上 下
156 / 294

156.モエカが、佐竹ハヤトの友達だった俺にどうしても伝えたかった秘密は、支援団体の話題ではなく、警戒対象がいるという忠告だった。

しおりを挟む
「支援団体に興味を持っていることを、まかり間違っても、支援団体に嗅ぎつけられると。

死人が出るわ。」
とモエカ。

モエカの声には、見てきたかのように、実感がこもっていた。

「既に死人が出た後か?」

「支援団体を調べていた政治家の事務所に車が前向きに突っ込んで、事務所にいた親戚が、車と壁に挟まれて圧死しているの。」
とモエカ。

タケハヤプロジェクトの推進のために、タケハヤプロジェクト側も、政治家に声をかけていたのか。

モエカの話は、タケハヤプロジェクト側についた政治家の実話か。

「片道一車線の道に面した建物の一階に、事務所はあったわ。

車は、事務所に真正面から突っ込んでいるの。

ブレーキ痕はなし。

アクセルを踏んで、ハンドル操作をミスったのが、原因とされたわ。

政治家本人ではなく、政治家に協力している親戚がピンポイントで狙われて殺された。

その政治家は、選挙のための、協力者を得られず、一人で活動を続けたけれど、その選挙では落選したわ。

その後は、正義が勝たないデスゲームに来たから、知らないけれど。

狙われたのが政治家本人なら、選挙戦は、弔い合戦で盛り上がったの。

事務所にいた親戚の死亡は、選挙活動に協力する気を、その政治家の周りから無くさせるのに、十分だった。

その政治家も被害者だから、気の毒に、とは誰しもが思う。

でも、誰も手を貸さない。

そんな状況になるの。

支援団体や、支援団体のバックより弱いと、孤立へと追い込まれるの。」
とモエカ。

モエカは、事件について、当事者から聞いているかのように詳しく知っている。

「警察は、殺人のセンを調べなかったのか?」

モエカの言い分からすると、事故ではなく、事件だ。

「警察は、ドライバーのミスによる事故として処理したわ。

殺人事件としての捜査を、警察は、最初からする気がなかった。

警察は、交通事故だと決めてかかっていたわ。」
とモエカ。

親戚を事務所で殺された政治家は、モエカのよく知っている人か?

その政治家は、モエカが、探してきたのか?

それとも、元々、その政治家と交流があったか?

「警察にも組織力学が働いていることに、私は気づいた。

どこの組織も、組織の目的を果たすためだけに生きていく人だけで、成り立っていないの。

どんな警察官も、1人の人。

警察官の家族、親戚、恋人、友達。

警察官本人が、甘い汁を吸うためや、不祥事をもみ消すために、心のままに動くこともある。

それは、本人を断罪して終わり。

罠は、どこにでも張り巡らされているの。

罠にかかるのは、本人ばかりではないわ。

罠にかかった人を助けようとした時点で、警察官本人も罠にかかるの。

そうやって、一人、二人、と無力化していくの。

あとは、警察内の政治力と、他の省庁とのパワーバランス。

支援団体と支援団体のバックより強くないから、警察は、政治家の親戚の死を殺人事件にはしなかったの。

警察からしたら、できなくなった、になると思うけれど、私には、結果しか関係ない。

この国の警察が壊されるのを避けるために。

国の未来のために立ち上がった一個人が、志半ばで、力尽きるまでの道筋を警察は作ったのよ。」
とモエカ。

正義が勝たないデスゲームは、人の介入を排除したと話していたモエカ。

モエカの怒りと悲しみと恨みは、人が介入することによって、決まりが容易に曲げられることを何度も目の当たりにしてきたことが、発端か。

俺は、ドッジボールでラキちゃんに関わろうとしなかったモエカを思い出した。

モエカは、警察のしたことに理解は示しているが、警察に対して、不信感を抱いている。

ラキちゃん本人が、どうとか、ではなく、ラキちゃんが刑事だった、ということが、モエカに距離を置かせたのか。

「支援団体について、熱弁しているが、正義が勝たないデスゲームに支障はないのか?」

「支援団体という表現を使って、名前を出していないから、いいの。

イニシャルトークの暴露話を誰が真面目に取り扱うの?

話し手本人でなければ、イニシャルが本当かどうかさえ、確かめようがない。

公園のトイレに書いてある電話番号に、わざわざかけたくなる?

その類の話なの。

今の私の暴露話は、事件にならない。

報道と拡散がなければ、ニュースにも、ゴシップにもならない。」
とモエカ。

これが、モエカにとって、死ぬ前に話したかった秘密か?

「支援団体の話は、踏み込まないだけで、知っている人もいる。

ここまでは、公然の秘密。

佐竹くんの友達だった金剛くんには、もっとすごい秘密を教えるから、かがんで。」
とモエカ。

俺は、周りを見渡す。

メグたんも、タケハヤプロジェクトの学生も、新しい動きはない。

新しい動きがないのは、現状維持。

「かがむと、危険だから、遠慮したい。」

俺やモエカを、いつでも、一輪車で殴りにこれるようスタンバイしているタケハヤプロジェクトの学生。

タケハヤプロジェクトの学生を止めていないメグたん。

「今一瞬危なくても、これから長く続く身の危険を減らしたくないの?」
とモエカ。

現状を俺が変えるのは不可能、と俺は、判断した。

俺は、すっと屈む。

「極秘情報は?」

モエカは、声を潜めた。

「今までの話は、誰でも知りうる世間話。

金剛くんが、正義が勝たないデスゲームを生き延びたいのなら、正義が勝たないデスゲームの参加者ではなく、タケハヤプロジェクトの参加者に警戒して。

正義が勝たないデスゲーム内で、一日でも長生きしたいなら、タケハヤプロジェクトの参加者を信用しないこと。

佐竹くんの友達には、長生きしてほしいの。

私の失敗を活かして。」
とモエカ。

そのとき。

俺の頭上に一輪車を振りかざした人の動きが、俺の視界に入ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮生活困窮中

真魚
ミステリー
一、二年前に「祥雪華」名義でこちらのサイトに投降したものの、完結後に削除した『後宮生活絶賛困窮中 ―めざせ媽祖大祭』のリライト版です。ちなみに前回はジャンル「キャラ文芸」で投稿していました。 このリライト版は、「真魚」名義で「小説家になろう」にもすでに投稿してあります。 以下あらすじ 19世紀江南~ベトナムあたりをイメージした架空の王国「双樹下国」の後宮に、あるとき突然金髪の「法狼機人」の正后ジュヌヴィエーヴが嫁いできます。 一夫一妻制の文化圏からきたジュヌヴィエーヴは一夫多妻制の後宮になじめず、結局、後宮を出て新宮殿に映ってしまいます。 結果、困窮した旧後宮は、年末の祭の費用の捻出のため、経理を担う高位女官である主計判官の趙雪衣と、護衛の女性武官、武芸妓官の蕎月牙を、海辺の交易都市、海都へと派遣します。しかし、その最中に、新宮殿で正后ジュヌヴィエーヴが毒殺されかけ、月牙と雪衣に、身に覚えのない冤罪が着せられてしまいます。 逃亡女官コンビが冤罪を晴らすべく身を隠して奔走します。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

乙女ゲームに転生したらチートだったけど平凡に生きたいのでとりあえず悪役令息付きの世話役になってみました。

ぽぽ
BL
転生したと思ったら乙女ゲーム?! しかも俺は公式キャラじゃないと思ってたのにチートだった為に悪役令息に仕えることに!!!!!! 可愛い彼のために全身全霊善処します!……とか思ってたらなんかこれ展開が…BLゲームかッッ??! 表紙はフレドリックです! Twitterやってますm(*_ _)m あおば (@aoba_bl)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

悪役令嬢は最強を志す! 〜前世の記憶を思い出したので、とりあえず最強目指して冒険者になろうと思います!〜

フウ
ファンタジー
 ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢5歳。 先日、第一王子セドリックの婚約者として初めての顔合わせでセドリックの顔を見た瞬間、前世の記憶を思い出しました。  どうやら私は恋愛要素に本格的な……というより鬼畜すぎる難易度の戦闘要素もプラスしたRPGな乙女ゲームの悪役令嬢らしい。 「断罪? 婚約破棄? 国外追放? そして冤罪で殺される? 上等じゃない!」  超絶高スペックな悪役令嬢を舐めるなよっ! 殺される運命というのであれば、最強になってその運命をねじ伏せてやるわ!! 「というわけでお父様! 私、手始めにまず冒険者になります!!」    これは、前世の記憶を思い出したちょっとずれていてポンコツな天然お転婆令嬢が家族の力、自身の力を用いて最強を目指して運命をねじ伏せる物語!! ※ この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。 上記サイトでは先行投稿しております。

異世界に転生して婚約破棄を目指していましたが記憶を失って王子に溺愛されています。

みさちぃ
恋愛
爆発に巻き込まれ人生終わったと思ったら異世界に来てました。 どうも読んでいた小説の悪役令嬢になっているのですが! しかしその悪役令嬢、婚約破棄されて隣国辺境伯と結婚しました!ってハッピーエンドじゃない? その結末いだきましょうか? 頑張って悪役令嬢を演じて王太子殿下から婚約破棄をしてもらいましょうか。 この世界で再び爆発に巻き込まれて気づいたら大変なことにことになりました。 毎日7時、19時に1部分づつあがります。(1部分はだいたい2500字前後になります。) 全75部分(20話+エピローグ、後日談2話で完結する予定です。 *なろう様で先行して掲載しております。

すれ違ってしまった恋~期限付きだけど…やり直します~

秋風 爽籟
恋愛
楓は、死んだはずだった… でも、1年間の期限付きで戻れると聞いて… 剣と付き合った、中学2年に戻ることにした… すれ違ってしまった恋の続編です。

【完結】欠陥品と呼ばれていた伯爵令息だけど、なぜか年下の公爵様に溺愛される

ゆう
BL
アーデン伯爵家に双子として生まれてきたカインとテイト。 瓜二つの2人だが、テイトはアーデン伯爵家の欠陥品と呼ばれていた。その訳は、テイトには生まれつき右腕がなかったから。 国教で体の障害は前世の行いが悪かった罰だと信じられているため、テイトに対する人々の風当たりは強く、次第にやさぐれていき・・・ もう全てがどうでもいい、そう思って生きていた頃、年下の公爵が現れなぜか溺愛されて・・・? ※設定はふわふわです ※差別的なシーンがあります

処理中です...