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58.転職のお誘いは、会社のカメラが回っている場所で聞きたくない。目元を前髪で隠している女の視線で横顔が焼けそう。

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目元を前髪で隠している女は、問答無用で、俺に、風呂椅子を投げ合おうと持ちかけてきた。

目元を前髪で隠している女は、運営側が入れた人物。

今、俺は、瞬きを忘れているのでは、くらいに、じっと見られている気がする。

目元を前髪で隠している女に。

「俺とあと二人以外は、全員、加地さんと同じタイミングで、同じ方法で入ってきたのですか?

全員、加地さんの部下ですか?」

俺は、加地さんと、他の参加者の距離感の理由を確認することにした。

全員、加地さんの言動を気にしている。

気にしてはいるけれど。

加地さんが上司だから、部下として気にしているという態度の参加者は、部屋の中にはいない。

加地さんが権力者だから、リーダーだから、一応、逆らわないように聞いておこうという態度が大半を占めている。

加地さんと行動を共にしているのは、加地さんの周りにいる男のみ。

俺がこの部屋の中で生き延びるために、部屋の中にいる参加者の関係性を把握しておく必要はある。

加地さんとは違い、風呂椅子を投げている人もいた。

「建物に入って秘密を独占するのは、協定を結んだときに、抜け駆けを禁止しましたから。
この部屋の中にいる方々は、協定を結んだ人達が、私に預けていかれました。」
と話す加地さんは、自慢げだ。

「預けるにあたり、条件をつけましたか?」

「どんな条件を想定していますか?」
と聞き返す加地さんの目が鋭くなる。

警戒された。

条件はあるのか。

「加地さんと同じタイプの美女を選ばないように、という条件はつけていないのですか?

可愛い系は何人かいますが、美女は加地さん一人だけですね。」

俺は、和ませのヨイショに本音を混ぜた。

加地さんは、無言でにっこり。

初ヨイショは効いた。

交渉する権利を十二分に使うために、交渉相手が目移りしそうな同タイプの女性を、加地さんは連れてこなかったのだろう。

となると。

新人歓迎会のデスゲームは、まだ終わらない。

デスゲームには、必ず見栄えのする参加者が入っている。

俺が見てきたデスゲームに、美女は毎回いた。

可愛い系はいなかった。

いても、すぐにいなくなっていた。

可愛い系は、頻繁に顔を変えることが、デスゲームでの華やぎになっていた。

デスゲームを見ているときの可愛い系への期待は、デスゲームの外にいる可愛い女の子への期待とは、まるで違う。

『今回は、可愛い系がいるのか、どういうタイプの可愛い系だ?

このタイプは、前回こういう死に方をしたけど、今回はどういう死に方をするのか、楽しみだ。』

デスゲームの視聴者の心情は、デスゲームにコメントを入れながら、釘付けになっていた俺にも、追える。

デスゲームの視聴者は、可愛い女の子のポロリに金を落とさない。

可愛い女の子は、すぐに死ぬ。

デスゲームを序盤から盛り上げるために。

連続殺人事件を扱う推理小説で言うと、序盤で発見される一人目の遺体役。

俺は、デスゲームの進行状況を考えた。

加地さんは、今回のデスゲームの美人枠だと俺は思う。

他に美人枠に該当する参加者が、新人歓迎会の部屋にはいない。

美人枠は、いるだけで画面を華やかにする。

俺が見てきたデスゲームの美人枠で、名前を知っているのはメグたんしかいないけれど、美人枠は、生き延び率が高い。

美人枠が生き延びなかった場合は、デスゲームが長引いてきたとき。

見ている方がダレてきた終盤に、命を落としている。

俺がシナリオありきだと思っていた動画が真実なら、美しい顔を歪ませて、苦しみから逃れようとしながらも、かなわずに死んでいくのを見てきている。

今までのデスゲームの構成から考察すると、新人歓迎会はまだ、前半戦の序盤ということになる。

これから、まだ、何かが起きる。

俺は、加地さんが生きていて、俺と会話してくれているうちに加地さんに、外の情報を聞いてみることにした。

ここの場所は、どこですか?
と聞くのは、デスゲーム運営から、問題視される気がする。

遠回しに聞いてみるか。

「加地さんは、どうやってらこの建物を見つけましたか?
この建物には、どうやって来ましたか?」

俺は、加地さんの答えを早く聞きたかった。

運営が、何かを始める前に。

俺の焦りが、加地さんにも伝わったようだ。

「私の手の内を明かすことはしません。

情報を仕入れて、精査するのは、私の生命線です。」
と加地さんに、拒否されてしまった。

加地さんに、俺が知りたがっている情報が何かを知られてしまった。

まずいことにならなければいいが。

と、束の間の失敗を悔やむ暇もなく、まずいことになった。

「私に協力した報酬としてなら、教えます。

私は、他の方々と違い、スケジュールがうまっていますから、こちらに長居するわけにもいかないのです。

私が出ていった後、私の目となり耳となり、私のために情報を集めて、私に寄越してください。

そうすれば、私達は、互いに知りたい情報を手に入れられます。」

笑顔で、俺をスカウトする加地さん。

目元を前髪で隠している女の視線が、俺の横顔に突き刺さる。
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