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74.ロシアンルーレットは、完成する。
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加地さんは、加地さんを裏切らなかった男の背中側から、男の腹に腕を回した。
「最後は、分かってくれると、私は信じていた。」
加地さんの声音には、勝者の驕りが見え隠れする。
加地さんを裏切らなかった男への信頼ではなく、最後に勝負に勝つのは、自分しかいないという、行き過ぎた自信。
俺は、加地さんが気に食わない。
加地さんの何が気に食わないのか、と考えてみると。
勝利を確信していたような言い方をする加地さん自身が、何もしていないことだ。
この部屋の中で、加地さんを辱めることに乗り気だった人は、ふーくんに倒された。
加地さんは、何もしていないのに、結果だけを享受して、勝ったと考えている。
加地さんが勝つ結果に繋がったのは、誰が何をした成果か、を加地さんは気にしていない。
誰かの働きについて、考えたことがないから、か。
加地さんにとって、気にすることではないから、か。
女が加地さんの仕事を引き受けたくない、と話していた原因は、加地さんに、誰かがした仕事の成果を受け取っている自覚がない、ということか。
加地さんを裏切らなかった男は、背中から抱きつく加地さんを振り返らない。
腹に回された加地さんの腕を振りほどくこともせずに、向かってくるふーくんを見ている。
俺に腕を絡ませていた女は、いつの間にか、腕をほどいていた。
虫が嫌いだったのか?
ふーくんは、びっこをひいて、加地さんを裏切らなかった男の前まで歩いていく。
立ち止まったふーくんは、口をあけて、口の中から、何かをとりだした。
ドッジボールの試合で使われていたナイフよりも小ぶりで、黒光りしているそれは。
拳銃だった。
「目の前にいる男か女のどちらか一人、今倒れているやつを全員撃ち殺した方は、生きて出られる。」
とふーくん。
加地さんは、加地さんを裏切らなかった男の背後から、まぶたをえぐられ、蚊にさされてボコボコになった顔を出してきた。
「本物?銃刀法違反!警察!」
と騒ぐ加地さん。
加地さんの前にいる男は、動じない。
「本物か?」
と加地さんを裏切らなかった男は、拳銃に興味を示した。
「女が使わないなら、男に渡す。」
と話すふーくんには、全体的に生気がない。
今日の出来事に、疲れきっているんだろう。
話し方も、ドッジボールのときとは違い、ボソボソと話している。
「いらない。持たない、使わない。」
と加地さんは、拳銃を持つことを拒否。
「俺に渡してくれ。使い方は知っている。」
と加地さんを裏切らなかった男。
「反対。危ないものを持ってどうする気?」
と加地さんは、男の脇の下から顔を回り込ませて、拳銃を受け取るなと、男に訴えかけている。
加地さんを裏切らなかった男は、加地さんの制止を聞き流した。
「あるなら、使うまで。」
加地さんを裏切らなかった男は、ふーくんから拳銃を受け取ると、倒れている男の一人に銃口を向けた。
部屋の中にいた人は、一斉に、倒れている人から離れていく。
「人殺しにならないで!」
と加地さんが男を止めるが、男の拳銃を取り上げようとはせず、口で言うのみ。
「殺さなくては、出られない。そうだったな?」
と加地さんを裏切らなかった男。
「そう。」
ふーくんが、疲れ切った様子のまま、加地さんを裏切らなかった男の問いに、頷く。
「お前から死ね。」
響く銃声。
加地さんを裏切らなかった男は、苦情を言うようにと加地さんに勧めた男に向けていた銃口をふーくんの胸に向けて、引き金を引いた。
ふーくんの胸元は、急速に血で染まっていく。
飛び散った血と、床に垂れる血。
心身共に疲弊しているのが明らかだったふーくんは、至近距離で撃たれた衝撃で、後ろから倒れた。
ドタンと音を立てて倒れるふーくんの体の横には血溜まりが出来た。
「銃弾は一発。男も女も、どちらも出られない。」
撃たれたふーくんは、血を流しながら話す。
加地さんを裏切らなかった男が、もう一度、銃口をふーくんに向けて、引き金をひいた。
「出ないな。」
と加地さんを裏切らなかった男。
二発目の銃弾は、発射されなかった。
「ロシアンルーレットは、完成した。」
とふーくん。
「ロシアンルーレット?」
と男。
「最初に、新人歓迎会でロシアンルーレットをするとか、放送していた。」
加地さんは、男の後ろから出てきて、男の隣に並ぶ。
「ロシアンルーレットが完成すると、どうなるんだ!」
と加地さんを裏切らなかった男。
「返事は?」
と加地さんが、ふーくんに鋭い声を投げかける。
ふーくんには、もう、誰の声も聞こえていない。
「タツキ、タツキ、俺も、そっちに行くよ。すぐに。
無理なんだ、俺には。
俺には、一人で生きていく力なんてない。
もう、こんなところに、俺は一人でいたくない。
ツカサは、最初から分かっていた。」
ふーくんは、話せなくなるまで、タツキに呼びかけ続けた。
タツキとふーくんは、歪だったが、互いに必要とし合っていたのか。
強い者と弱い者という役割で。
「最後は、分かってくれると、私は信じていた。」
加地さんの声音には、勝者の驕りが見え隠れする。
加地さんを裏切らなかった男への信頼ではなく、最後に勝負に勝つのは、自分しかいないという、行き過ぎた自信。
俺は、加地さんが気に食わない。
加地さんの何が気に食わないのか、と考えてみると。
勝利を確信していたような言い方をする加地さん自身が、何もしていないことだ。
この部屋の中で、加地さんを辱めることに乗り気だった人は、ふーくんに倒された。
加地さんは、何もしていないのに、結果だけを享受して、勝ったと考えている。
加地さんが勝つ結果に繋がったのは、誰が何をした成果か、を加地さんは気にしていない。
誰かの働きについて、考えたことがないから、か。
加地さんにとって、気にすることではないから、か。
女が加地さんの仕事を引き受けたくない、と話していた原因は、加地さんに、誰かがした仕事の成果を受け取っている自覚がない、ということか。
加地さんを裏切らなかった男は、背中から抱きつく加地さんを振り返らない。
腹に回された加地さんの腕を振りほどくこともせずに、向かってくるふーくんを見ている。
俺に腕を絡ませていた女は、いつの間にか、腕をほどいていた。
虫が嫌いだったのか?
ふーくんは、びっこをひいて、加地さんを裏切らなかった男の前まで歩いていく。
立ち止まったふーくんは、口をあけて、口の中から、何かをとりだした。
ドッジボールの試合で使われていたナイフよりも小ぶりで、黒光りしているそれは。
拳銃だった。
「目の前にいる男か女のどちらか一人、今倒れているやつを全員撃ち殺した方は、生きて出られる。」
とふーくん。
加地さんは、加地さんを裏切らなかった男の背後から、まぶたをえぐられ、蚊にさされてボコボコになった顔を出してきた。
「本物?銃刀法違反!警察!」
と騒ぐ加地さん。
加地さんの前にいる男は、動じない。
「本物か?」
と加地さんを裏切らなかった男は、拳銃に興味を示した。
「女が使わないなら、男に渡す。」
と話すふーくんには、全体的に生気がない。
今日の出来事に、疲れきっているんだろう。
話し方も、ドッジボールのときとは違い、ボソボソと話している。
「いらない。持たない、使わない。」
と加地さんは、拳銃を持つことを拒否。
「俺に渡してくれ。使い方は知っている。」
と加地さんを裏切らなかった男。
「反対。危ないものを持ってどうする気?」
と加地さんは、男の脇の下から顔を回り込ませて、拳銃を受け取るなと、男に訴えかけている。
加地さんを裏切らなかった男は、加地さんの制止を聞き流した。
「あるなら、使うまで。」
加地さんを裏切らなかった男は、ふーくんから拳銃を受け取ると、倒れている男の一人に銃口を向けた。
部屋の中にいた人は、一斉に、倒れている人から離れていく。
「人殺しにならないで!」
と加地さんが男を止めるが、男の拳銃を取り上げようとはせず、口で言うのみ。
「殺さなくては、出られない。そうだったな?」
と加地さんを裏切らなかった男。
「そう。」
ふーくんが、疲れ切った様子のまま、加地さんを裏切らなかった男の問いに、頷く。
「お前から死ね。」
響く銃声。
加地さんを裏切らなかった男は、苦情を言うようにと加地さんに勧めた男に向けていた銃口をふーくんの胸に向けて、引き金を引いた。
ふーくんの胸元は、急速に血で染まっていく。
飛び散った血と、床に垂れる血。
心身共に疲弊しているのが明らかだったふーくんは、至近距離で撃たれた衝撃で、後ろから倒れた。
ドタンと音を立てて倒れるふーくんの体の横には血溜まりが出来た。
「銃弾は一発。男も女も、どちらも出られない。」
撃たれたふーくんは、血を流しながら話す。
加地さんを裏切らなかった男が、もう一度、銃口をふーくんに向けて、引き金をひいた。
「出ないな。」
と加地さんを裏切らなかった男。
二発目の銃弾は、発射されなかった。
「ロシアンルーレットは、完成した。」
とふーくん。
「ロシアンルーレット?」
と男。
「最初に、新人歓迎会でロシアンルーレットをするとか、放送していた。」
加地さんは、男の後ろから出てきて、男の隣に並ぶ。
「ロシアンルーレットが完成すると、どうなるんだ!」
と加地さんを裏切らなかった男。
「返事は?」
と加地さんが、ふーくんに鋭い声を投げかける。
ふーくんには、もう、誰の声も聞こえていない。
「タツキ、タツキ、俺も、そっちに行くよ。すぐに。
無理なんだ、俺には。
俺には、一人で生きていく力なんてない。
もう、こんなところに、俺は一人でいたくない。
ツカサは、最初から分かっていた。」
ふーくんは、話せなくなるまで、タツキに呼びかけ続けた。
タツキとふーくんは、歪だったが、互いに必要とし合っていたのか。
強い者と弱い者という役割で。
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