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178.北白川サナと俺。
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北白川サナのあの目に気づいていなかったら。
俺は、面倒な女に好かれていると考えて、これまでと同じように行動していただろう。
北白川サナの目に、モエカと同じ重さを見つけた俺は、俺がモテていたわけではなかったと知っている。
「呼ばれた気がした。
何か言いたいことがあったか?」
俺は、単刀直入に、北白川サナに聞く。
俺は、女の機嫌の取り方など知らない。
男の機嫌もとったことはないが。
俺に機嫌をとられないと、話ができないようなやつとは、そもそも話すことなどない。
北白川サナの前髪は、重い何かを抱えた瞳を隠している。
間近で会うと。
北白川サナから、重い何かを抱えている気配などは、感じ取れない。
重苦しさは、一滴もにじみ出てこない。
近くで見ると、分からない。
俺が気づけたのは、北白川サナと俺が、物理的に離れていたから。
北白川サナ自身が、遠目に俺を見るときに、俺から見られていることに気づかなかったから、俺は、北白川サナの俺に対する好意的な行動の内側にある重さに気づけた。
気づけたのは、偶然。
北白川サナが、気を抜いて、素の感情を出していたから、気づけた。
俺の洞察力が優れているわけではない。
俺は、北白川サナの腕に触れずに横に並んだ。
今の北白川サナに隙はない。
北白川サナと向かい合う位置に立ち、顔を合わせていても。
北白川サナが、瞳の奥底にたたえているものを俺に見せることはない。
北白川サナの瞳の奥底にあるものを汲み取ることは、俺には難しい。
俺は、北白川サナを知らなすぎる。
「ここの居心地は、どうです?」
と北白川サナ。
居心地か。
「俺は、自分から来たいとは思わないが、行き場に困っていたら、他に行くよりは、ここへ来たいと考える人もいると思う。」
素直な感想を伝える。
俺の横にいる北白川サナは、腕を組んだまま、前を向いている。
俺と北白川サナの視線は、かち合わない。
思い返してみると。
俺と北白川サナの視線が見えているものは、見られている方が考えていたものと違っていた可能性がある。
北白川サナは、俺を見ながら、俺越しに、誰かを見ている。
俺は?
俺は、自分の感情を探す。
俺は、がっかり、している。
北白川サナの距離感を鬱陶しいと思っていたが、新人歓迎会が終わって、部屋に帰るとき。
寂しく感じた。
俺にグイグイと来る女なんて、今までいなかった。
俺は、基本的に単独行動だが、一人が好きなわけではない。
気が合うやつがいれば、気が合うやつといる。
好きではない相手が俺を好きかもしれないと思うと。
感情の揺れはあった、ということだ。
浮足立っていた部分もある。
俺に再会したら、北白川サナは喜ぶだろうと考えていた。
俺は、北白川サナが俺に会って喜ぶ姿を想像し、喜んでいた。
俺は、俺自身が、北白川サナとの再会を楽しみにしてもいることに気づいた。
俺が北白川サナを好きになっていたとは思わないが、気になってはいた。
俺の中の感情の整理はつけた。
俺は、自分から積極的に関わりを持ちにいったりはしない。
人間関係に一生懸命になるより、他にしたいことがあるときは、したいことをする方が楽しいと気づいたから。
北白川サナが、俺を好きだと俺が勘違いしたままだったら。
俺は、北白川サナの誘導通り、北白川サナと腕を組んだだろう。
北白川サナは、俺に腕を組ませたかった。
なぜか?
新人歓迎会のときを思い返してみる。
北白川サナは、俺に腕を組ませることで、俺が、俺の意思で動き回るのをセーブしようと考えていたのではないか?
何のためにか?
新人歓迎会のことから推測すると、今回のデスゲーム、サバイバルゲームを俺に生きて脱出させるために。
北白川サナは、正義が勝たないデスゲームに参加した俺が死なないようにするために、送り込まれたのではないか?
俺を死なせたくないなら。
正義が勝たないデスゲームに、俺を参加させなければ済んだ話ではないのか?
正義が勝たないデスゲームに参加していなかったら、そもそも、俺を死なせまい、という心配は必要なかったのではないか?
と考えて。
俺は、考えていなかった可能性に気づいた。
保護か。
正義が勝たないデスゲームは、正義が勝たないデスゲームに参加した者同士が殺し合う。
殺し合う参加者の中に、デスゲーム運営が、運営の意向にそわせる目的で、人を送り込むことがある。
正義が勝たないデスゲーム内で起こる殺人は、デスゲーム運営が、誰を殺して、誰を殺さないか、運営の自主性により決められる。
デスゲーム内では、運営が、起こす殺人、起こさない殺人を分別して、コントロールできる。
では。
正義が勝たないデスゲームの外で起きる殺人は?
人殺しの意のまま。
誰も止められない。
警察が出て来たときには、既に事件は起きている。
北白川サナは、正義が勝たないデスゲームに参加するという形で、デスゲーム内に避難してきた俺の安全を確保しにきたのか?
そうなると、俺は、誰かに狙われていたことになる。
誰が俺を狙っている?
正義が勝たないデスゲームの中に保護しなくてはいけない、と誰かが決めて、俺を保護した。
俺を狙う理由は何か?
正義が勝たないデスゲームの中に避難するくらいだから、佐竹ハヤト絡みか?
正義が勝たないデスゲームを成り立たせないようにしようと、デスゲーム内で活動した、元刑事の如月ハコは、正義が勝たないデスゲームの参加者から不評だった。
正義が勝たないデスゲームは、避難所か?
外にいたら、生きていくのが困難な目にあう人を参加者にしているのか?
正義が勝たないデスゲームの外にいたら、困難な目とは、どのような事態が該当するか?
俺は、北白川サナの隣で一人で思考を巡らす。
手持ちの情報から導き出される答えがあるとしたら、一つだけ。
タケハヤプロジェクトを乗っ取ろうとした支援団体とそのバック。
俺の推測が外れていないなら。
正義が勝たないデスゲームを脱出してからの方が、危ない、という可能性が高くはないか?
俺は、面倒な女に好かれていると考えて、これまでと同じように行動していただろう。
北白川サナの目に、モエカと同じ重さを見つけた俺は、俺がモテていたわけではなかったと知っている。
「呼ばれた気がした。
何か言いたいことがあったか?」
俺は、単刀直入に、北白川サナに聞く。
俺は、女の機嫌の取り方など知らない。
男の機嫌もとったことはないが。
俺に機嫌をとられないと、話ができないようなやつとは、そもそも話すことなどない。
北白川サナの前髪は、重い何かを抱えた瞳を隠している。
間近で会うと。
北白川サナから、重い何かを抱えている気配などは、感じ取れない。
重苦しさは、一滴もにじみ出てこない。
近くで見ると、分からない。
俺が気づけたのは、北白川サナと俺が、物理的に離れていたから。
北白川サナ自身が、遠目に俺を見るときに、俺から見られていることに気づかなかったから、俺は、北白川サナの俺に対する好意的な行動の内側にある重さに気づけた。
気づけたのは、偶然。
北白川サナが、気を抜いて、素の感情を出していたから、気づけた。
俺の洞察力が優れているわけではない。
俺は、北白川サナの腕に触れずに横に並んだ。
今の北白川サナに隙はない。
北白川サナと向かい合う位置に立ち、顔を合わせていても。
北白川サナが、瞳の奥底にたたえているものを俺に見せることはない。
北白川サナの瞳の奥底にあるものを汲み取ることは、俺には難しい。
俺は、北白川サナを知らなすぎる。
「ここの居心地は、どうです?」
と北白川サナ。
居心地か。
「俺は、自分から来たいとは思わないが、行き場に困っていたら、他に行くよりは、ここへ来たいと考える人もいると思う。」
素直な感想を伝える。
俺の横にいる北白川サナは、腕を組んだまま、前を向いている。
俺と北白川サナの視線は、かち合わない。
思い返してみると。
俺と北白川サナの視線が見えているものは、見られている方が考えていたものと違っていた可能性がある。
北白川サナは、俺を見ながら、俺越しに、誰かを見ている。
俺は?
俺は、自分の感情を探す。
俺は、がっかり、している。
北白川サナの距離感を鬱陶しいと思っていたが、新人歓迎会が終わって、部屋に帰るとき。
寂しく感じた。
俺にグイグイと来る女なんて、今までいなかった。
俺は、基本的に単独行動だが、一人が好きなわけではない。
気が合うやつがいれば、気が合うやつといる。
好きではない相手が俺を好きかもしれないと思うと。
感情の揺れはあった、ということだ。
浮足立っていた部分もある。
俺に再会したら、北白川サナは喜ぶだろうと考えていた。
俺は、北白川サナが俺に会って喜ぶ姿を想像し、喜んでいた。
俺は、俺自身が、北白川サナとの再会を楽しみにしてもいることに気づいた。
俺が北白川サナを好きになっていたとは思わないが、気になってはいた。
俺の中の感情の整理はつけた。
俺は、自分から積極的に関わりを持ちにいったりはしない。
人間関係に一生懸命になるより、他にしたいことがあるときは、したいことをする方が楽しいと気づいたから。
北白川サナが、俺を好きだと俺が勘違いしたままだったら。
俺は、北白川サナの誘導通り、北白川サナと腕を組んだだろう。
北白川サナは、俺に腕を組ませたかった。
なぜか?
新人歓迎会のときを思い返してみる。
北白川サナは、俺に腕を組ませることで、俺が、俺の意思で動き回るのをセーブしようと考えていたのではないか?
何のためにか?
新人歓迎会のことから推測すると、今回のデスゲーム、サバイバルゲームを俺に生きて脱出させるために。
北白川サナは、正義が勝たないデスゲームに参加した俺が死なないようにするために、送り込まれたのではないか?
俺を死なせたくないなら。
正義が勝たないデスゲームに、俺を参加させなければ済んだ話ではないのか?
正義が勝たないデスゲームに参加していなかったら、そもそも、俺を死なせまい、という心配は必要なかったのではないか?
と考えて。
俺は、考えていなかった可能性に気づいた。
保護か。
正義が勝たないデスゲームは、正義が勝たないデスゲームに参加した者同士が殺し合う。
殺し合う参加者の中に、デスゲーム運営が、運営の意向にそわせる目的で、人を送り込むことがある。
正義が勝たないデスゲーム内で起こる殺人は、デスゲーム運営が、誰を殺して、誰を殺さないか、運営の自主性により決められる。
デスゲーム内では、運営が、起こす殺人、起こさない殺人を分別して、コントロールできる。
では。
正義が勝たないデスゲームの外で起きる殺人は?
人殺しの意のまま。
誰も止められない。
警察が出て来たときには、既に事件は起きている。
北白川サナは、正義が勝たないデスゲームに参加するという形で、デスゲーム内に避難してきた俺の安全を確保しにきたのか?
そうなると、俺は、誰かに狙われていたことになる。
誰が俺を狙っている?
正義が勝たないデスゲームの中に保護しなくてはいけない、と誰かが決めて、俺を保護した。
俺を狙う理由は何か?
正義が勝たないデスゲームの中に避難するくらいだから、佐竹ハヤト絡みか?
正義が勝たないデスゲームを成り立たせないようにしようと、デスゲーム内で活動した、元刑事の如月ハコは、正義が勝たないデスゲームの参加者から不評だった。
正義が勝たないデスゲームは、避難所か?
外にいたら、生きていくのが困難な目にあう人を参加者にしているのか?
正義が勝たないデスゲームの外にいたら、困難な目とは、どのような事態が該当するか?
俺は、北白川サナの隣で一人で思考を巡らす。
手持ちの情報から導き出される答えがあるとしたら、一つだけ。
タケハヤプロジェクトを乗っ取ろうとした支援団体とそのバック。
俺の推測が外れていないなら。
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