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第80話「おお、良く分かったな、エルヴェ君」

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気合一閃!

かああああっ!!!

吠えたローラン様が、オークどもを一瞥すると、
殺到したオークどもは、無様にも、ばたばたばたと、
全てが地へ倒れ伏してしまった。

倒れたオークどもの様子を見て、やはりかと思った。

放つ波動は勿論、改めて見やれば、分かった。

オークどもは死んではいない。 

倒れたまま、ぴくぴくと動いている。

意識があるまま、行動不能に陥っているだけなのだ。

そう、ローラン様が使った得意とするスキル、それは『挑発』と『威圧』だ。

脱力し、無防備を装うローラン様へ、オークどもが向かって来たのは、
『挑発』のスキルによるものであろう。

補足しよう。

挑発とは、相手を刺激して向こうから事を起こすようにしむける事。
そして、術者がスキルとして行使する挑発とは、強力な魔力の波動を放つ事により、
油断させたり、冷静さを失わせたりして、愚行に走らせる技である。

そして、襲おうと向かって来たオークどもを行動不能にし、地へ伏せさせたのは、
威圧のスキルに違いない。

再び補足しよう。

威圧とは、威力や威光で相手をおさえつける事である。
術者がスキルとして行使する威圧とは、強力な魔力の波動を放つ事により、
相手を恐怖、萎縮させ、ある一定時間、身体機能を奪う技なのだ。

さてさて!
地へ伏し、行動不能となったオークどもを見て、
ローラン様は軽く「ふう」と息を吐き、うんうんと頷いた。

「よし、こんなところか」

鮮やかなローラン様の手際に見惚れた俺は、ここで声をかける。

「ローラン様、今、オークどもに対し、行使されたのはまず挑発、そして威圧のスキルですよね?」

俺の問いかけに対し、ローラン様はにっこり笑い、肯定する。

「ははは、その通りさ、エルヴェ君には、すぐ分かったんだね」

「ええ! 俺、ローラン様のご活躍を記した書物、記録をたくさん読みましたから」

「ふむ、ではこの挑発と威圧のスキルの有用性をしっかりと理解しているって事だな」

「はい! 当然です! 自身及び他者への支援用として、挑発、威圧とも様々な用途があります!」

「うむ! よろしい! では念の為、私からも説明しよう。このふたつのスキルは、基本的には相手の動きを制限し、自分にとって、有利な状況を作り出す為に行使するものだ」

「はい!」

「私の経験上、相手が多数の場合に、またはラスボスのもとへ、雑魚を振り切って、さっさと向かいたい場合に重宝したものさ」

そう言われ、俺はローラン様が、魔王軍と戦った際のシーンを思い浮かべる。

……わらわらと出現し、ローラン様たちの行く手を阻み、魔王のもとへたどり着けないよう、妨害を試みる魔王軍。

そんな魔王軍をひとにらみで地に這わせ、ローラン様たちクラン、グランシャリオは、ピンポイントで魔王と戦う為、ガンガン進んだのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

偉大な英雄の、華々しい魔王討伐……

そんな想像にふけっていた俺だが、ローラン様の発する言葉で現実に引き戻される。

「エルヴェ君、挑発、威圧のスキル……速攻で行使可能な威圧には、特に有用性があるよ」

「ええっと……速攻で行使可能な威圧には……特に有用性があるのですか?」

「ああ、それがどういう事か、分かるかい?」

おお!
ローラン様から、質問来た!

こういう時、俺の『勘働き』が働く。

すぐにピンと来たのだ。

索敵、先読み、インスピレーション等々、なんでもござれ。
我が勘働きは、本当に便利なスキルである。

俺は軽く息を吐き、答えてみる。

「威圧って、普通の敵は勿論有効ですが……」

「ふむ」

「魔法やスキルなど、特殊な技能を使う相手に対して、速攻で行使可能な威圧には、特に有用性があるって事でしょうか?」

俺がそう言うと、ローラン様は少し、びっくりしたような表情をする。

「おお、良く分かったな、エルヴェ君」

と言い、更に説明してくれる。

「エルヴェ君のように無詠唱で、瞬時に魔法、スキルを使う相手には苦戦するが……大抵の相手には、速く使える威圧のスキルがとても有効なんだ」

「はい、分かります。魔法やスキルの準備から、発動までには、間がある。つまり攻撃や効果が表れるまで、結構なタイムラグがあるって事ですね」

「ああ、その通りだ。これだと思い、魔法、スキルを行使すると決めてからは煩雑な手順がかかる」

「手間ですか、成る程ですね」

「うむ、呼吸法による精神の集中、均衡化、体内魔力の活性化、更に言霊ことだま、呪文の詠唱、印を結ぶなどの手間が必要なんだ。高位たる人外の存在を呼び出し、その力を借用するならば尚更だな」

「おおよそ理解しました。その事を頭の片隅に置き、サシのタイマン、団体戦等々、様々なシチュエーションを踏まえ、挑発と威圧を習得し、上手く使え……そういう事ですね?」

「ああ、その通り。さて、話に夢中になっている間に、徐々にオークどもが復活して来たぞ」

「え? あ、そうですね」

ローラン様の言葉を聞き、動けず地へ伏していたオークどもを見やれば……
もう既に、10体の内、数体のオークが、動きだしていた。

そう、威圧の効果が切れつつあり、行動不能が解除されつつあったのだ。

「でだ。先ほどは私の挑発と威圧をじっくりと観察しただろう? 次はエルヴェ君、君の番だ。あのオークどもを挑発し、威圧してみたまえ」

ローラン様はそう言うと、にこにこっと悪戯っぽく笑ったのである。
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