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第118話「ああ、既に本人には了解を取ってある!」

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ギルドマスターのテオドールさんは、

「ロイク君、君が倒したドラゴンの死骸の販売先に関して、出した希望は基本的に受け入れよう。加えて君のランクアップも行う。……但し、条件がある!」

と言い、にやりと笑った。

ええっと……事前にトリッシュさん経由で伝えた、
倒したドラゴンの死骸の販売先に関して、俺の条件はこうだった。

ドラゴン10体のうち、7体をギルドへ売却。
2体をお世話になっているルナール商会へ売却。
残りの1体で、自分用の武具を製作というもの。
またランクアップして貰えるのならば、快くOKしますと。

希望を受け入れて貰うのは素直に嬉しい。
だが、条件提示の言葉とテオドールさんの、『にやり顔』が気になる。

さあて!
条件とやらを聞こう。

「うむ、条件というのはだな。ロイク君には、ギルドの要職について欲しい」

「ギルドの要職? ですか」

「うむ、ずばり言えば、君には、ウチのサブマスターになって欲しいのだ」

「え? 俺が冒険者ギルドのサブマスターですか?」

「ああ、君をランクAに昇格させ、同時にサブマスターとする。この幹部会議において、全員一致で、承認する事としたのだ」

「はあ、成る程」

素敵なオファーを頂きながら、俺は興奮しない。
ひどく冷静であった。

そんな俺を見て、テオドールさんは、少し戸惑いながら、

「う、うむ! 聞けば君は、冒険者ギルドに登録しながら、フリーで直の仕事を受けているというではないか。それよりも、肩書きのある定職についた方が安定するし、将来への備えにもなる」

成る程……
冒険者ギルドの幹部職員サブマスターになった方が、安定するし、
将来の備えにもなるか。

何か、前世の両親みたいな事を言うなあ。

まあ、確かに、テオドールさん、ギルドマスターの言う事には一理ある。

しかし、同時に違うだろ、とも思った。

俺は、ダークサイド企業に勤めたり、
転生し、故郷のよろず屋でこきつかわれた、今までの経験から、
「組織に縛られるのは絶対に嫌だ!」と考えた。

だから『フリーの自営業者』つまり『何でも屋』になると決めたんだ。

『フリーの自営業者』『何でも屋』……

不安定さは否めないが、あえて組織には所属せず、
いち個人としていろいろな仕事をして、経験を積み、
ライフワークと思える仕事に巡り合ったら、最終的にそれを選択する。

そんなわけで、『フリーの自営業者』を始めたが、
既に、いろいろな道が俺の前に示されている。

お世話になっているルナール商会からは、ゆくゆくは社員になって欲しいと言われている。
仕事をこなし、そこそこ元手が出来たから、商会と提携しながら、
何か商売を始めても構わない。

鬼宰相グレゴワール・リヴァロル公爵様からは、
貴族家への養子入り紹介の話があるし、
ジョルジエット様、アメリー様との交際の話と、彼女達ふたりを護衛するオファーもある。

で、今回は、冒険者ギルドサブマスター就任のオファーである。

冒険者ギルドは好きだし、お世話になっているけれど、いかがなものか。
生涯の仕事にしてもOKだろうか?

そのように考え込む俺に対し、
テオドールさんは、『次の一手』を放って来たのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

またまた、テオドールさんは、にんまりと笑う。

「ロイク君に実感がわかないようだから、もう少し、当冒険者ギルドからのオファーの説明をさせて貰おう」

「はあ、謹んでお聞き致します」

「給与など待遇、勤務条件は最大限考慮する。この場で詳しくは言えないが、王国騎士並みの給与だよ」

ええっと、俺、ゲーム知識で、冒険者ギルドサブマスターの給与体系って知ってる。

確か、給料は月額金貨300枚……300万円と諸手当。
賞与は年、給料の半年分。
残業代は、前世のダークサイド会社と同じく、管理職なのでつかない等々。

この条件なら前世で考えれば破格だし、ステディ・リインカネーションの世界でも、
結構、恵まれた職場だといえるだろう。

「ランクAと言っても、ロイク君の場合は限りなくランクSに近いAだ。好きな依頼を選んで頃合いを見て完遂、究極のランクSへ昇格すれば良い」

「成る程」

「ランクSになったら、いずれ君はギルドマスター最有力候補となるだろう」

「ですか」

「ははは、何を言っても、反応が薄いな、君は」

「すんません、こういう性分なので」

「うむ! まだまだあるぞ! ロイク君のふたつ名、いや称号の話だ」

「俺の称号ですか」

「うむ! ドラゴンを倒したロイク君は文句なくドラゴンスレイヤー、竜殺しの称号を、冒険者ギルド公認という事で贈らせて貰おう」

「ギルド公認で、ドラゴンスレイヤー、竜殺しですか。かっこいいですね、それ」

「だろう? まだまだまだ、あるぞ!」

「まだまだまだ……あるのですか?」

「うむ! サブマスターになるとロイク君に専任の秘書がつく」

「え? 俺に? 秘書ですか?」

確かに、エヴラールさん始め、サブマスター以上の役職には、専任の秘書がつく。

ギルドマスターのテオドールさんには、3人の秘書が居るって聞いた。

そんな事を考える俺へ、テオドールさんはたたみかけて来る。

「ああ、既に本人には了解を取ってある!」

「本人って? 俺の秘書になるという事を、もう誰かに了解を取った……のですか?」

俺が尋ねれば、テオドールさんは、

「ああ、そうだ! おい、パトリシア君! 異存はないね?」

「はいっ! 私、パトリシア・ラクルテルは、ロイク・アルシェ様の秘書でしたら、喜んでお受けさせて頂きます!」

おいおいおい、トリッシュさんが!?
俺の専任秘書だって!?

「え? えええ? トリッシュさん、いえパトリシアさんが俺の専任秘書ですかあ!」

おお、こういう『からめ手』か!

驚く俺の顔を見て、テオドールさんは、またも「にやり」と笑ったのである。
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