上 下
39 / 257

第39話「全て、人外と言われても仕方がない身体能力だ」

しおりを挟む
俺は、廃墟と化したオークの巣くう砦へ向け、
足音も無く、弾丸のように走り出した。

スーパーカー並みの脚力。
時速100㎞に達するのが、4秒かからない!

それに走行速度はまだまだ上がる!

そんな確信に心を満たしながら、走っていれば、すぐ後方に魔獣ケルベロスの気配を感じる。
犬なのに、猫のように足音を立てず、俺と同じように、
楽々と時速100㎞超えで走っていた。

やはりレベル60オーバーたる冥界の魔獣、とんでもない奴だ。

当然、俺とケルベロスはあっという間に、砦の正門が見える雑木林に到着。

当然『隠形』と『忍び足』の効果で、気配を消していたから、
正門脇の見張りを始め、オークどもはまだ俺達に気づいていない。

砦の中は、相変わらず静まりかえっていた。

俺は、ケルベロスへ指示を出す。

『ケルベロス。向かって左側奥の石壁が壊れている。そこから侵入し、派手に暴れてくれ。吠えても構わないからな』

『そうか! ならば吠えるが、麻痺まひには気を付けよ、主』

『え? 麻痺?』

『うむ! 我が本気で放つ咆哮には、レベルが下位なら、人間でも魔物でも不死者アンデッドでも麻痺の付帯効果がある!』

『成る程。それ、まともに聞くと動けなくなって、同士討ちになるな。俺がその麻痺を防ぐにはどうしたら良い?』

『うむ! 主なら、我が本気で咆哮する前に発する気配で分かるはずだ』

『成る程』

『うむ! その瞬間に己の心を強く持て。人間でいう気合を入れ、ぐっと耐えれば、心身をとらわれる事はない』

おいおい……
気合を入れてぐっと耐え、麻痺を防げとか、
前世の社長や部長並みの精神論じゃないか?

俺は苦笑したが……

『どうか、したか、主。我の告げる言葉に、疑問を持っているのを感じたが』

『い、いや! 何でもない。でも気合を入れて、俺は麻痺を防ぐなんて出来るのかなって』

『うむ! 主には刺激に対して、耐性の生成及び無効化の能力がある! 我の咆哮を何度か聞けば、心身に耐性が生成されて、終いには無効化される」

『おいおい、それって、もしや麻痺以外に毒とか、石化とか、呪いとかも対応するのか?』

『無論、その通りだ!』

ええっと。
無論、その通りって……ありがたいけど、やはり凄いな、俺。

まあ、良いや。
自信を持つことは必要だと思うけれど、酔いしれすぎる自画自賛はやめておこう。

……それよりも、作戦続行だ。

『ケルベロス、いろいろアドバイスありがとう! 今後とも宜しく頼むよ』

『うむ、任せておけ』

『では、大回りして、見張りに気付かれぬよう、左奥の壊れた石壁よりそっと侵入、侵入さえしたら、もう遠慮はいらない。中で思う存分に暴れてくれ! 頃合いを見て、俺も突入し、参戦。最後には合流だな』

『うむ! 了解だ!』

ケルベロスは再び、弾丸のように駆けだすと、あっという間に姿を消した。

……やがて、砦の左奥で、ケルベロスが砦内へ侵入した気配が伝わり、

ぎゃあああああああ!!!
ぐおおおおおおおお!!!
がああああああああ!!!

オークどもの断末魔の絶叫が轟き、ケルベロスが咆哮を発する気配も感じた。

事前にアドバイスされていた俺は、ダメージを受けないよう耐える態勢を取った。

瞬間!

うおおおおおおおおおおおんんんん!!!!

大気がびりびり振動するような、怖ろしい咆哮が、砦内へ満ちたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

オークの絶叫、ケルベロスの咆哮と同時に、
砦内の各所から慌てた様子の気配が、数多ケルベロスへ集まって行く……

ケルベロスは立派に、先制攻撃、おとりの役目を果たした。
攪乱かくらんも上手くやってくれそうだ。

一方、俺の方はと言えば、アドバイスに従い、
ケルベロスの咆哮に事前に備えていたから、ダメージを受けなかった。

という事で、俺は頷くとダッシュし、ケルベロスが向かったのと反対側。
向かって右側の石壁に取り付き、登り始めた。

わずかな手がかり、足がかりで全然OK!

身体がえらく軽い。

するすると、猿のように身軽に登って行く。

先ほど正門上に陣取っていた見張りも居なくなっていた。

石壁上から見やれば……

砦内の本館、兵舎等の出入り口から、
潜んでいたオークどもがわらわらと湧き出るように出現。

続々と、ケルベロスの方へ向かっている。

わらわらと襲いかかるオークどもに、ケルベロスは奮戦。

しかし、苦戦という雰囲気は皆無。

余裕をもって「あしらっている」という様子が伝わって来る。

繰り返すが、この1か月間、身体も徹底的に鍛え、冒険者ギルド総本部の施設、
地形を模した5つの実戦訓練場を借り受け、単独訓練も行っていた。

更に身体能力の限界もいろいろ試している。
高所からの落下緩和を使う高さの限界も。

俺は、石壁の上に立っているが……
高さは15mほど。

飛び降りて着地は可能かって? ……そんなの楽勝。

俺の高所落下の現時点でのリミットは、高さ20mなのである。

高所落下の限界を確かめるには少し苦労した。
いきなりそんな高所から飛び降りるのは、さすがに危険。
だから、3m刻みで少しずつ、距離を高くして行って、試し、到達した結果だ。
良い子は絶対にマネしちゃいけません。

ちなみにジャンプ力は、垂直で10m。
こちらは遠慮なくガンガン試した。
また走り幅跳びでは、20m平均、最高で30m以上。

全て、人外と言われても仕方がない身体能力だ。

オークどもは、ケルベロスに気を取られているか、
『人間』の俺など気にしていないのか、全く注目されない。

それが逆に幸いである。

俺は、登った岩壁から「すたっ」と軽々、地へ降りる。

そして、たったひとりだが、余裕で戦うケルベロスの下へ、
再び、弾丸のように駆け出していたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」  幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。  ──どころか。 「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」  決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。  この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。

狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風
ファンタジー
 この時代において、最も新しき英雄の名は、これから記されることになります。  素手で魔獣を屠る、血雨を歩く者。  傷つき倒れる者を助ける、白き癒し手。  堅牢なる鎧さえ意味をなさない、騎士殺し。  ただただ死闘を求める、自殺願望者。  ほかにも暴走お嬢様、爆走天使、暴虐の姫君、破滅の舞踏、などなど。  様々な異名で呼ばれた彼女ですが、やはり一番有名なのは「狂乱令嬢」の名。    彼女の名は、これより歴史書の一ページに刻まれることになります。  英雄の名に相応しい狂乱令嬢の、華麗なる戦いの記録。  そして、望まないまでも拒む理由もなく歩を進めた、偶像の軌跡。  狂乱令嬢ニア・リストン。  彼女の物語は、とある夜から始まりました。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。 目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。 「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」 突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。 和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。 訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。 「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」 だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!? ================================================ 一巻発売中です。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき
ファンタジー
俺、多摩川奥野はクラスでも浮いた存在でボッチである。 クソなクラスごと異世界へ召喚されて早々に、俺だけステータス制じゃないことが発覚。 どんどん強くなる俺は、ふわっとした正義感の命じるままに世界を旅し、なんか英雄っぽいことをしていくのだ!

どうして振り向いてくれないの英雄王さま

夜桜
恋愛
 宮廷伯令嬢エレナは、帝国を救ったキュリオスと恋に落ち、婚約していた。半年が経ったある日、エレナはキュリオスの冷たい態度に不満を抱き、浮気の疑いを持つ。  婚約の噂をかき消すほど英雄王としての人気は絶大。だから、余計に怪しんだ。  いったん距離を置いたエレナは、幼馴染の城伯に相談した。すると、婚約破棄するように勧められた。エレナはどうするべきか苦悩するのだが……。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

処理中です...