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《第4章》 雨と風と東京駅
恋熱 ☆
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彼の黒い瞳に自分の顔も映っている。口をだらしなく半開きにして、恋熱そのものの目つきで誘っている自分自身が。
――この人は誰? わたしなの?
とても見ていられなくて、バッと彼の首筋に顔をうずめた。その背中を飛豪の大きな手が抱きしめると同時に、彼はグッと腰を進めて、最奥まで一気に貫かれた。
「ぁ、ふ……」
「キツかったら、俺のこと噛んでいいから。とりあえず最後までさせて」
彼も限界なのだろう、言いながら引き抜かれて、また激しく奥まで叩きつけられる。腰を掴まれていては、逃げを打つこともできない。
何度も何度も繰りかえされているうちに、次第に別の感覚が生まれてくる。彼が通りすぎてゆくたびに生まれる、目もくらむような甘い痺れに全身から陶酔していた。
擦りあげられると、「もっと」と言いたくなる。
胎内の細胞がもっと刺激してもらいたくて、ひりつく痛みまでもがスパイスのように心地よさに溶けこんでいる。存在すべてで、彼に媚びてしがみつきたくなっていた。とめどなく快楽の蜜が湧きだしている。
呼吸がままならないくらい、あらゆる感覚器官が内側の彼に集中していた。与えられるものを果てなく瞳子の体は吸いあげようとしていた。
――もっと奥まで来てほしい。痛くてもいいから、もっと深いところ、この先まで。気が狂うくらい、何もかも忘れてしまうくらい突きぬけたところまで行きたい……。
「ね、飛豪さん……」
「なに?」
「お願い……もっと。気持ちいいから……もっと頂戴」
「――ッ」
瞬間、最奥の、子宮に届くかというところで彼が大きく揺れたのを感じた。まるで、鼓動で応えるように。次に来たのは、更に激しい律動だった。
快楽と狂気に、扉が次々とこじ開けられていく。
自分の体なのに今まで意識さえしたことのなかったその場所は、突き上げられるたび瞳子を高めていく。彼に手をひかれて、引き返せないところまで階段を一段一段のぼってゆく。
最後――真っ白な閃光がはじけて、塔の頂上から奈落へと落下した。
瞳子が意識を失っていたのは、二、三分のほんの短い間だったらしい。
寝返りをうったときの違和感と肌寒さに目を覚ますと、彼が上から覗きこんでいた。体がソファに横たえられている。全身に言いようのない気だるさが残っていた。
「お、戻ってきたか」
「えっと……今…?」
「良かった。このまま起きなかったら、風邪ひくから着替えさせようかと思ってた」
「ん……シャワー行く。体洗って、スキンケアしてから寝ます」
すっかりシワシワになってしまったけれど、いま着ているワンピースもハンガーに吊っておきたい。買ってもらった当日に雨に濡らして、そのまま行為に及んでしまって台無しだ。後でちゃんとお手入れしないと。
体の感覚が覚束ないながらも、とにかく立ち上がろうとしたら、がくんと膝から崩れおちた。腰や足に力がはいらない。咄嗟に腕をとって支えてくれたのは飛豪だった。
「危ない」
「ごめんなさい。……どうしよう。飛豪さんのせいで上手く歩けない」
「俺のせいって。お前ほんとイイ性格してんな」
「だって、最後けっこう……」激しくて、とは、なけなしの理性が恥じらっていて、瞳子は口にできない。
「さっき『もっと』って甘えてきたの誰だよ」
「その前に『俺の性欲受けとめて』って言ってきたの、そっちじゃないですか」
「最初にキスしてきたの瞳子だろ。俺はせめて、靴ぐらい脱いでから始めたかった」
「……すみません」
彼女は唇をひき結び、ふてくされた顔で謝った。飛豪は一つ笑うと、横から髪に手を挿しこんだ。指先でさらさらと梳いてゆき、手のひらで頬を包むようにする。
「とにかく風呂行こう。手伝うから」
「え……っ!」
動揺している間に、腰に両腕をまわされて肩に軽々と担ぎあげられる。先ほどのお姫様抱っこではない。これは……。
「なんで米俵運ぶみたいな感じになってるんですか⁉」
「文句あんのか。いつも優しくしてもらえると思ってんじゃねーよ」
「分かってます、そんなの!」
――知ってるよ! 飛豪さんに甘やかされるのが当然だなんて、一度だって思ったことない。
だから辛いのだ。こんなの偽りの関係だと、最初からずっと分かっている。彼はお金で、瞳子は体で支払う。
体と心はつながっている。
体を甘やかされると、心まで甘やかされた気がしてしまう。いつか離れなくてはいけないのに。だったら最初から、面倒で嫌な女だと思われていたほうがいい。愛想をつかされて、冷たくされるぐらいがいい。
口ゲンカを再勃発させながら、バスルーム手前のパウダールームの扉を飛豪は開く。
ようやく地面に下ろしてもらってワンピースを脱ぐと、下着姿の自分が耐えがたく恥ずかしかった。思わず背をむけて、その場にしゃがみこむ。
彼はさすがに二〇代前半女子の羞恥心は理解してくれたらしい。
「照明落としていいから。ゆっくり支度して来な」
それだけ言いおくと、さっさと服を脱いでバスルームに入っていった。
――この人は誰? わたしなの?
とても見ていられなくて、バッと彼の首筋に顔をうずめた。その背中を飛豪の大きな手が抱きしめると同時に、彼はグッと腰を進めて、最奥まで一気に貫かれた。
「ぁ、ふ……」
「キツかったら、俺のこと噛んでいいから。とりあえず最後までさせて」
彼も限界なのだろう、言いながら引き抜かれて、また激しく奥まで叩きつけられる。腰を掴まれていては、逃げを打つこともできない。
何度も何度も繰りかえされているうちに、次第に別の感覚が生まれてくる。彼が通りすぎてゆくたびに生まれる、目もくらむような甘い痺れに全身から陶酔していた。
擦りあげられると、「もっと」と言いたくなる。
胎内の細胞がもっと刺激してもらいたくて、ひりつく痛みまでもがスパイスのように心地よさに溶けこんでいる。存在すべてで、彼に媚びてしがみつきたくなっていた。とめどなく快楽の蜜が湧きだしている。
呼吸がままならないくらい、あらゆる感覚器官が内側の彼に集中していた。与えられるものを果てなく瞳子の体は吸いあげようとしていた。
――もっと奥まで来てほしい。痛くてもいいから、もっと深いところ、この先まで。気が狂うくらい、何もかも忘れてしまうくらい突きぬけたところまで行きたい……。
「ね、飛豪さん……」
「なに?」
「お願い……もっと。気持ちいいから……もっと頂戴」
「――ッ」
瞬間、最奥の、子宮に届くかというところで彼が大きく揺れたのを感じた。まるで、鼓動で応えるように。次に来たのは、更に激しい律動だった。
快楽と狂気に、扉が次々とこじ開けられていく。
自分の体なのに今まで意識さえしたことのなかったその場所は、突き上げられるたび瞳子を高めていく。彼に手をひかれて、引き返せないところまで階段を一段一段のぼってゆく。
最後――真っ白な閃光がはじけて、塔の頂上から奈落へと落下した。
瞳子が意識を失っていたのは、二、三分のほんの短い間だったらしい。
寝返りをうったときの違和感と肌寒さに目を覚ますと、彼が上から覗きこんでいた。体がソファに横たえられている。全身に言いようのない気だるさが残っていた。
「お、戻ってきたか」
「えっと……今…?」
「良かった。このまま起きなかったら、風邪ひくから着替えさせようかと思ってた」
「ん……シャワー行く。体洗って、スキンケアしてから寝ます」
すっかりシワシワになってしまったけれど、いま着ているワンピースもハンガーに吊っておきたい。買ってもらった当日に雨に濡らして、そのまま行為に及んでしまって台無しだ。後でちゃんとお手入れしないと。
体の感覚が覚束ないながらも、とにかく立ち上がろうとしたら、がくんと膝から崩れおちた。腰や足に力がはいらない。咄嗟に腕をとって支えてくれたのは飛豪だった。
「危ない」
「ごめんなさい。……どうしよう。飛豪さんのせいで上手く歩けない」
「俺のせいって。お前ほんとイイ性格してんな」
「だって、最後けっこう……」激しくて、とは、なけなしの理性が恥じらっていて、瞳子は口にできない。
「さっき『もっと』って甘えてきたの誰だよ」
「その前に『俺の性欲受けとめて』って言ってきたの、そっちじゃないですか」
「最初にキスしてきたの瞳子だろ。俺はせめて、靴ぐらい脱いでから始めたかった」
「……すみません」
彼女は唇をひき結び、ふてくされた顔で謝った。飛豪は一つ笑うと、横から髪に手を挿しこんだ。指先でさらさらと梳いてゆき、手のひらで頬を包むようにする。
「とにかく風呂行こう。手伝うから」
「え……っ!」
動揺している間に、腰に両腕をまわされて肩に軽々と担ぎあげられる。先ほどのお姫様抱っこではない。これは……。
「なんで米俵運ぶみたいな感じになってるんですか⁉」
「文句あんのか。いつも優しくしてもらえると思ってんじゃねーよ」
「分かってます、そんなの!」
――知ってるよ! 飛豪さんに甘やかされるのが当然だなんて、一度だって思ったことない。
だから辛いのだ。こんなの偽りの関係だと、最初からずっと分かっている。彼はお金で、瞳子は体で支払う。
体と心はつながっている。
体を甘やかされると、心まで甘やかされた気がしてしまう。いつか離れなくてはいけないのに。だったら最初から、面倒で嫌な女だと思われていたほうがいい。愛想をつかされて、冷たくされるぐらいがいい。
口ゲンカを再勃発させながら、バスルーム手前のパウダールームの扉を飛豪は開く。
ようやく地面に下ろしてもらってワンピースを脱ぐと、下着姿の自分が耐えがたく恥ずかしかった。思わず背をむけて、その場にしゃがみこむ。
彼はさすがに二〇代前半女子の羞恥心は理解してくれたらしい。
「照明落としていいから。ゆっくり支度して来な」
それだけ言いおくと、さっさと服を脱いでバスルームに入っていった。
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