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居候女

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 一月後ーー。手元に女が写り込んだ写真が届いた。私はこれまで面と向かって居候女について尋ねてみたことがなかった。幼心になんとなく触れてはいけない気がしていたからだ。

 だから今夜こそ、女がなぜ我が家に棲みついているのか、その経緯いきさつを訊いてみようと思うのだった。

 夕食後。
 ちびりちびりと晩酌とやっているパパに私は遠足の写真を見せた。

「今日、学校から写真を持って帰ってきたの」

 どれどれと言ってパパは食卓に置いてある眼鏡をかけ、写真を手に取った。
「遠足写真か──」

 私はその後に続くはずの言葉を待った。だがパパが言ったのは「美奈が楽しそうで良かった」の一言だけ。写真を置くと今度は夕刊を手に取った。

「ねぇパパ、もっと他に言うことがあるでしょう?」思い余った私は問い詰めるように言った。

 パパは新聞をから目を離さず返事をする。
「うん、そうだなぁ……」
 私はパパの鼻先にもう一度、写真を突き出した。
「写真の女の人!」
「うん? 女の人がどうしたって?」
「この人いつもお家に居る女の人だよね?」
「どの人?」
「ほら、木の上に……居るでしょう?」
 パパはすこし考えてから言った。
「これはカメラの反射によるものだと思うけど」
 驚いたことに、パパは先生と同じことを言ったのだ。
「違う! この顔よく見てよ。いつも家に居る女の人だよね?」
 語気を強めて言った。
「家に居る女の子は美奈ちゃんだけだ」
「だって、この人、いつも私の部屋に居て、あそこで座っているじゃない」
 私は襖を勢いよく開け放つ。だが、どういう訳か私の部屋に居るはずの女の姿はなかった。


「美奈ちゃん、来春は中学生になるのだから。ふざけっこはやめにしような。そんなことより週末、横浜のお祖母ちゃんのところに行くか? 土曜はママも帰ってくるって言っていたぞ」

 パパは話題を変えてしまった。思い切って口に出した結果がこれとは。消化不良を起こした私は「行きたくない!」と、感情的になって言うと、自分の部屋に引きこもり、襖をピシャッと閉めてしまった。


 夜更け。
 くぐもった呻き声に私は目を覚ました。はっとして起き上がり、父親が寝ている続き部屋の襖を開ける。
 驚いた。目の前にある光景は、月明かりの射し込む中で、あの居候女が掛け布団に正座し、パパの寝顔を覗き込んでいる姿だった。

 苦しそうに唸るパパをみて私は「パパ!」と叫んだ。

 女の黒い瞳がこちらを振り向いた。
「パパになにするの!」私は思わず拳を振り上げた。
 すると、女はするすると布団から降りると、音もなくベランダに移動する。幅十センチほど開けておいた窓の隙間から、闇夜の中に消えてしまった。

 
 翌朝、パパは何事もなかったようにケロリとしている。そして、居候女はというと、これまた何事もなかったように定位置に正座していた。



 


 
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