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65.大きな声と勢いで、希望の星となり、やがて地に堕ちるのにふさわしい者を押し流せ。

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加地さんと加地さんに預けられた人達の会話の中で。

機械音声には応える必要がない、客が来たのだから、人が出てこい、という加地さんの主張に同調者はいた。

加地さんに批判的な意見を出したものは、一人もいなかった。

加地さんも加地さんに預けられた人達も、デスゲーム運営と会う方法を確立できていないから、会えない、という認識を共有していた。

今になって、全員が承知の上の事実を一時的に棚上げしている理由に。

加地さんは、思い当たることができるか?

「皆さん。待って。そうは言っても。この状況で、どうやって。」
と加地さん。

「加地さんは、苦情を入れてくれると言っていた。加地さんには、できるんだろう。やってくれ。」
と一人が言うと。

「加地さんは、賠償を確保してくれるという話だったではないですか。

必ず、と言っておられましたが、間違いなのですか?」

「間違いなんて、加地さんに限って、あるはずがない。
加地さんは、俺達をここまで連れてきたんだ。
加地さんは、必ずやってくれる。」

「加地さんの本気を見せてください。」

「加地さんならできますよね。」

「私達は、加地さんについてきたんですから、加地さん、よろしく頼みますよ。」

何人かの声で、筋道が決まっていく。

加地さんが預かってきたという人達の中から、自分で困難を解決しようというという人は出てこない。

全員が、加地さん、やってくれるよね、と丸投げしている。

スケープゴートが決まったなら、あとは、楽なもの。

声の大きさと勢いで、押し流すだけ。


加地さんが、気勢を上げたときに応えた声を思い出してみる。

そのときの声には、加地さんに全てをおっかぶせる気配はなかった。

加地さんが、勢いのある強い言葉を使うのは、加地さんといえば、というパフォーマンス的な要素が強いのではないか。

加地さん自身も、加地さんに預けられた人も、加地さんに預けた人も。

加地さんが発言することに、パフォーマンス以上の意味を持たせてこなかったから、加地さんは、突然の変節に戸惑いを隠せない。

加地さんに預けられた人達は、加地さんが戸惑い、まごついている隙につけんで、加地さんの逃げ道をふさぐ。

加地さんに預けられた人達は、加地さんが、気勢を上げたときの言葉を使って、加地さんの行動を縛っていく。

話した言葉通りに動かないといけないように。

「この会社に苦情を入れたいと私も考えているが、今はできない。

この会社は、皆さんも知っての通り、人を出してこない。」

加地さんは、加地さんに預けられた人達の反応に驚いたものの、比較的、冷静に言葉を返している。

驚いた、ということは、今の流れを加地さんは経験したことがない。

気勢を上げたとき、加地さんは、デスゲーム運営が、蚊まみれの現状を放置するとは想像していなかった。

加地さん達を客だと認識していれば、客に申し訳ないことをした、と責任者が謝罪しに出てくる。

責任者が出てきたところで、一番最初にこの会社と交渉する権利を得ている加地さんが、賠償やらの話を持ち出す。

加地さんは、こういった流れを想定していたのでは?

加地さんに限らず、加地さんに預けられた人達も。

デスゲームと関係のない会社なら、加地さんの想定通りに、ことが運んでいてもおかしくない。

デスゲーム運営には、通用しない手だったから、加地さんは足元をすくわれた。

足元をすくわれたついでに、命を取られようとしている。

「苦情を言いたいのは、やまやまでも、相手が不在では、言えない。
今は、まだ待ってほしい。」
と加地さん。

加地さんは、デスゲーム運営と話をする手段を持っていない。

他の参加者にも、同じことが言える。

そのことを加地さんも、加地さんに預けられた人達も知っている。

加地さんは、共通認識を再確認するつもりで話している。

デスゲーム運営と話をする手段を持っていないから、デスゲームの舞台に知らずに足を運び、自ら足を踏み入れた加地さん。

俺が、見てきた動画では、デスゲーム運営が、デスゲームの参加者に接触してきたことは一度もない。

加地さんは、デスゲーム運営に苦情を言うと気勢を上げていたが、デスゲーム運営から加地さんに働きかけてこない限り、それは叶わない。

デスゲーム運営が参加者の加地さんに働きかけてくる可能性は、ほぼない。

デスゲーム運営からの働きかけを期待して、不法侵入してきた加地さんは、自身からデスゲーム運営に働きかける手段を持っていないと自覚している。

加地さんは、デスゲーム運営との交渉だ、取り分だ、と主張したが、加地さん自身で現状を打開できる手段を持っていない。

デスゲーム運営が働きかけない限り、膠着状態。

部屋の中には、蚊が発生し続け、蚊にたかられている人には終わりがない。

加地さんが、信頼できる男達から離れようとしないのは、自身では何もなせないことを自覚しているからだろうか。

「加地さんが、何もしないなら、俺がいく。

俺に限らず、全員が、とうに我慢の限界なんだ。

俺達をよく見てくれ。」
と苦情を入れるようにと加地さんに勧めた男が言った。

加地さんは、一人だけ、ボコボコしていない顔で、周りを見た。

つるんとした、加地さんの涼しげな美女顔は、蚊に刺された周りの人の中で、一人だけ異質だ。

異質な存在は、希望の星となり、堕ちてスケープゴートを務めるのにふさわしい。

加地さんが堕ちる姿を望む者は、加地さんに預けられた人達の何割になる?
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