上 下
39 / 243

39.凶器を持っているときは、凶器の取り扱いに最新の注意を払うこと。まかり間違っても、手放してしまったら?

しおりを挟む
オーちゃんを一刺ししたのは、一番手、美人枠、メグたん、ただ一人。

二番手の、男リーダー、タツキが、オーちゃんの手から逃れて、無事に刺すのを待つのか?

時間が経てば、オーちゃんの体力が先に尽きるだろうけれど、それまで、オーちゃんとタツキはこのまま?

不自然ではない。

不自然ではないけれど。

一人一刺しは、いつすると決まっていなかった。

オーちゃんへの一人一刺しは、参加者が見せ場を作るチャンスだと、テニス経験者っぽい男は、言っていなかったか?

一人一刺しが、オーちゃんの逆襲にとって変わった?

オーちゃんの逆襲は、予定調和なのか、イレギュラーなのか。

予定調和なら、タツキには、やられ役という見せ場を用意したことになる。

オーちゃんの逆襲は、長引かなくても、オーちゃんに勝ち目がない。

喉奥までナイフを差し込まれたままのオーちゃんが、体を動かして、長く保つとは思えない。

オーちゃんの逆襲の勝者は、最初から男リーダー、タツキに決まっている。

俺が引っかかっている点は、一つ。

やられ役が逆転すると分かりきっているシナリオのやられ役を、シナリオ通りに演じたところで、デスゲームの見せ場になるか?

どうなんだ?

体育館の中は、動と静に二分されている。

動きがあるのは、オーちゃんと男リーダー、タツキ。

女リーダーチームは、リーダーを筆頭にメンバー全員が静かだ。

静かだけど、無関心なわけではない。

無関心ではないけれど。

紅一点、オーちゃんとタツキの修羅場を見ている周囲からは、どちらに対しても感情を移入した視線が一つもない。

女リーダーのチームメンバーは、女リーダーも含めて全員が、オーちゃんと男リーダー、タツキに冷めた目を向けている。

ソロ出演の槍玉に上がったのは、紅一点、オーちゃんだけ。

男リーダー、タツキの集団が、デスゲーム内の他の参加者から、どういった感情を向けられていたか。

露骨な嫌悪感は、互いに顕にしないまでも、好ましくないと思う空気感は共有されてきたのだろう。

思い返すと。

ドッジボールのチームメンバーを決めるときに、男リーダー、タツキが、自分の周りにいた仲間を指名するのは、予想通りで分かりやすかった。

男リーダーチームのメンバーは、男リーダー、タツキを中心に最初から結束していた。

女リーダーチームは、寄せ集めにしか見えなかった。

女リーダーは、男リーダーチームのメンバーを、自分から指名しようとはしなかった。

遠慮がある、とか、取り決めがあるとか、頼まれていた、とか、ではなく。

女リーダーは、男リーダー、タツキの仲間を取り込みたくなかった、のか。

ドッジボールという勝負に勝つための判断か。

感情的な判断か。

男リーダー、タツキの仲間と同じチームになると、足を引っ張る、勝負に負ける。

もしくは、地獄行きに巻き込まれる。

女リーダーは、賢明にも、戦略的に、男リーダー、タツキの仲間を指名しなかった?


オレが考えている間に、画面では動きがあった。

男リーダー、タツキは、両腕を振り回すのを止めた。

男リーダー、タツキは、オーちゃんの指が食い込む喉仏を救出しようと、ナイフを持っていない方の手で、オーちゃんの指を引き剥がそうとしている。

オーちゃんは、負けじと、自由になっている指に力を込めたのが分かった。

ギリギリと、喉を絞められて、男リーダー、タツキは、持っていたナイフを足元に落とし、片手でオーちゃんの指を、もう片方の手でオーちゃんの腕を掴んだ。

オーちゃんは、男リーダー、タツキが落としたナイフの軌道に目を向けた。

オーちゃんは、男リーダー、タツキが落としたナイフを、素早く靴で踏む。

男リーダー、タツキは、ナイフを落とした後、また拾えばいいか、ぐらいの考えだったのだろう。

ナイフを落としたとき、落としたナイフの心配をしなかった。

落としたナイフが、どうなるか、の心配を。

紅一点、オーちゃんは、男リーダー、タツキの性格をよみきっていた。

タツキが、ナイフを凶器として重視しない、ということを。

ナイフが、タツキの手から離れた瞬間に、オーちゃんは落下地点を確認して足を動かし、ナイフを確保した。

凶器を持って、誰かを襲おうとすれば、凶器を奪われて、誰かから襲われる可能性がイーブン。

紅一点、オーちゃんは、凶器を手に入れるという確率の勝負に勝った。

今のオーちゃんの体を押さえるのは、片手と肩の二人だけ。

オーちゃんは、オーちゃんの指を引き剥がそうとしているタツキの脛を、ナイフを踏んでいない方の足で蹴り、タツキの喉仏を掴んでいた手を激しく上下に動かした後、手を離した。

よろけて、たたらを踏んだタツキは、激しく咳き込んでいる。

紅一点、オーちゃんは、靴で踏んでいたナイフを蹴り上げて、自由になっている方の手にナイフを握る。

タツキが先程まで、オーちゃんに刃を向けていたナイフは、オーちゃんの手に渡った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話

赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。 「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」 そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田
ミステリー
 刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!  そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。  機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!  サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか? *追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね! *他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。 *現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

処理中です...