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赤硝子の城
目覚めの朝(1)
しおりを挟む床の相手がすり替わっていたことに大公は絶句した。
「どこの馬の骨だ!」
夫人はさめざめと泣きながら「皇子の護衛官だというではありませんか」
「サー・ブルーか?」
「いいえ、歳は皇子とよりも若い男でございます。でも、あなた。それは美しい青年で、クローディアはとても幸せそうなんですの」
「幸せそうだと? 皇子はどこにおられるのだ」苦虫を嚙み潰したように言いう。
「リオン城に帰られたとのことです」
「コンラッドにしてやられたか‥‥‥」
怒りが収まらない大公は若い二人のいる閨を訪れた。
着替えを済ませたエリックとクローディアが大公を跪いて出迎えた。
「大公殿下、リオン騎士団所属、故カーンズ伯爵の五男、エリック・カーンズと申します。クローディア様とこのようなことになり、私はいかなる処分も甘んじて受ける覚悟でございます。ですが、これだけは申し上げたい。私はクローディアを愛しています」
「いいえ、大公様、悪いのは私でございます。皇子様ではないと知りながら、エリック様を受け入れました。ですが、ここへ参る前から私は彼を愛しておりました。養女になるに当り、一度は諦めた恋でしたが、これはカナトス神のお導きによるものと確信いたしました」
よりによってカーンズ家の男だった。オルレアン家とカーンズ家は数世代前から私有地を巡って争うほど仲が悪かったからだ。コンラッドは全てを知りながら、夫となる人物をすり替えたのだった。
「これではそなたを養女に迎えた意味がないではないか!夫人、なぜもっと慎重に、確かめなかったのだ」
「申し訳ございません。ですが、まさか、入れ替わるなど思いもよりませんでした……」
大公夫人はふらふらと倒れそうになるのを使用人たちが慌てて支えた。
「詰めが甘い!」
怒り心頭の大公は声を荒らげる。そこにテレサが現れた。
「母上!」
「何も話さずともよい。今朝方、話をしました。皇子は毒見の女官を処分するそうです」
テレサの処分の言葉に、大公は唸り、眠り薬を持たせた夫人が青ざめた。
「心配には及ぶません。処分は女官だけにとどめ、我々は不問にするとも。条件は、カーンズを養子に迎えること。そして、長年の家同士の争いを和解するようにと仰せでした。タイガ様は、二人の婚約を皇太子に報告するそうです」
テレサは面白くなさそうにする息子を諭すように話を続けた。
「聞けば、この若者は城に上がったばかりだが、騎士団も認めるほど優秀だというではないか。それにカーンズ家と手を結べばユリウスに十分対抗できます。これに、もっと早く気づくべきだったのです」
「なるほど……、タイガ様は、我々が思っていた以上に思慮深く、欲をお隠しになるのがうまいとみえる。相手が一枚上手だったというわけか」
涙を流すクローディアをエリックは抱きしめた。
「二人ともそこで抱き合っていないで、お立ちなさい。ーー元をただせば私が悪いのです。あのクロノムとやらにすっかり焚きつけられました」
「母上、私も、どうもあの者はどうも胡散臭いと思っておりました」オルレアン大公は傍に仕える従者に銀狐に罰を与え追放するよう申し伝えた。
テレサはエリックの手を取った。
「カーンズ殿、オルレアン城によくいらしてくださった。これより両家の雪解けの朝食といたしましょう」
右にクローディア、左にエリックをエスコートさせると、二人を従えて食事の間へと向かった。
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