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第92話「ポミエ村へ①」
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翌日……
急いで旅支度を整えたディーノは、
依頼者のオレリアを伴い、ポミエ村へと出発した。
隣国ルナール王国への街道を北に向かう事となる。
その途中に、ポミエ村があるのだ。
飛竜亭のニーナはディーノの身を案じ、涙ぐんで別れを惜しんだが……
ポミエ村へ迫り来るゴブリンどもの脅威を考えると、たった一日たりとも無駄には出来ない。
ニーナの真心に心を動かされそうになったディーノであったが……
心を鬼にして、旅だったのである。
旅立つディーノへ、強引に割り込む形で……
ステファニー率いる新生クラン鋼鉄の処女団のメンバーも同行していた。
そのステファニーから命じられ、ディーノは御者として、
鋼鉄の処女団専用馬車の手綱を取っている。
北国ルナールへの街道は、途中まで石畳。
だが、途中からは全く舗装されていない、
地面を均《なら》しただけの大きめの野道へと変わる。
しかしディーノにとって、御者の仕事は『お手の物』だといえる。
何せ、ステファニー専用の御者として、4年以上散々こき使われたのだ。
それも現在通る街道周辺より遥かに僻地のフォルス周辺である。
悪路における馬車の扱いには慣れていた。
さてさて!
3名が一度に座れる馬車前部の御者台には、
真ん中にディーノ、左側にはオレリア、右側にはマドレーヌが座っている。
ふたりはディーノにぴったり寄り添っていた。
表情も柔らかで「触れなば落ちん」という趣きである。
マドレーヌはディーノに『ほのかな想い』を持っていたし、
オレリアは既に、依頼を引き受けたディーノの『妻』となる事を決めていた。
つまりディーノは両手に花。
もしもここが王都なら「爆発しろ!」と男子達から、
容赦なく激しい罵声を浴びるに違いない。
もう見覚えのある風景なのだろう。
オレリアが周囲を見回して、自信ありげに言う。
「ディーノさん、もう1時間ほど走ればポミエ村よ」
「成る程」
とディーノが返せば、今度はマドレーヌが負けじ?と、
「ねえ、ディーノ。何か、ヤバイ気配がするよ。シーフの勘って奴かな」
と、言えば……
オレリアも同意する。
「うん、マドレーヌさんの言う通りよ。この付近でも村民が、ゴブリンどもに襲われているから」
「ふうむ……既に奴らの『勢力圏内』って事か」
「ええ、その通りね」
「うん、油断せずに行こうよ」
しかし!
ディーノは既に『先手』を打っていた。
王都を出発する前に、ケルベロスとオルトロスの魔獣兄弟を召喚し、
馬車から少し離れた右方と左方へ……
兄弟をゴブリン共を監視する斥候、つまり『索敵担当』として放っていたのだ。
丁度、兄ケルベロスから念話で報告が入って来る。
ディーノは徐々に長距離の念話にも慣れて来ていた。
『おいおいディーノ! お前から聞いた総数1,000頭どころじゃないぞ。俺の周囲だけで、ほぼそれだけ居やがる』
『そうか! じゃあ、奴らの本拠地たる巣穴には最低その数倍は……居るな』
『ああ、少なくとも数千以上のゴブリンが居るだろうよ』
1匹見かけたら、その数倍。
ディーノは、つい笑ってしまう。
『ふっ、まるでゴキブリみたいな奴らだな』
『はっ、言い得て妙だ。……まあ、俺とオルトロスが協力して、まともにやりあえば数千のゴブリンなど雑魚であり、敵ではない。しかしお前達だけだと相当難儀するのは確実だ』
『ああ、ケルベロス、分かった! けして馬車に近付かせないよう、上手く牽制してくれ』
『おう! 了解した、任せろ!』
続いて、オルトロスからも、
『ディーノ! 俺の周囲も兄貴と全く同じ状況だ。1,000近い数のゴブリンが群れていやがる』
『頼むぞ、オルトロス! 絶対馬車へ近付かせないよう、……何だったら、蹴散らしてくれてもOKだ!』
『イエッサー!』
弟オルトロスへの念話における指示が、兄ケルベロスへもしっかりと聞こえたのだろう。
やがて、左右の森から凄まじい咆哮が聞こえて来る。
咆哮はやや遠くから聞こえるから……
冥界の魔獣兄弟が、
馬車へ近付こうとするゴブリンどもを上手く威嚇しているに違いない。
「ひ!」
「やだ、何?」
思わずオレリアが悲鳴をあげ、さすがに魔物慣れしたマドレーヌは、
パニックには陥らず、周囲を見回すが、ゴブリンどもの姿は見えない。
「あの声、絶対ゴブリンどもじゃないよ!」
「オレリアの言う通り! 確かに違う! もっと恐ろしい奴らかも!」
見えない『敵』にオレリアは怯え、マドレーヌは改めて気合を入れ直す。
そして馬車の車内では、ディーノに知る由もなかったが……
魔獣の咆哮を聞き……
鋼鉄の処女団のメンバーのジョルジエットとタバサは警戒して身構えていた。
だが、新リーダー、大嵐ことステファニーと、
元リーダー『荒れ狂う猛獣』ことロクサーヌ……
ふたりの『女傑』は泰然自若、まるで何事もなかったかのように堂々としていたのであった。
急いで旅支度を整えたディーノは、
依頼者のオレリアを伴い、ポミエ村へと出発した。
隣国ルナール王国への街道を北に向かう事となる。
その途中に、ポミエ村があるのだ。
飛竜亭のニーナはディーノの身を案じ、涙ぐんで別れを惜しんだが……
ポミエ村へ迫り来るゴブリンどもの脅威を考えると、たった一日たりとも無駄には出来ない。
ニーナの真心に心を動かされそうになったディーノであったが……
心を鬼にして、旅だったのである。
旅立つディーノへ、強引に割り込む形で……
ステファニー率いる新生クラン鋼鉄の処女団のメンバーも同行していた。
そのステファニーから命じられ、ディーノは御者として、
鋼鉄の処女団専用馬車の手綱を取っている。
北国ルナールへの街道は、途中まで石畳。
だが、途中からは全く舗装されていない、
地面を均《なら》しただけの大きめの野道へと変わる。
しかしディーノにとって、御者の仕事は『お手の物』だといえる。
何せ、ステファニー専用の御者として、4年以上散々こき使われたのだ。
それも現在通る街道周辺より遥かに僻地のフォルス周辺である。
悪路における馬車の扱いには慣れていた。
さてさて!
3名が一度に座れる馬車前部の御者台には、
真ん中にディーノ、左側にはオレリア、右側にはマドレーヌが座っている。
ふたりはディーノにぴったり寄り添っていた。
表情も柔らかで「触れなば落ちん」という趣きである。
マドレーヌはディーノに『ほのかな想い』を持っていたし、
オレリアは既に、依頼を引き受けたディーノの『妻』となる事を決めていた。
つまりディーノは両手に花。
もしもここが王都なら「爆発しろ!」と男子達から、
容赦なく激しい罵声を浴びるに違いない。
もう見覚えのある風景なのだろう。
オレリアが周囲を見回して、自信ありげに言う。
「ディーノさん、もう1時間ほど走ればポミエ村よ」
「成る程」
とディーノが返せば、今度はマドレーヌが負けじ?と、
「ねえ、ディーノ。何か、ヤバイ気配がするよ。シーフの勘って奴かな」
と、言えば……
オレリアも同意する。
「うん、マドレーヌさんの言う通りよ。この付近でも村民が、ゴブリンどもに襲われているから」
「ふうむ……既に奴らの『勢力圏内』って事か」
「ええ、その通りね」
「うん、油断せずに行こうよ」
しかし!
ディーノは既に『先手』を打っていた。
王都を出発する前に、ケルベロスとオルトロスの魔獣兄弟を召喚し、
馬車から少し離れた右方と左方へ……
兄弟をゴブリン共を監視する斥候、つまり『索敵担当』として放っていたのだ。
丁度、兄ケルベロスから念話で報告が入って来る。
ディーノは徐々に長距離の念話にも慣れて来ていた。
『おいおいディーノ! お前から聞いた総数1,000頭どころじゃないぞ。俺の周囲だけで、ほぼそれだけ居やがる』
『そうか! じゃあ、奴らの本拠地たる巣穴には最低その数倍は……居るな』
『ああ、少なくとも数千以上のゴブリンが居るだろうよ』
1匹見かけたら、その数倍。
ディーノは、つい笑ってしまう。
『ふっ、まるでゴキブリみたいな奴らだな』
『はっ、言い得て妙だ。……まあ、俺とオルトロスが協力して、まともにやりあえば数千のゴブリンなど雑魚であり、敵ではない。しかしお前達だけだと相当難儀するのは確実だ』
『ああ、ケルベロス、分かった! けして馬車に近付かせないよう、上手く牽制してくれ』
『おう! 了解した、任せろ!』
続いて、オルトロスからも、
『ディーノ! 俺の周囲も兄貴と全く同じ状況だ。1,000近い数のゴブリンが群れていやがる』
『頼むぞ、オルトロス! 絶対馬車へ近付かせないよう、……何だったら、蹴散らしてくれてもOKだ!』
『イエッサー!』
弟オルトロスへの念話における指示が、兄ケルベロスへもしっかりと聞こえたのだろう。
やがて、左右の森から凄まじい咆哮が聞こえて来る。
咆哮はやや遠くから聞こえるから……
冥界の魔獣兄弟が、
馬車へ近付こうとするゴブリンどもを上手く威嚇しているに違いない。
「ひ!」
「やだ、何?」
思わずオレリアが悲鳴をあげ、さすがに魔物慣れしたマドレーヌは、
パニックには陥らず、周囲を見回すが、ゴブリンどもの姿は見えない。
「あの声、絶対ゴブリンどもじゃないよ!」
「オレリアの言う通り! 確かに違う! もっと恐ろしい奴らかも!」
見えない『敵』にオレリアは怯え、マドレーヌは改めて気合を入れ直す。
そして馬車の車内では、ディーノに知る由もなかったが……
魔獣の咆哮を聞き……
鋼鉄の処女団のメンバーのジョルジエットとタバサは警戒して身構えていた。
だが、新リーダー、大嵐ことステファニーと、
元リーダー『荒れ狂う猛獣』ことロクサーヌ……
ふたりの『女傑』は泰然自若、まるで何事もなかったかのように堂々としていたのであった。
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