232 / 257
第232話「何か言われたら、改めれば良い。 最初は礼儀正しく行こう」
しおりを挟む
……そうこうしているうち、目的地へ。
トリッシュさんの実家、居酒屋邂逅亭へ、到着した。
ちなみに、邂逅亭の場所は王都中央広場から少し離れた通りの角にある。
無骨な丸太を割った看板を掲げた路面店で、
石造り、木造りが混在した、店舗兼住宅の家屋である。
現在の時刻は午前11時過ぎ。
店舗前にリヴァロル公爵家の馬車を止めて貰い、全員降りる。
このまま駐車は出来ないので、御者さんには一旦、公爵邸へ戻って貰い、
再び午後1時に迎えに来て貰う事に。
……この後、午後2時のアポイントで、冒険者ギルドにおいて、
運営責任者の業務部イベント課のエリク・ベイロン課長に会う予定だ。
王立闘技場のトーナメント、ファルコ王国王家主催武術大会参加の打ち合わせをする為である。
本日、トリッシュさんのご両親は、邂逅亭の特製ランチでもてなしてくれるという。
6人で、楽しくわいわい会食しながら、懇親を深めるという趣旨だ。
俺がアラン・モーリアでプレイしていた頃は、邂逅亭を利用した事はなかった。
だから行くのは初めて。
トリッシュさんから聞いた話では、
邂逅亭の料理は庶民が気軽に食べられるメニューで、料金もリーズナブルだとか。
今日のランチ会、俺と秘書は、本当に楽しみにしていた。
やはり一緒に食事を摂ると、心の距離が縮まる。
それに加え、楽しい雰囲気の中、プレッシャーを受けずに、
トリッシュさんのご両親へ、儀式を行えるのも嬉しい。
「パトリシアさんを、絶対幸せにします! 僕にください!」
ってね。
あ、念の為、パトリシアさんは、トリッシュさんの本名だ。
さすがにこういう時、結婚する彼女を愛称で呼ぶのはいかがなものかだろう。
さてさて!
馬車は去り、俺と秘書達は邂逅亭の出入り口前へ。
出入り口には大きな木札がかかっていた。
『本日ランチ貸し切り!』と記されている。
そう……俺達との会食の為、トリッシュさんのご両親が貸し切りにしてくれたのだ。
俺達4人の先頭を切って歩くのは、当然トリッシュさんである。
扉を開け、店内をのぞき、開口一番。
「パパあ、ママあ、たっだいまあ!」
声を張り上げ、店内へ手を振るトリッシュさん。
対して、
「あらあ! トリッシュ! 待っていたのよお! お帰りなさあい! 旦那様はあ? 皆さんもご一緒なのお?」
トリッシュさんによく似た声が、応えて来た。
すると、トリッシュさんも再び手を振りつつ応え、
「はあ~いっ! 一緒よ~っ!!」
と返事をし、にっこり微笑んだ。
「さあ! ロイク様! 姉達! どうぞ! 私が育った家へ!」
トリッシュさんへ誘《いざな》われた俺達は、邂逅亭の店内へ入ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……邂逅亭の店内は、結構な広さである。
普段は、メイド服姿の女子従業員が居るが、本日は夜勤担当のみで、姿は見えない。
現在居るのはトリッシュさんのご両親のみという事。
頑丈な板張りの床。
壁には、ファルコ王国の風景画が何枚も飾られていた。
年季の入った渋い円卓のテーブル席、バーカウンターの如く渋い木造のカウンター席を合わせると、100人少しが収容可能なキャパだとか。
ランチは勿論、夕方から夜半は大混雑するのだろうなあと想像出来る。
お母さんが、ニコニコして、こちらへ歩いて来た。
トリッシュさんが、40代の大人になったという感じで、結構な美人さんだ。
そして先ほど、トリッシュさんに応えたお母さんの声を聞きつけ、
身長180cm越え、筋骨隆々なお父さんも厨房から現れた。
50歳を過ぎたお父さんだが、元戦士だけあってごつい。
顔は強面だが、笑ってる。
むむむ、アメリー様同様、結婚を決めた彼女の両親と初めて会う時は、やはり緊張するなあ。
「は、初めまして!」
と、俺があいさつすると、お父さんが開いた右手をすっと突き出した。
ストップ。
あいさつは、こちらからするぞ、という意思表示であろう。
了解した俺が一礼すると、お父さんはにっこりし、あいさつする。
「ロイク様! 皆様! 初めまして、パトリシアの父ロジェ・ラクルテルでございます。いつもウチの娘がお世話になっております」
「ロイク様! 皆様! 初めまして、パトリシアの母リディアーヌでございます。
いつもウチの娘がお世話になっております」
トリッシュさんのご両親があいさつしたので、次は俺だ。
「初めまして! ロジェ・ラクルテル様! 初めまして! リディアーヌ・ラクルテル様! ロイク・アルシェと申します!」
平民ではあるが、目上で義両親になるおふたりである。
伯爵になりたての俺が威張るのはいかがなものか。
ここは爵位、役職は抜きで名乗ろう。
何か言われたら、改めれば良い。
最初は礼儀正しく行こう。
俺は、はきはきとあいさつし、再び一礼していたのである。
トリッシュさんの実家、居酒屋邂逅亭へ、到着した。
ちなみに、邂逅亭の場所は王都中央広場から少し離れた通りの角にある。
無骨な丸太を割った看板を掲げた路面店で、
石造り、木造りが混在した、店舗兼住宅の家屋である。
現在の時刻は午前11時過ぎ。
店舗前にリヴァロル公爵家の馬車を止めて貰い、全員降りる。
このまま駐車は出来ないので、御者さんには一旦、公爵邸へ戻って貰い、
再び午後1時に迎えに来て貰う事に。
……この後、午後2時のアポイントで、冒険者ギルドにおいて、
運営責任者の業務部イベント課のエリク・ベイロン課長に会う予定だ。
王立闘技場のトーナメント、ファルコ王国王家主催武術大会参加の打ち合わせをする為である。
本日、トリッシュさんのご両親は、邂逅亭の特製ランチでもてなしてくれるという。
6人で、楽しくわいわい会食しながら、懇親を深めるという趣旨だ。
俺がアラン・モーリアでプレイしていた頃は、邂逅亭を利用した事はなかった。
だから行くのは初めて。
トリッシュさんから聞いた話では、
邂逅亭の料理は庶民が気軽に食べられるメニューで、料金もリーズナブルだとか。
今日のランチ会、俺と秘書は、本当に楽しみにしていた。
やはり一緒に食事を摂ると、心の距離が縮まる。
それに加え、楽しい雰囲気の中、プレッシャーを受けずに、
トリッシュさんのご両親へ、儀式を行えるのも嬉しい。
「パトリシアさんを、絶対幸せにします! 僕にください!」
ってね。
あ、念の為、パトリシアさんは、トリッシュさんの本名だ。
さすがにこういう時、結婚する彼女を愛称で呼ぶのはいかがなものかだろう。
さてさて!
馬車は去り、俺と秘書達は邂逅亭の出入り口前へ。
出入り口には大きな木札がかかっていた。
『本日ランチ貸し切り!』と記されている。
そう……俺達との会食の為、トリッシュさんのご両親が貸し切りにしてくれたのだ。
俺達4人の先頭を切って歩くのは、当然トリッシュさんである。
扉を開け、店内をのぞき、開口一番。
「パパあ、ママあ、たっだいまあ!」
声を張り上げ、店内へ手を振るトリッシュさん。
対して、
「あらあ! トリッシュ! 待っていたのよお! お帰りなさあい! 旦那様はあ? 皆さんもご一緒なのお?」
トリッシュさんによく似た声が、応えて来た。
すると、トリッシュさんも再び手を振りつつ応え、
「はあ~いっ! 一緒よ~っ!!」
と返事をし、にっこり微笑んだ。
「さあ! ロイク様! 姉達! どうぞ! 私が育った家へ!」
トリッシュさんへ誘《いざな》われた俺達は、邂逅亭の店内へ入ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……邂逅亭の店内は、結構な広さである。
普段は、メイド服姿の女子従業員が居るが、本日は夜勤担当のみで、姿は見えない。
現在居るのはトリッシュさんのご両親のみという事。
頑丈な板張りの床。
壁には、ファルコ王国の風景画が何枚も飾られていた。
年季の入った渋い円卓のテーブル席、バーカウンターの如く渋い木造のカウンター席を合わせると、100人少しが収容可能なキャパだとか。
ランチは勿論、夕方から夜半は大混雑するのだろうなあと想像出来る。
お母さんが、ニコニコして、こちらへ歩いて来た。
トリッシュさんが、40代の大人になったという感じで、結構な美人さんだ。
そして先ほど、トリッシュさんに応えたお母さんの声を聞きつけ、
身長180cm越え、筋骨隆々なお父さんも厨房から現れた。
50歳を過ぎたお父さんだが、元戦士だけあってごつい。
顔は強面だが、笑ってる。
むむむ、アメリー様同様、結婚を決めた彼女の両親と初めて会う時は、やはり緊張するなあ。
「は、初めまして!」
と、俺があいさつすると、お父さんが開いた右手をすっと突き出した。
ストップ。
あいさつは、こちらからするぞ、という意思表示であろう。
了解した俺が一礼すると、お父さんはにっこりし、あいさつする。
「ロイク様! 皆様! 初めまして、パトリシアの父ロジェ・ラクルテルでございます。いつもウチの娘がお世話になっております」
「ロイク様! 皆様! 初めまして、パトリシアの母リディアーヌでございます。
いつもウチの娘がお世話になっております」
トリッシュさんのご両親があいさつしたので、次は俺だ。
「初めまして! ロジェ・ラクルテル様! 初めまして! リディアーヌ・ラクルテル様! ロイク・アルシェと申します!」
平民ではあるが、目上で義両親になるおふたりである。
伯爵になりたての俺が威張るのはいかがなものか。
ここは爵位、役職は抜きで名乗ろう。
何か言われたら、改めれば良い。
最初は礼儀正しく行こう。
俺は、はきはきとあいさつし、再び一礼していたのである。
1
お気に入りに追加
953
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。
しかし、ある日――
「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」
父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。
「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」
ライルは必死にそうすがりつく。
「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」
弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。
失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。
「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」
ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。
だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。
追放された付与術士、別の職業に就く
志位斗 茂家波
ファンタジー
「…‥‥レーラ。君はもう、このパーティから出て行ってくれないか?」
……その一言で、私、付与術士のレーラは冒険者パーティから追放された。
けれども、別にそういう事はどうでもいい。なぜならば、別の就職先なら用意してあるもの。
とは言え、これで明暗が分かれるとは……人生とは不思議である。
たまにやる短編。今回は流行りの追放系を取り入れて見ました。作者の他作品のキャラも出す予定デス。
作者の連載作品「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」より、一部出していますので、興味があればそちらもどうぞ。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる