますように。大司教は、我知らず神に縋る言葉を口にしていた。
伝承に残る聖女とは、どこまでも清楚で神々しく、その場にいるだけで周囲を明るく照らしたとある。それに比べてこの聖女は……
見た目は、かなり地味だ。顔立ちにも華やかさはなく、平凡かそれ以下だろう。肩の辺りまでの長さの髪の色も明るい栗色で、特別目を見張るところはない。
着ているものだけは、皆で目を見張った。何というはしたない格好か。薄手で体の線が出ていて、しかも足が丸見えなのだ。これが今回の聖女とは。もしや、自分達は聖女を召喚したつもりで、全く別の存在を喚び出してしまったのだろうか。
白装束でまとめたこの国の神職の長、ニーバル大司教が内心そんな事を考えていると、横から声がかかった。
「……聖女とは、このような存在なのか?」
この国、マイエンドスの国王がそうこぼすのも無理からぬ事、とニーバル大司教は額を手で押さえる。
正直、聖女召喚とは国単位で行うものではなく、教皇庁領で行われるものだ。それを、ここマイエンドスで聖女召喚を行ったのは、偏に国王の野心によるものだ。
もっとも、それに手を貸した大司教も、同じく野心を持ってこの儀式に挑んだのだが。しかも、教皇庁から召喚の秘儀を盗み出してまでだ。
聖女召喚の秘儀はきちんと執り行い、漏れはただの一つもない。その結果として召喚されたのがあの女性なら、彼女が聖女でなくてはならないのだが。
「……私共と致しましても、まさかこのような事になるとは思っておらず」
彼等が思い描く聖女とは、まさしく伝承に残るような存在だ。決してこちらの胸ぐらを掴んで叫び出すような女性ではない。
その聖女は今、大司教の放った術により意識を失っている。単純に寝ているだけなので、体に影響はないはずだ。
とはいえ、この女性が聖女かどうかは、もうじきわかるだろう。聖女はどのような瘴気でもいとも簡単に浄化してしまう。彼女が本物であれば、現在も王都にはびこる瘴気はたちどころに浄化されるはずだ。
ニーバル大司教がそう思っていると、外から何やら騒ぎが聞こえてくる。何事かと扉を見ると、マイエンドス国王の侍従の一人が駆け込んできた。
「へ、陛下! 大変でございます!!」
「何事だ?」
「お、王都の瘴気が!!」
侍従の言葉に、ニーバル大司教は国王と視線を合わせた。王都を覆う瘴気に、何か変化があったのだ。
「瘴気がどうした?」
国王の問いに、侍従が息を整えて一気に言い放った。
「消えました! ほんの少し前に、綺麗さっぱり消えてなくなったのです!!」
再び、大司教は国王と視線を合わせる。今度は、双方の表情に歓喜の色があった。召喚は成功したのだ。自分達が喚び出したのは、正しく聖女である。
そうなると、今も術で眠り続けているこの聖女が問題だ。おそらく、術を解いて目が覚めれば、先程同様騒ぎ出すだろう。この場でそれをやられるのは、色々とまずい。
先程までの激しさの片鱗など見えない聖女を見下ろし、大司教は国王に尋ねた。
「して、聖女様の今後は?」
「とりあえず、王宮内に用意した部屋へ運べ。ああ、丁重にな」
国王の命令で、物陰に隠れていた近衛がわらわらと出てくる。彼等のうち、一番体格がいいものが聖女を抱き上げ、四人の仲間と供にいつの間にか表れた侍女共々、その場を立ち去った。
その姿を見送りながら、大司教は重い溜息を吐いた。例え思っていたような人物でなかったとしても、この世界はあの聖女に頼る他ないのだ。
願わくば、神のご加護がありますように。大司教は、我知らず神に縋る言葉を口にしていた。
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