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盆踊り2
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子供の部は一時間半で終わった。町内会のおじさんたちが配る景品に子供たちがわっと群がった。その間に太鼓の調子が変わる。北海盆唄が流れ、歌い手が登場した。ここからは大人の部が始まるのだ。
「楽しかった?」
「うん」
愛の心にじんわりと余韻が残っていた。
「良かった。お腹のあかちゃんも楽しかったみたいよ」
「どんなふうに?」
「盆踊りの歌にあわせて、しきりとお母さんのお腹を蹴とばすの」康子はお腹をさすりながら言った。
あかちゃんも、きっとお腹の中で踊っていたんだ。このとき初めて早く生まれてきたらいいのにと愛は思った。帰り道は、身重の康子を引っ張るようにして坂を登った。急ぐ理由はお楽しみの外風呂が待っているからだ。
祖父の達夫が愛にかけ湯をしてから、一緒にざぶんとつかる。
石炭で沸かした湯は、角がなく軟らかだった。すると、壁一枚隔てたお隣からも湯が溢れる音がする。ふんふんとおじさんの鼻歌が聞こえてきて、面白くなった愛はクスクスと笑いだした。
湯からあがると、基子が夕涼みのスイカを切ってくれていた。スイカを食べて、躰の火照りが治まったころ愛は目をこすり、あくびをしだした。
「今日は朝からお出かけしたのだもの、眠いわね。愛、そろそろお布団にお入りなさい」
廊下に渦を巻いた蚊取り線香が炊かれていた。和室の六畳間に、天井から蚊帳が吊ってある。白く透けた網の中に、お布団が二枚敷いてある。愛はごろりと横になると、康子はタオルケットをかけた。窓の向こうに月が見える。時より涼やかな風が入ってきた。鈴虫の鳴き声に耳をかたむける。
「お盆が過ぎたら、もう秋ねーー」
添い寝をする康子はぽつりと言った。
翌早朝、家の中が慌ただしかった。康子が産けづいたのだ。苦しそうに呻く康子に愛は、母親の心臓があまり良くなかったことを思い出した。止まってしまったらどうしょう。心配になった愛は走って仏壇の部屋にいくと、タンスの中にある薬箱をさぐった。キュウシンの小瓶を掴み取り、強く握り締めた。これで安心。もしお母さんの心臓に異変があっても、これを呑ませればいいのだ。
弟が生まれたのはその日の昼頃だった。
「楽しかった?」
「うん」
愛の心にじんわりと余韻が残っていた。
「良かった。お腹のあかちゃんも楽しかったみたいよ」
「どんなふうに?」
「盆踊りの歌にあわせて、しきりとお母さんのお腹を蹴とばすの」康子はお腹をさすりながら言った。
あかちゃんも、きっとお腹の中で踊っていたんだ。このとき初めて早く生まれてきたらいいのにと愛は思った。帰り道は、身重の康子を引っ張るようにして坂を登った。急ぐ理由はお楽しみの外風呂が待っているからだ。
祖父の達夫が愛にかけ湯をしてから、一緒にざぶんとつかる。
石炭で沸かした湯は、角がなく軟らかだった。すると、壁一枚隔てたお隣からも湯が溢れる音がする。ふんふんとおじさんの鼻歌が聞こえてきて、面白くなった愛はクスクスと笑いだした。
湯からあがると、基子が夕涼みのスイカを切ってくれていた。スイカを食べて、躰の火照りが治まったころ愛は目をこすり、あくびをしだした。
「今日は朝からお出かけしたのだもの、眠いわね。愛、そろそろお布団にお入りなさい」
廊下に渦を巻いた蚊取り線香が炊かれていた。和室の六畳間に、天井から蚊帳が吊ってある。白く透けた網の中に、お布団が二枚敷いてある。愛はごろりと横になると、康子はタオルケットをかけた。窓の向こうに月が見える。時より涼やかな風が入ってきた。鈴虫の鳴き声に耳をかたむける。
「お盆が過ぎたら、もう秋ねーー」
添い寝をする康子はぽつりと言った。
翌早朝、家の中が慌ただしかった。康子が産けづいたのだ。苦しそうに呻く康子に愛は、母親の心臓があまり良くなかったことを思い出した。止まってしまったらどうしょう。心配になった愛は走って仏壇の部屋にいくと、タンスの中にある薬箱をさぐった。キュウシンの小瓶を掴み取り、強く握り締めた。これで安心。もしお母さんの心臓に異変があっても、これを呑ませればいいのだ。
弟が生まれたのはその日の昼頃だった。
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