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第6章 コーハ王家の第4王子と高位貴族子弟の近衛は、同じ近衛である地味平凡の子爵子息の魅了で逆ハーレムを作っている、との情報が!

848.ヒロインがいなくなった!悪役令息にチャンスがきた!と思ったら、ヒロインの次は、攻略対象の妹が立ち塞がる?

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ビーイット公爵家の嫡子である兄のイリダと共に、フィリップ殿下から名前を呼ばれたマルビルは、憂鬱で仕方ない。

のそのそと、フィリップ殿下の視界に入るマルビル。

兄の姿が、フロアに見あたらない。

くそっ。
マルビルは心の内で、悪態をつく。
なんで、いつもいつも。
面倒で嫌なことばかり、兄じゃなく、自分に降りかかる。

兄が、フィリップ殿下の前に出ていったら、おまけみたいに出ていこうと考えていたマルビルは、兄が出てくるのを待っていた。

しかし、どうやら、兄はフィリップ殿下の声が届く場所にいない様子。

フィリップ殿下の前に出ていく素振りを見せないマルビルを見て、なんだコイツ、なんで王子の命令を無視しているんだと、冷たい視線が飛び交っている。

居心地は悪い。
しかし、今よりももっと居心地が悪くなるフィリップ殿下の前に出ていく気など、マルビルにはなかった。

マルビルは、風景に一体化するつもりで微動だにしないでいた。

このまま、人の中にいて、やり過ごすつもりでいる。
フィリップ殿下が、マルビルを諦めるまで。

それなのに。

呼ばれていると、親切にマルビルに教えてくれた人達によって、マルビルは、1人でフィリップ殿下の前に出ていくことになってしまった。

マルビルは、兄より先に出ていくのは、と遠慮してみせた。

しかし。
『イリダ殿が、不幸にも席を外している中で、マルビルが出ていかないのは、フィリップ殿下の命令に従わないとの意思表示になる。フィリップ殿下に睨まれるような真似はしてくれるな。』と強い口調で責められた。
ただでさえ、フィリップ殿下からの覚えが目出度くないのに、これ以上、フィリップ殿下の不興を買うな、と、くどくど。

仕方なく、マルビルは、今、全く気が進まないながら、フィリップ殿下の前に立つことになった。

マルビルは、家族のせいでいつも貧乏くじをひかされてばかりだ。

フィリップ殿下は、ジーンとは異なり、マルビルに優しくない。

人として冷たいし、偉そうだし、マルビルのことを見下していそうだし、いくら顔がいいからって、フィリップ殿下と仲良くしたいとはマルビルは思わない。

フィリップ殿下とマルビルは、ろくに交流したことがない。
成人してから、2回ほど話をしたことは、ある。
その後、マルビルは、フィリップ殿下から相手にされなくなった。

フィリップ殿下が苦手なマルビルは、フィリップ殿下に相手にされなくても困らないが、あからさまに相手にされていないと、何様かと腹が立つ。

マルビルの中で、夜会で顔を合わせたくないぶっちぎりナンバーワンが、フィリップ殿下だ。

だいたい、フィリップ殿下は、マルビルに何を聞こうというのだ。

転移陣を発動して、フィリスを送り出したのはマルビルだが、転移陣がどこに繋がっているかなんて、マルビルは、兄から聞いたことがない。

マルビルが聞いたところで、兄は無視するとマルビルは思う。

兄は、マルビルを使うが、マルビルに情報は与えようとしない。

実の弟を三下扱いするなんて、性根の腐った兄である。

そんなわけで、マルビルは、兄のしていることを手伝わされていても、兄の意図も目的も知らなければ、兄の目論見の全体像も知らない。

マルビルから話を聞こうという考えは、マルビルには迷惑でしかない。

だいたい、フィリップ殿下の前になんて、マルビルは立ちたくもないのに、呼び立てるなんて。

本当に迷惑だ。

王子だからと、好き勝手してくれて。


今まで、転移陣で送り出した人の顔は2度と見ていないから、行ったら帰れない場所に違いないとマルビルは思う。

フィリスの行き先なんて、興味はないが、地獄であればいい。

マルビルは、やられっぱなしの悪役令息で終わるつもりはなかった。

ヒロインが目の前からいなくなって、一生戻ってこないと決まれば、悪役令息のすることは1つ。

お目当ての攻略対象ジーンを再び攻略する。

ヒロインがいないなら、攻略は容易いはず。

そう思ったのに。

全く、何もかも思い通りにいかない。

フィリスがいなくなったと喜んだら、小姑が、ジーンとマルビルの邪魔をしてきたのだ。

ジーンの妹のフローレン。

サージェ侯爵家のパラディから婚約破棄されたジーンの妹。

ああ、忌々しい。


マルビルが、フィリスを転移陣で送ると、兄は夜会に戻れとマルビルに命じて、兄とマルビルとフィリスがいた部屋を出てしまった。

その後の、兄の行き先は知らない。

マルビルも兄の顔なんて、見ていたくもないから、ちょうど良かったのだ。

兄から解放されたマルビルは、ジーンの顔を思い浮かべ、スキップしたいくらい浮かれた気持ちでフロアに戻ってきた。

休憩しているジーンとフローレンの元へ、と一直線にマルビルは進む。

お邪魔虫フィリスがいなくなった。

ヒロインがいないなら、思う存分、ジーンに相手にしてもらえるはず。

マルビルがウキウキとジーンの元へ到着してみると、ジーンとフローレン嬢は休憩するくらい疲れたようで、フローレン嬢の表情がかたい。

「フローレン嬢はお疲れのようだから、どこかで休ませては?」
マルビルは親切に提案した。

小姑であるフローレン嬢がいなくなったら、ジーンはマルビルが独り占め出来る。

「今、人を呼びます。フローレン嬢。」
マルビルは、膨らむ下心が表に出ないように、押し込める。

「兄と迎えを待っているので、不要です。」
とフローレン嬢はそっけない。

「でも。お疲れのようですから。」
とマルビルは食い下がる。

「では、お疲れのわたしのために、マルビル様は、わたしと兄から離れて下さい。身内としか一緒にいたくありません。」
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