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第40話「凡才の俺が成り上がる為には、人の数倍、下手すりゃ10倍努力するしかない」

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「せいれ~つ!!」

15分ほどのストレッチを終え、ロッジ前、居並ぶ俺たち新人3人へ、
バスチアン さんの大声が響き渡った。

もうひとり、バスチアンさんの傍らには、腕組みをしたセレスさんが立っている。

全員が、迷彩革鎧だ。

バスチアンさんは更に声を張り上げる。

「てめえらあ!! 耳をかっぽじって、良~く聞けええ!! 本日は基礎体力の訓練を行うう!! 昨日とは比べ物にならないくらい、きっつい訓練だあ!!」

訓練開始宣言と同時に、即座にプレッシャーをかけて来るバスチアンさん。

セレスさんは苦笑しているが、シャルロットさん、フェルナンさんは、
ぶるぶる、ガクブル状態である。

「いいかあ!! めいっぱい根性出して!! しっかりついて来~~い!! へばんじゃねえぞおお!!」

ここでセレスさんからも説明が、

「新人のみなさ~ん!! 今日の治癒回復は特例として体力満タンが3回までよお!! 有効に使ってねえ!! ちなみにい!! 4回以上は、増えた回数だけ、評価が下がるから、よろしくうう!!」 

ええっと、セレスさん、それ何気にプレッシャーになってね?

本来は、基本応急手当1回レベルが、体力満タン3回分へ変更って!?
訓練が相当えぐいって事だろ。

まあ、良いか。
王都で1週間、自主トレして体力つけたのが、少しは役に立つと思う。
後はガンガン、がむしゃらに頑張るしかねえ。

ここでバスチアンさんから指示が出る。

「まずはランニングだあ!! 俺は寛大な男だから、まずは特別に軽く行くぞお!! 基礎体力をつける為、周囲約10㎞のこの訓練場を5周するう!! コースは昨日歩いたメイン道路だああ!!」

えええ!?

訓練場のメイン道路5周!!??
いきなり50㎞の持久走かよ!!

いくら体力満タンありでもきつくね!?

俺でさえ、そう思うのだから、シャルロットさん、フェルナンさんを見れば、
どよよよ~んんと擬音が聞こえてきそうなくらい、絶望感に満ちていた。

そんな俺たちへ、バスチアンさんは言う。 
ルール説明のようである。

「タイムリミットは3時間!! 昨日同様、通過確認の為、チェックポイントへ所属登録証をかざせ!! ショートカットして、ズルしたらぶっ殺すぞお!! シャルロットの言う通り、体力満タンを有効に使ええ!!」

……成る程ねえ。
ルールは、おおむね理解した。

バスチアンさんにぶっ殺されえるのは嫌だから、ズルだけは絶対なしと。

いろいろ考えた。

走る速度の模索と、速度を考えたスタミナの配分。
敵と遭遇した時、どうするのか。
そして同期へのフォロー。

……シミュレーションは済んだ。

走り切るイメージも湧いて来る。

「よ~い!! スタート!!」

最後はセレスさんのスタート告知の声とともに、俺は走り出したのである。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「いやあ!! エルく~ん!!」
「お~い!! エルヴェ君!!」

置いてかないで!
先に行ってしまうのか!

という同期のさびしげな、せつない?声を背に受けて俺は走る。

わざとゆっくり走るバスチアンさんを抜き、先頭に立つ。
バスチアンさんは、抜き去る俺を見て、黙ったまま、ニッと笑った。
どうやら大丈夫そうだ。

先ほどのルール説明で、バスチアンさんを抜いてはいけないとは、
言われなかったから。 

更に俺は走り続ける。
このまま、ず~っと、先行するつもりだ。

俺が先行したのは、いくつか理由がある。

まずは、出現する敵をあらかじめお掃除しておく事。
俺にとって心置きなく戦える訓練となる。
加えて、後続が襲われるリスクが低くなる。

魔物を倒しながら、俺は5周クリア、50㎞持久走、走破を目指す。
5周したら、後は同期に伴走。
ケアしながら最後まで一緒に走りぬくという感じ。

この作戦は昨日の散歩同様、自分のノルマより、
だいぶ余分な距離を走ってしまうデメリットが ある。

だが、急がば回れ。

凡才の俺が成り上がる為には、人の数倍、下手すりゃ10倍努力するしかない。

ローラン様が、「鍛錬は嘘をつかない」と言った事は、あまりにも有名だ。
他人より、たくさん鍛錬すれば、その分は必ず自分へ返って来る。
そう、信じよう。

フェルナンさんに対し、ひとごとみたいに、余裕をこいていたが……
この俺だって、「ローラン様に認められたい!」と心から願っているのだ。

シーニュで、ミランダ達にこき使われ、蔑まれ……
屈辱&命の危機と引き換えに、
ゴブリン、オークを圧倒する実力を身につける事が出来た。

そして、幼い頃から身を助けて来た『勘働き』が、
俺の人生を救うスキルに育ちつつある。

そして、ローラン様率いるグランシャリオから、ドラフト一位指名されたという、
ビッグチャンスが、巡って来た。

そこから、彼女候補のシャルロットさんとの出会い等々、
更に運が開けようとしている。

この波に乗れ!
このビッグウェーブに!
ということわざもある。

俺は絶対この波に乗り、幸せをつかんでみせる!

石畳を軽快に駆けながら、俺は決意を新たにしていたのである。
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