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個人的番外編

事の前

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 その日、私はかなり浮かれていた。
「じゃ、お先でーす。お疲れ様でしたー」
 これで本日のお仕事終わり。これからはめくるめくプライベートのお時間よ!
 そんな私の背後から、二年先輩の男性社員が声をかけてきた。
「あ、各務さん。今日皆で飲んで行こうって話が出てるんだけど」
「あ、私不参加でーす」
 間髪入れずに返答する。振り返りもしない辺り、失礼だけど拒絶の意思が表れてるよ。でも敵も然る者、食い下がってきた。
「そう言って、いつも出てないじゃない」
「オフィシャルの飲み会には出てますよー」
 うん、新年会とか暑気払いとか忘年会とかね。あと、デカい仕事が終わった打ち上げとかな。それ以外は参加する必要ないと思うんだ。自腹だしさ。
 いや、金がもったないという訳では……あるか。そんな金があったら、プライベートに費やしたい。
 結局先輩社員達の声を振り切ってロッカールームに入ると、既に同僚が一人帰り支度をしていた。中途入社組の河合美佐だ。
 派手目な美人で男性人気が高いんだけど、世話好きのせいか実は同性人気の方が高いというなかなかハイスペックな奴である。
 私とは不思議と馬が合うんだが、彼女の趣味だけは理解出来ん。河合の趣味、それは合コンでの逆ナンである。しかも相手にそうと悟らせないのが楽しいらしい。
「河合も今帰り?」
「うん、手間取った仕事も何とか時間までに仕上げられたわー」
 あれか……事務手続きがえらい面倒で煩雑な案件が来てたっけ。あれ? でもあの仕事、確か新人ちゃんが押しつけられていたんじゃなかったっけ?
 私の顔から言いたい事を悟ったのか、河合は苦笑しつつも教えてくれた。
「ほら、林が新人ちゃんに押しつけてたからさ、課長すっ飛ばして部長に根回しして、半分以上こっちで受けたのよ」
「おおー、さすが漢と書いておとこと読む――」
「やかましい」
 林というのは同じ課にいる男性社員なんだが、典型的な上に媚びて下を見下す人間なのだ。おかげで裏での女子人気ワースト一位をここ数年維持し続けている。
 その林は、新人の女の子には特に意地の悪い仕事を振る事でも知られていた。なるほど、だから新人ちゃんがあんな面倒な仕事を請け負う事になってたのか。で、河合がそれを肩代わりしたと。しかも部長にまで根回し済みとか。やりますな。
 私も帰り支度に取りかかりながら、河合に先程の誘いの件を聞いてみた。
「そういや、あんたも誘われなかった?」
「飲み? 仕事の面子との飲みなんて、面倒くさいだけじゃない」
「まーな」
 それには同意する。特にうちの課の飲み会はね。百歩譲って女子会なら参加したかもだけど、男性陣もとなると下手すりゃあの林も首を突っ込んでくるしなあ。逃げるが勝ちだわ、やっぱり。
 仕度が終わった河合は、仕上げとばかりにトワレを手首にスプレーする。心なしか、うきうきした様子だ。
「それに、今日はこの間知り合った年下とのデートなのよ。いやー、各務が率先して飲み会断ってくれるから、助かるわー」
「あーそーかい。滅びろリア充」
「あんただって、合コン行ってちょっと頑張れば彼氏の一人や二人、出来るでしょうに」
「いらない。三次はね、惨事なのよ」
「また訳のわからん事を。んじゃ、君の分まで楽しんできてやろう」
 そう言い残すと、河合はロッカールームを後にした。おのれリア充め。とはいえ、河合は私のオタ趣味を知っている、唯一の職場の人間だから気楽な相手なのよね。だがもう一度言おう、おのれリア充め。
 そりゃ私だって見た目はそれなり気を使ってるさ。メイクもそれなり、髪型や髪色だって職場で浮かないようにファッション雑誌でお勉強しているんだから。河合に言わせると、まだまだらしいけど。三度言おう、おのれリア充め。
 まあいい、今日の私はそんな事は些末な事と流せるから!
「ふっふーん」
 鼻歌も出ようってもんだ。何せ、今日は待ちに待ったゲームのアップデートの日である。メンテナンス時間が朝の十時から午後四時までなので、会社で確認出来なかったのよね。
 昼休みまでに終わっていてくれれば! いや、もう過ぎた事をあれこれ言うまい。家に帰れば、めくるめく推しとの逢瀬が楽しめるのだから。


 ええ、この後あんな事が待っているなんて、この時の私は想像もしなかったさ。
 普通想像出来るか!? 自宅の玄関に大穴が空いて、そこに落っこちるなんて!!
 しかも、墜ちた先でもう帰れないって言われたよ! ふざけんなー!!
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