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第151話「作戦は見事にはまった」

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俺と秘書3人が、リヴァロル公爵家別棟の内見をした3日後の午後2時。

ルナール商会のホテルで荷物をまとめ、収納の腕輪へ入れた俺は、
リヴァロル公爵家の別棟への引っ越しを行った。

平日の午後早めだから、グレゴワール様も、ジョルジエット様も、アメリー様も不在。

グレゴワール様が、おっしゃっていた通り、荷物を取りに行ったホテルから戻ると、
リヴァロル公爵家の者達が『出向』と扱いで赴き、
別棟の使用人として、玄関の前で、主の俺を待っていた。 

使用人の人数は、家令が1名に、男女の使用人が5名ずつと、都合総勢11名。
真剣な表情をして、ずらりと並んでいる。

勢ぞろいした使用人たちの、5mくらい前に、家令セバスチャンさんが、
ひとり立っていた。

セバスチャンさんは、俺に直接仕えるわけではない。

だが、リヴァロル公爵家の本家の使用人を統括するという立場上、重々しく言う。

「ロイク・アルシェ様」

「うむ」

「リヴァロル公爵家の後継者として、栄えある王国執行官として、使用人一同、ロイク様には、一生変わらぬ忠誠を誓いましょう」

「ああ、宜しく頼むぞ」

念の為。
うむとか、ああとか。
こういうやりとり、俺は好き好んでやっているわけではない。

グレゴワール様から、使用人に対しては、
泰然自若とし、鷹揚にふるまえと、命じられているからだ。

ここでセバスチャンさんは、今回別棟の家令を命じられた、
ひとりの女性の名を呼ぶ。

「デルフィーヌ・ブルジェ!」

「はい!」

凛とした声で返事をし、整列していた中で、一歩前に出たのは、
栗毛の髪を肩まで伸ばした、40代半ばの女性である。
すらりとしたスレンダースタイル。
きりりとした顔立ち。

いかにも、仕事が出来るって感じ。

この女性……デルフィーヌ・ブルジェさんは、以前紹介して貰った事があった。

リヴァロル公爵家において、
侍女頭を15年以上、副家令を10年以上務めているベテランだ。

そして、このデルフィーヌさんを別棟の家令へ、
「ぜひに!」と推したのは、当主のグレゴワール様だという。
何か、深い考えがあるのかもしれない。

「デルフィーヌよ。別棟の家令として、今後はお前が、その10人を統括し、邸内を仕切るのだ。但し、ロイク様には忠実に仕え、絶対服従の事……分かったな?」 

「かしこまりました! 創世神様に誓い、ロイク様に忠実に仕え、絶対服従致します!」

ええっと、忠実に仕えるのはともかく、
絶対服従って、大げさに聞こえるかもしれない。

けれど、ステディ・リインカネーションの世界において、
これは親愛の情を示す言葉なのだ。

「「「「「創世神様に誓い、ロイク様に忠実に仕え、絶対服従致します!」」」」」

他の10人の使用人も、同じく誓い、リヴァロル公爵家の別棟への引っ越しは、
無事完了したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

俺が、リヴァロル公爵家の別棟へ引っ越しを終えたのを、3人の秘書へ連絡したら……彼女達も間を置かず、次々に引っ越しして来る事となった。

その間、秘書達が引っ越して来るまでに、
俺は、ジョルジエット様、アメリー様へ、改めて秘書達3人の話をしておいた。

ジョルジエット様、アメリー様は、秘書達が、俺と同じ3階で居住すると聞き、
大いに難色を示したが……

結局、筆頭秘書?のシルヴェーヌさんといろいろ話すという事になった。

シルヴェーヌさんは、幼い頃からジョルジエット様の警護役だったらしい。
ジョルジエット様にとって、頼れる姉という感じで、お互いに気心が知れているという。
アメリー様も、シルヴェーヌさんの事は、良く知っているみたいだし。

シルヴェーヌさんと話す際、トリッシュさん、シャルロットさん、
残りの秘書ふたりも交えればという、俺の提案。
それにジョルジエット様、アメリー様は、賛成してくれたのだ。

話し合いは、別棟3階の、俺の書斎で行う事になった。
この書斎には、10人ほどが収容可能な応接室がついているから、丁度良い。

当然、別棟の家令であるデルフィーヌさんに、話を通しておかねばならない。
俺は改めて、ジョルジエット様、アメリー様との話を全て、
デルフィーヌさんへ伝えた。
更に、先日交わされた、別棟内見の際の秘書達とのやりとりも。

実はこのデルフィーヌさんも、ジョルジエット様とは深い間柄。
母と死別した幼い傷心のジョルジエット様を、慰め励ましたのが、
当時既に侍女頭を務めていたデルフィーヌさんだった。

デルフィーヌさんは当然、ジョルジエット様の警護役だった、
現筆頭秘書?のシルヴェーヌさんの事も良く知っている。

「ロイク様」

「はい」

「もし、お許し頂けるのであれば、その話し合い、私も同席させて頂けないでしょうか?」

「デルフィーヌさんを?」

「いけませんよ、ロイク様。私にさん付けは不要だと申し上げたはずですが」

ああ、叱られてしまった。
使用人にはさん付けは不要だと、デルフィーヌさんからは、何度も注意されている。

秘書に対してもそうだと、釘を刺されていたっけ……

デルフィーヌさんは言う。

「話を戻しますと、私は、ジョルジエット様、アメリー様、シルヴェーヌ様の3人全員を良く存じ上げております。家令という、違う視点で意見が出せるのは勿論、気心が知れた第三者の私が入る事で、緊張が緩和され、話し合いは険悪な雰囲気にならないと思います」

成る程。
デルフィーヌさんの言う事は一理ある。

いろいろな展開の可能性を考えたが、デメリットはなさそうだ。

俺はデルフィーヌさんの参加をOKする事にした。

という事で、ジョルジエット様、アメリー様、
そして引っ越して来たシルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさん、
デルフィーヌさん、そして俺の話し合いがもたれ……存分に意見が交わされた。

作戦は見事にはまった。
デルフィーヌさんという中和剤のおかげで、
予想通り険悪な雰囲気にはならなかった。

俺の秘書、家令を決めたのはグレゴワール様。

心の底から納得した。

ここまでの展開、結果を読み切って、
秘書にシルヴェーヌさんを、別棟の家令にデルフィーヌさんを抜擢したとしたら、
さすがは鬼宰相、グレゴワール様の慧眼は、凄まじいと思う。

結局は、ジョルジエット様、アメリー様を立てた序列を考えてという条件で、
上手く折り合いがつき……

きままなホテルのひとり暮らしから、
大勢の美しい女子達と貴族の屋敷で暮らすという、
リア充な生活スタイルへと、俺の日常は大きく変わったのである。
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