4 / 10
居候女
しおりを挟む一月後ーー。手元に女が写り込んだ写真が届いた。私はこれまで面と向かって居候女について尋ねてみたことがなかった。幼心になんとなく触れてはいけない気がしていたからだ。
だから今夜こそ、女がなぜ我が家に棲みついているのか、その経緯を訊いてみようと思うのだった。
夕食後。
ちびりちびりと晩酌とやっているパパに私は遠足の写真を見せた。
「今日、学校から写真を持って帰ってきたの」
どれどれと言ってパパは食卓に置いてある眼鏡をかけ、写真を手に取った。
「遠足写真か──」
私はその後に続くはずの言葉を待った。だがパパが言ったのは「美奈が楽しそうで良かった」の一言だけ。写真を置くと今度は夕刊を手に取った。
「ねぇパパ、もっと他に言うことがあるでしょう?」思い余った私は問い詰めるように言った。
パパは新聞をから目を離さず返事をする。
「うん、そうだなぁ……」
私はパパの鼻先にもう一度、写真を突き出した。
「写真の女の人!」
「うん? 女の人がどうしたって?」
「この人いつもお家に居る女の人だよね?」
「どの人?」
「ほら、木の上に……居るでしょう?」
パパはすこし考えてから言った。
「これはカメラの反射によるものだと思うけど」
驚いたことに、パパは先生と同じことを言ったのだ。
「違う! この顔よく見てよ。いつも家に居る女の人だよね?」
語気を強めて言った。
「家に居る女の子は美奈ちゃんだけだ」
「だって、この人、いつも私の部屋に居て、あそこで座っているじゃない」
私は襖を勢いよく開け放つ。だが、どういう訳か私の部屋に居るはずの女の姿はなかった。
「美奈ちゃん、来春は中学生になるのだから。ふざけっこはやめにしような。そんなことより週末、横浜のお祖母ちゃんのところに行くか? 土曜はママも帰ってくるって言っていたぞ」
パパは話題を変えてしまった。思い切って口に出した結果がこれとは。消化不良を起こした私は「行きたくない!」と、感情的になって言うと、自分の部屋に引きこもり、襖をピシャッと閉めてしまった。
夜更け。
くぐもった呻き声に私は目を覚ました。はっとして起き上がり、父親が寝ている続き部屋の襖を開ける。
驚いた。目の前にある光景は、月明かりの射し込む中で、あの居候女が掛け布団に正座し、パパの寝顔を覗き込んでいる姿だった。
苦しそうに唸るパパをみて私は「パパ!」と叫んだ。
女の黒い瞳がこちらを振り向いた。
「パパになにするの!」私は思わず拳を振り上げた。
すると、女はするすると布団から降りると、音もなくベランダに移動する。幅十センチほど開けておいた窓の隙間から、闇夜の中に消えてしまった。
翌朝、パパは何事もなかったようにケロリとしている。そして、居候女はというと、これまた何事もなかったように定位置に正座していた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
蒼い夏
あきまり
ライト文芸
高校生活最後の夏休み。
暑さにだらけて過ごしていたリョーは
友達のミチルに呼び出されて学校へ。
汗だくになって文句を垂れながらも、
自由奔放なミチルに付き合う一日。
振り回されながらも
ミチルの意図に気づいたリョーは……。
青春読み切り作品。
【イメージソング】
GRAPEVINEのナツノヒカリ。
事故物件ガール
まさみ
ライト文芸
「他殺・自殺・その他。ご利用の際は該当事故物件のグレード表をご覧ください、報酬額は応相談」
巻波 南(まきなみ・みなみ)27歳、職業はフリーター兼事故物件クリーナー。
事故物件には二人目以降告知義務が発生しない。
その盲点を突き、様々な事件や事故が起きて入居者が埋まらない部屋に引っ越しては履歴を浄めてきた彼女が、新しく足を踏み入れたのは女性の幽霊がでるアパート。
当初ベランダで事故死したと思われた前の住人の幽霊は、南の夢枕に立って『コロサレタ』と告げる。
犯人はアパートの中にいる―……?
南はバイト先のコンビニの常連である、男子高校生の黛 隼人(まゆずみ・はやと)と組み、前の住人・ヒカリの死の真相を調べ始めるのだが……
恋愛/ТL/NL/年の差/高校生(17)×フリーター(27)
スラップスティックヒューマンコメディ、オカルト風味。
イラスト:がちゃ@お絵描き(@gcp358)様
百合を食(は)む
転生新語
ライト文芸
とある南の地方の女子校である、中学校が舞台。ヒロインの家はお金持ち。今年(二〇二二年)、中学三年生。ヒロインが小学生だった頃から、今年の六月までの出来事を語っていきます。
好きなものは食べてみたい。ちょっとだけ倫理から外(はず)れたお話です。なおアルファポリス掲載に際し、感染病に関する記載を一部、変更しています。
この作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。二〇二二年六月に完結済みです。
アスタラビスタ
リンス
ライト文芸
※全話イラスト付きです※
主人公・紅羽はその日、マンションの17階の手すりに立っていた。下の非常階段から聞こえてくる男2人の会話を聞きながら、チャンスを待っていた。
手すりから飛び降りると、驚異的な身体能力で階段へと乗り込み、見ず知らずの若い男に刃物を持って襲いかかった。
自分の意識はあるが、何か別の感情に突き動かされていた。
直前、紅羽は二人の男ではない、もう一人の人間の存在を感じた。
襲い掛かられた若い男の髪は、突如としてオレンジ色へと変わり、紅羽の刃物を寸でのところで止める。
突然の容姿の変貌に、何が起きたのか理解できなかった紅羽は、愕然としている間に若い男に押しのけられる。その勢いで背中を打ちつけた自分の身体から、黒髪の男が出てきた。
黒髪の男はマンションから飛び降り、逃走してしまう。
我に返った紅羽は、自分が人を殺そうとしていたことを理解し、混乱に陥る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる