19 / 257
第19話「いいじゃないの。 俺、16歳の素人少年、元よろずや店員なんだから」
しおりを挟む
「……という事で、ロイク君、早速闘技場へ行きましょう。今、ちょうど空いているから、一番大きな大闘技場でやりますか。講習の方も私とクロエが特別に君の講師となってさしあげますよ」
エヴラール・バシュレさんは、やり手のサブマスターらしく、ちゃっちゃと仕切ると、にっこりと笑った。
まさか、サブマスターのエヴラールさんが、
俺の能力を確かめたいとか、いきなり言い出すとは思わなかった。
というか、ジョアキムさんの紹介状で、登録手続きの順番に手心を加えて貰い、
待つ順番を速めて貰うとか、それくらいのレベルだと思っていた。
だから、少しだけ戸惑う。
でも決まったものは仕方ない。
思考停止しても、意味がない。
前に進むしかない。
割り切った俺は、ぱぱぱぱぱぱ!と考える。
おお! はた!と俺は気付いた。
待てよ……却ってラッキーじゃないのか、これ。
相手はキャリアを積んだ冒険者、その上、剣聖である。
普通に戦えば、見た目16歳。
雑魚の素人少年が、敵うはずがない。
しかし、見た目と俺の中身……実は違う。
そして、ランク判定の実戦テスト。
まともな戦いではなく模擬試合で、
相手が、俺の良く知るエヴラールさんなら、やり方次第で勝てるかもしれない。
よし、やはり運が良いと割り切ろう!
エヴラールさん、俺、クロエさんが、大闘技場への通路を歩いている。
おお、エヴラールさん、腕を「ぶんぶん!」振って、
子供みたいに張り切っちゃって、先頭切って歩いてるよ。
「申し訳ありませんね、ロイク様。こうなると、サブマスターは子供のようにむきになって、止まらないんです」
俺の傍らを歩く、美人秘書のクロエさんが、申し訳なさそうに謝る。
ああ、俺、サブマスターのその性格、よ~く、知ってます。
まあ、そんな事を絶対に言えない俺は、ただただ笑顔を返す。
「いえ、大丈夫です。真剣勝負ではなく、模擬試合ですし」
「で、ですよね! しかし充分ご注意してください」
「注意? どういう事ですか?」
「はい! サブマスターには、私から念を押します。くれぐれもロイク様に、怪我をさせないよう、厳しく言いますから」
そう言うと、にこっと笑うクロエさん。
ああ、『高嶺の花』だと分かっていながら……美人の笑顔には癒される俺氏。
「あ、ありがとうございます! お、俺も! ケ、ケガしないよう、ちゅ、注意します!」
大きな声の俺の『物言い』が聞こえたらしい。
エヴラールさんがぴたっと止まり、くるりと俺達の方へ振り向いた。
視線はクロエさんへ向けられている。
「大丈夫だよ、クロエ。本気を出したりしないから」
「お願いしますよ、サブマスター」
約束通り、念を押すクロエさん。
軽く、エヴラールさんをにらんでいる。
ああ、美しい女子って、こういう顔も可愛いんだ。
でも、そのやりとりを聞き、ますます俺はしめた! ついてる! とも思った。
エヴラールさんが手加減をすると言い切ったから、
俺のつけ入るスキが更に生まれたという事だもの。
俺は歩きながら、エヴラールさんとどのように戦うか、
改めて作戦を練ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロッカーへ入れて貰い、俺は模擬試合の支度をする。
試合用の剣を持つ。
エヴラールさんは居ない。
サブマスター専用のロッカーで、準備しているってさ。
さてさて!
……じっくり考え作戦は立てた。
今回、俺が勝機を見出したのは、いくつか理由があった。
まずは、俺の身体能力を活かす事。
山賊戦で取った戦法、
蝶のように舞い、蜂のように刺す作戦!!
ヒットアンドアウェイ!!
改めて説明しよう。
低レベルの山賊どもに比べれば、冒険者ギルド総本部サブマスター、
エヴラール・バシュレさんの実力差は天と地。
月とすっぽんである。
当然、エヴラールさんが『天』であり『月』でもある。
正直なところ、飛びぬけた身体能力といくつかの初級スキルを持ち、
山賊どもに圧勝した俺でも、『剣聖バシュレ』に勝てるとは、基本考えていない。
そう、戦うとしたら、致命的なダメージを受けないよう、
俺は徹底的に防御に重きを置き、
少しでもチャンスがあったら、勝ちに行く作戦なのだ。
え?
わけが分からない?
ああ、申し訳ない。
もう少し、具体的に、詳しく説明します。
まず……
俺の身体能力が、……動きがエヴラールさんに対し、どこまで通用するのか、
全くの不明、つまり未知数である。
だから、この作戦は『賭け』でもある。
通用しなかったら、俺は即、『瞬殺』され、試合終了だろう。
そしてここからが本題。
もしも通用しても、俺は敢えて自分からは攻撃しない。
動きが通用したとしても、やみくもに攻撃すれば、スキが生まれ、
エヴラールさんから、カウンター攻撃を喰らう可能性が高い。
だから、俊敏のスキル《多分、習得済み》と卓越した身体能力を使い、
エヴラールさんの攻撃をひたすらかわす。
そしてわずかなスキが生まれるのを待つ。
生まれた一瞬のチャンスがあれば、そのスキに、
必殺の一撃をカウンターで打ち込むのだ。
実は、今回の模擬戦の方法にも勝機がある。
俺が今持つ、模擬戦で使用する武器なのだが……
刃を潰した練習用の雷撃剣なのだ。
そして冒険者ギルド総本部で行う模擬戦は、
雷撃HITをすれば、そのポイントの多さによって勝利が決まる。
つまり、『ほんちゃん』の実戦みたいに、
剣技で相手をぶった切ったりせずとも良い。
雷撃剣の刀身でちょこんと触れるだけでも、
HIT……「当たった!」と判定されるのだ。
極端に言えば、ちょっと、かすったレベルでもOK。
まともに打ち合わず、スキを見て触るだけなら、
俺でも勝てる……かもしれないから。
え?
セコイ?
いいじゃないの。
相手は百戦錬磨の剣聖。
雲の上の相手。
対して、俺、16歳の素人少年、元よろずや店員なんだから。
更に更に、俺にはとっておきの『切り札』がある。
これは、俺がこのゲーム『ステディ・リインカネーション』をやり込んだ特典だ。
さあ、試合の準備は完了!
俺は革鎧に身を固め、雷撃剣を持ち、3回素振りをすると、
ロッカーを出て、闘技場のフィールドへ向かったのである。
エヴラール・バシュレさんは、やり手のサブマスターらしく、ちゃっちゃと仕切ると、にっこりと笑った。
まさか、サブマスターのエヴラールさんが、
俺の能力を確かめたいとか、いきなり言い出すとは思わなかった。
というか、ジョアキムさんの紹介状で、登録手続きの順番に手心を加えて貰い、
待つ順番を速めて貰うとか、それくらいのレベルだと思っていた。
だから、少しだけ戸惑う。
でも決まったものは仕方ない。
思考停止しても、意味がない。
前に進むしかない。
割り切った俺は、ぱぱぱぱぱぱ!と考える。
おお! はた!と俺は気付いた。
待てよ……却ってラッキーじゃないのか、これ。
相手はキャリアを積んだ冒険者、その上、剣聖である。
普通に戦えば、見た目16歳。
雑魚の素人少年が、敵うはずがない。
しかし、見た目と俺の中身……実は違う。
そして、ランク判定の実戦テスト。
まともな戦いではなく模擬試合で、
相手が、俺の良く知るエヴラールさんなら、やり方次第で勝てるかもしれない。
よし、やはり運が良いと割り切ろう!
エヴラールさん、俺、クロエさんが、大闘技場への通路を歩いている。
おお、エヴラールさん、腕を「ぶんぶん!」振って、
子供みたいに張り切っちゃって、先頭切って歩いてるよ。
「申し訳ありませんね、ロイク様。こうなると、サブマスターは子供のようにむきになって、止まらないんです」
俺の傍らを歩く、美人秘書のクロエさんが、申し訳なさそうに謝る。
ああ、俺、サブマスターのその性格、よ~く、知ってます。
まあ、そんな事を絶対に言えない俺は、ただただ笑顔を返す。
「いえ、大丈夫です。真剣勝負ではなく、模擬試合ですし」
「で、ですよね! しかし充分ご注意してください」
「注意? どういう事ですか?」
「はい! サブマスターには、私から念を押します。くれぐれもロイク様に、怪我をさせないよう、厳しく言いますから」
そう言うと、にこっと笑うクロエさん。
ああ、『高嶺の花』だと分かっていながら……美人の笑顔には癒される俺氏。
「あ、ありがとうございます! お、俺も! ケ、ケガしないよう、ちゅ、注意します!」
大きな声の俺の『物言い』が聞こえたらしい。
エヴラールさんがぴたっと止まり、くるりと俺達の方へ振り向いた。
視線はクロエさんへ向けられている。
「大丈夫だよ、クロエ。本気を出したりしないから」
「お願いしますよ、サブマスター」
約束通り、念を押すクロエさん。
軽く、エヴラールさんをにらんでいる。
ああ、美しい女子って、こういう顔も可愛いんだ。
でも、そのやりとりを聞き、ますます俺はしめた! ついてる! とも思った。
エヴラールさんが手加減をすると言い切ったから、
俺のつけ入るスキが更に生まれたという事だもの。
俺は歩きながら、エヴラールさんとどのように戦うか、
改めて作戦を練ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロッカーへ入れて貰い、俺は模擬試合の支度をする。
試合用の剣を持つ。
エヴラールさんは居ない。
サブマスター専用のロッカーで、準備しているってさ。
さてさて!
……じっくり考え作戦は立てた。
今回、俺が勝機を見出したのは、いくつか理由があった。
まずは、俺の身体能力を活かす事。
山賊戦で取った戦法、
蝶のように舞い、蜂のように刺す作戦!!
ヒットアンドアウェイ!!
改めて説明しよう。
低レベルの山賊どもに比べれば、冒険者ギルド総本部サブマスター、
エヴラール・バシュレさんの実力差は天と地。
月とすっぽんである。
当然、エヴラールさんが『天』であり『月』でもある。
正直なところ、飛びぬけた身体能力といくつかの初級スキルを持ち、
山賊どもに圧勝した俺でも、『剣聖バシュレ』に勝てるとは、基本考えていない。
そう、戦うとしたら、致命的なダメージを受けないよう、
俺は徹底的に防御に重きを置き、
少しでもチャンスがあったら、勝ちに行く作戦なのだ。
え?
わけが分からない?
ああ、申し訳ない。
もう少し、具体的に、詳しく説明します。
まず……
俺の身体能力が、……動きがエヴラールさんに対し、どこまで通用するのか、
全くの不明、つまり未知数である。
だから、この作戦は『賭け』でもある。
通用しなかったら、俺は即、『瞬殺』され、試合終了だろう。
そしてここからが本題。
もしも通用しても、俺は敢えて自分からは攻撃しない。
動きが通用したとしても、やみくもに攻撃すれば、スキが生まれ、
エヴラールさんから、カウンター攻撃を喰らう可能性が高い。
だから、俊敏のスキル《多分、習得済み》と卓越した身体能力を使い、
エヴラールさんの攻撃をひたすらかわす。
そしてわずかなスキが生まれるのを待つ。
生まれた一瞬のチャンスがあれば、そのスキに、
必殺の一撃をカウンターで打ち込むのだ。
実は、今回の模擬戦の方法にも勝機がある。
俺が今持つ、模擬戦で使用する武器なのだが……
刃を潰した練習用の雷撃剣なのだ。
そして冒険者ギルド総本部で行う模擬戦は、
雷撃HITをすれば、そのポイントの多さによって勝利が決まる。
つまり、『ほんちゃん』の実戦みたいに、
剣技で相手をぶった切ったりせずとも良い。
雷撃剣の刀身でちょこんと触れるだけでも、
HIT……「当たった!」と判定されるのだ。
極端に言えば、ちょっと、かすったレベルでもOK。
まともに打ち合わず、スキを見て触るだけなら、
俺でも勝てる……かもしれないから。
え?
セコイ?
いいじゃないの。
相手は百戦錬磨の剣聖。
雲の上の相手。
対して、俺、16歳の素人少年、元よろずや店員なんだから。
更に更に、俺にはとっておきの『切り札』がある。
これは、俺がこのゲーム『ステディ・リインカネーション』をやり込んだ特典だ。
さあ、試合の準備は完了!
俺は革鎧に身を固め、雷撃剣を持ち、3回素振りをすると、
ロッカーを出て、闘技場のフィールドへ向かったのである。
0
お気に入りに追加
953
あなたにおすすめの小説
心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。
ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」
幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。
──どころか。
「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」
決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。
この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。
狂乱令嬢ニア・リストン
南野海風
ファンタジー
この時代において、最も新しき英雄の名は、これから記されることになります。
素手で魔獣を屠る、血雨を歩く者。
傷つき倒れる者を助ける、白き癒し手。
堅牢なる鎧さえ意味をなさない、騎士殺し。
ただただ死闘を求める、自殺願望者。
ほかにも暴走お嬢様、爆走天使、暴虐の姫君、破滅の舞踏、などなど。
様々な異名で呼ばれた彼女ですが、やはり一番有名なのは「狂乱令嬢」の名。
彼女の名は、これより歴史書の一ページに刻まれることになります。
英雄の名に相応しい狂乱令嬢の、華麗なる戦いの記録。
そして、望まないまでも拒む理由もなく歩を進めた、偶像の軌跡。
狂乱令嬢ニア・リストン。
彼女の物語は、とある夜から始まりました。
自衛官、異世界に墜落する
フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・
現代軍隊×異世界ファンタジー!!!
※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。
鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~
月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。
目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。
「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」
突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。
和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。
訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。
「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」
だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!?
================================================
一巻発売中です。
虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました
オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、
【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。
互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、
戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。
そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。
暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、
不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。
凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。
ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜
あけちともあき
ファンタジー
俺、多摩川奥野はクラスでも浮いた存在でボッチである。
クソなクラスごと異世界へ召喚されて早々に、俺だけステータス制じゃないことが発覚。
どんどん強くなる俺は、ふわっとした正義感の命じるままに世界を旅し、なんか英雄っぽいことをしていくのだ!
どうして振り向いてくれないの英雄王さま
夜桜
恋愛
宮廷伯令嬢エレナは、帝国を救ったキュリオスと恋に落ち、婚約していた。半年が経ったある日、エレナはキュリオスの冷たい態度に不満を抱き、浮気の疑いを持つ。
婚約の噂をかき消すほど英雄王としての人気は絶大。だから、余計に怪しんだ。
いったん距離を置いたエレナは、幼馴染の城伯に相談した。すると、婚約破棄するように勧められた。エレナはどうするべきか苦悩するのだが……。
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる