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53.新人歓迎会、だと聞いたけれど、生かして歓迎する予定があるのかは不明。なぜか、美女は、俺の正面を避ける、という法則が俺には適用される。

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鈍器を天井から降らせる新人歓迎会をする会社に、新人を生かして、歓迎するつもりはあるのか?

たくさん辞めるから、たくさん採用する方式か?

普段使わない腕の筋肉を使っている気がする。

風呂椅子は、円筒形。

持ち運ぼうとすると、抱きかかえることになる。

筋肉痛になりそうだ。

家では、抱きかかえる程重い買い物は、宅配サービスを使っていた。

腕の筋肉なんて、スマホと箸とお椀を持つくらいにしか使っていない。

健康な参加者の死に方を披露するために、参加者こそは、健康であれ、という理屈なんだろうな。

ドッジボールやスキップをさせたのは。

デスゲーム中だから、筋肉痛が確認できるのは、死んでいなければ、になる。

土のうを詰めた風呂椅子の利点を見つけた。

誰が持ち運んでいるか、が一目で分かる。

このデスゲーム中は、不意打ちの心配がない。

どう頑張っても、暗殺には、太刀打ちできないから、暗殺の心配がないのは安心できる。

風呂椅子を凶器に採用したのは、デスゲームに参加するまで、殺伐とした世界とは無縁だった新人の参加者が抵抗なく使えるから、だったりするのか?

金槌のように凶器が小さい場合、凶行の瞬間を見逃すかもしれない。

凶器は大きい方が、見ている側には、一目瞭然。

何をどうして殺したのか。

デスゲームを楽しみにしているなら、殺す瞬間を見たいだろう。

新人だと、殺し方に難がある。

視聴者に分かりやすいように、一撃必殺の鈍器として、風呂椅子を採用した説が、有力な気がしてきた。

俺は、部屋の中の人の分布を気にしている。

スキップの時間よりも、人の動きがバラけてきている。

スキップ開始前。
俺が部屋に入る前に部屋にいた人達が、一つの集団に見えた。

今は、小さい塊になっている。

投げる先を探している人。

椅子に座って動かない人。

そんな中。

スタスタと近づいてくる女が一人。

目元が長い前髪で隠れていて見えない上に、うつむいて歩いているから、顔が分からない。

俺の経験上、美女ではないと思う。

なぜか、美女は、俺の正面を避けるという法則が、俺には適用されてしまうからだ。

目元が隠れていて、顔を伏せている、スタスタ女は、俺の経験から、美女とは思わない。

デスゲーム中の部屋の中に、美人枠メグたん、のように惹きつけるような美女は一人もいない。

美女はいないけど、可愛い子は何人かいる。

一番可愛い子は、男二人と椅子に腰掛けて、笑いながら話している。

男二人と話しているなら、三人目の男として、俺が加わってもいいのでは?

デスゲーム内で、楽しそうに談笑できる空間があるなら、一回だけ、記念参加してみたい。

知らない人とは群れないと決めた。

でも、ワイワイしている人達を見ると、そっちに行きたくなる。

俺は、孤高の存在に向いていないのだろう。

家にいて、一人で、スマホからコメントを入れているとき、一人でいることは苦にならなかった。

チラっと楽しい空気を味わいたいだけで、三人のところに長居する予定はない。

あの三人は、椅子を投げつけて当てろという、運営の指示に従っていない。

すぐに、いなくなると思う。

デスゲームでの鉄則。

女の子と部屋に二人っきりになると危ない。

逆転の発想をしてみる。

大人数でいるときなら、女の子といても安全。

スタスタやってきた女を軽くいなして、可愛い子の近くに行こう、と俺は思った。

この部屋を出たら、ラキちゃんとは話してみたい、とも。

ラキちゃんとは、一回と言わずに、何回でも話したい。


前髪で目元が隠れている女は、俺の顔じゃなく、風呂椅子に視点を固定したまま話し始めた。

「私が投げるから、あなたは私に投げてください。」

同じような作戦を考えていた人がいると知れたのは、僥倖だ。

できれば、同類は、可愛い女の子が良かった。

可愛くなくても、せめて、会話をしたくなる相手が良かった。

デスゲームにいる限り、長い付き合いにはならないと分かっている。

可愛い女の子に、
『投げますね?』
と微笑まれる展開が一回くらいあっても。

もしくは、投げるときに手加減しなくていい同性か。

そうでもない女に近づかれると、こちらが気を使う。

「一回ずつ。」
俺は、目元が前髪で見えない女に、端的に答えた。

「まず、私から。」
女は、両腕を頭の上から振り下ろすように、投げてきた。

上から下に投げたら、投げられたものは、前には飛ばない。

運動神経がなくて、運動に興味もないのか。

一応当たってやってから、当て返す。

強くあてたら、倒れるか、と手加減したら、受け止めやがった。

「おい、当てるんだから、受け止めるのはなしだろう。」

「つい。」
と言う女に一回当てる。

「じゃ。」

女の持っていた風呂椅子と交換した俺は、可愛い女の子のところへ行くことにした。

すると。

目元を前髪で隠した女が、言った。
「行っちゃ嫌です。」

嫌は、俺のセリフだ。
俺は、お前の彼氏ではない。

風呂椅子を、一回、投げ合いしただけの関係なんて、関係と呼べる間柄ではないと俺は思う。
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