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138.物言わぬ復讐者。

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俺は、モエカだけでなく、全員を見回した。

「佐竹ハヤトの死因は聞けた。

俺に正義が勝たないデスゲームを終わらせてほしいというのが、タケハヤプロジェクトの学生の希望か?」

「その通り。」
俺の問いかけに返事をしたのは、話し手だった。

モエカではなかった。

「もう出たい。」
「限界だ。」

何人かが、話し手に同意する発言をした。

無言まま、話し手に同意を示すように首を振っている参加者が何名かいる。

モエカは、黙っていて、首を動かさない。

モエカの隣にいるメグたんの表情は、無関心そのもの。

モエカは、気づいているのか?

佐竹ハヤトの目的に。

気づいていて、佐竹ハヤトに協力したのか?

なら。

俺が、救世主ではなく、地獄への使者だと勘付いていたか?

「ここにいるのは、タケハヤプロジェクトの学生だった、という認識であっているか?」

「その通り。
全員、タケハヤプロジェクトに参加していた。」
と話し手。

『タケハヤプロジェクトに参加していた。』

俺は、やっと合点がいった。

正義が勝たないデスゲームでは、一人一人を、デスゲームの『参加者』と表現する。

『参加者』。

オリジナルは、タケハヤプロジェクトの参加者、という呼称だったのではないか?

参加者といえば。

タケハヤプロジェクトの初期の参加者は、いったいどうなったのだろうか?

正義が勝たないデスゲームが開始する前。

タケハヤプロジェクトの学生が、正義が勝たないデスゲームの参加者になる前。

タケハヤプロジェクトの学生が、建物内に入ってくるときに、誰かに会った話は聞かなかった。

今もまだ、この建物のどこかにいるのか?

それとも。

もう、既に?

「最初に俺が知っている話をする。

正義が勝たないデスゲームは、会員制有料配信チャンネルだ。

この建物内で行われてきたデスゲームには、視聴者がいる。」

「は?」
と話し手。

タケハヤプロジェクトの学生は、ざわざわとざわついた。

「タケハヤプロジェクトの学生は、この建物に入ってからこれまで、何をしてきた?」

「何を。それは。」
と話し手は、口をつぐむ。

この建物が、世間から隔離されているから、この建物内で起きた出来事が、世間に知られることはない、とタケハヤプロジェクトの学生はふんでいたか。

何をしても明るみに出ることはない、と安心していたか?

人が殺され、死体が消えても、人がいなくなったことを騒ぐ者は誰もいないことを、何をしても、騒がれない、と解釈したか?

露見することはないから、何をしても安泰?

正義が勝たないデスゲームの中で起きたことは、闇に葬られると思い込んだか?

明るみに出ないなら、何をしても、問題にならないか?

タケハヤプロジェクトの学生は、正義が勝たないデスゲームの中にいて、外部の情報から遮断されてきた。

タケハヤプロジェクトの学生が、生き延びるためにしてきたことを目撃されている可能性を、タケハヤプロジェクトの学生は考えたことがない。

正義が勝たないデスゲームの参加者となり、これまで生き延びてきたタケハヤプロジェクトの学生のしてきたことは、たった一つ。

デスゲームに参加して、デスゲーム内で、人を殺すこと。

人を殺しても、咎められることはなく、人を殺さなければ殺される時間の中で、人を殺す以外のことは、何もしなかったか?

人を殺すほどの凶悪なことをしても、咎める者がいないことを無法地帯だと誤認していないか?

タケハヤプロジェクトから、正義が勝たないデスゲームに変わってから、正義が勝たないデスゲームの中で生きてきたということは。

どれだけのデスゲームに参加して、生き延びてきた?

正義が勝たないデスゲームは、デスゲーム専用チャンネルだと、デスゲームを始める前、俺は念押しするかのように説明されている。

正義が勝たないデスゲームは、デスゲームを見たいという欲求を満たすための会員制有料配信サービス。

正義が勝たないデスゲームの運営は、デスゲームの参加者に、デスゲームに参加する以外の行動を許していない。

佐竹ハヤトは、タケハヤプロジェクトの学生に、世間から隔離された自覚を持たせて行動させたかったのか?

「この建物は、正義が勝たないデスゲームの会場になっている。

今まで、誰が、どんな風に、何人殺したか。

一つ残らず、全て配信されている。

デスゲームを生き抜くために人を殺す行為が、不問にされるのは、デスゲームに参加している間に限定されないか?

デスゲームから脱出して、陽の光が眩しい世間に戻ったとき。

デスゲームに参加して生き延びてきた経歴を、世間がどう評価するかについて、俺からの説明はいるか?」

デスゲームの中から外に出たら、人を殺さないのが、当たり前の世界になる。

人を殺し続ける姿を配信してきた、タケハヤプロジェクトの学生に、正義が勝たないデスゲームの中以外の居場所が存在するか?

タケハヤプロジェクトの学生が、世間から迫害されずに生きていくには、これからも正義が勝たないデスゲームの中で過ごすしかない。

迫害されても、正義が勝たないデスゲームから脱出しようとするなら、死体になるだけだ。

佐竹ハヤトは、タケハヤプロジェクトの学生から孤立し、タケハヤプロジェクトの学生に対し、何も要求してこなかったが、何も感じなかったわけではない。

佐竹ハヤトが声を上げないことは、諦めでも、寛容さのあらわれでもなかった。

佐竹ハヤトは、タケハヤプロジェクトの学生が何もしないことに憤慨していた。

タケハヤプロジェクトの学生が、保身のために支援団体に媚びへつらい、佐竹ハヤトを裏切ったことを、佐竹ハヤトは、許していなかった。

佐竹ハヤトは、最後まで、復讐心を胸の内に秘めたまま、復讐を計画し、気づかれずに実行に移した。

天才、佐竹ハヤトは、無言の復讐者になった。
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