炭鉱長屋

盆踊り1

　
　カラン コロンと下駄の音を響かせ、愛は長屋の玄関を出た。土手にある背の高いグラジオラスが、宵の風に吹かれていた。その向こうに広がる夕張の山々は、鮮やかな黄金色に燃えている。一方で、夕張川の支流である志幌加別川しほろかべつかわの流域は翳り、深い藍の色に染まっていた。明治以来、夕張の町はこの支流に沿って、縫うように発展してきたのだ。

　愛はお母さんと手を繋いで坂道を下る。地面を踏みしめるたびにキシキシと、下駄と石炭の擦れ合う音がした。家長屋から出てきた子供たちの、赤や青の鮮やかな蝶結びの兵児帯は、まるで金魚のしっぽみたいに揺れていた。風にのってシャンコシャンコと子供盆踊りの唄が聞こえてきた。録音機から流れる子供の歌声は、どこか懐かしく、愛の気持ちをうきうきさせる。
　坂の終わりにある開けた草原に出てきた。広場の真ん中に、丸太を使って櫓やぐらが組んであった。灯る提灯の下で、頭にねじり鉢巻をしめたお年寄りが、太鼓を叩いていた。浴衣を着た子供たちが、輪になって踊っている。愛は母の手を離し、駆け出した。輪の仲間に入り、見よう見まねで踊りだす。
　
　そろたそろたよ　
　どの子もそろた
　そろてうたえば　
　月が出る
　海の上から　
　月が出る　
　ほら月が出る
　シャンコ　シャンコ　シャンコ
　シャシャンがシャン
　手びょうし　そろえて
　シャシャンがシャン

　※坪松一郎作詞/北海道子供盆踊りの唄より