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第30話「頼む! 一生のお願いだ!」

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「お、お、俺も行くよ! き、君に! は、話したい事があるんだ!」

と、フェルナンさんは、涙目で懇願して来た。

彼の思いつめた表情を見て、やはり何か理由わけがあるのだと、
俺は確信した。

バスチアンさんは、多分男子棟ロッジへは来ないだろうし。

俺とフェルナンさん、ふたりきりでじっくりと話す事が出来そうだ。

彼のすがるような眼差しを受け、少し考え、決めたのだ。

出来る範囲内になってはしまうけど……
シャルロットさんをケアしたのと同様に、
フェルナンさんの悩みも出来うる限り、ケアしてあげようと。

せっかく縁あって出会った同期のよしみ、情けは人の為ならずでね。

まずはフェルナンさんが、したいという話を聞いてあげよう。

なので、フェルナンさんの申し出を俺は了承する。

「ええ、フェルナンさん。話を聞くぐらい、良いですよ。じゃあ、ロッジへ行きましょう」

「す、すまん! エルヴェ君! 恩に着る!」

「いいええ、お安い御用です。お茶でも飲みながら、男同士、サシで落ち着いて話しましょう」

「あ、ありがとう」

という事で……俺とフェルナンさんはロッジへイン。

俺は早速お茶の用意。

カップへ湯を入れ温め。
その間に茶葉をポットへ入れ湯を投入。
しばし経ってから、カップの湯を捨てて、お茶を淹れる。

椅子がないので、テーブルにカップを置き、たったまま、お茶を飲む事に。

互いにお茶をひと口飲み、話は始まった。

何を言うのかと思ったら、

「エルヴェ君……君はずいぶん、シャルロットさんと仲良くなったみたいだね?」

え?
何?
それが話したい事かよ。

と思いながら、言葉を濁す俺。
否定はしないって感じで。

「ええ、まあ……」

「このまま、シャルロットさんと付き合うのかい?」

おいおい、フェルナンさんの大事な話じゃないの?
そんなんどうでも良いだろ?

と思いつつ、俺は言葉を戻す。

「まあ、相手次第だし、研修が終わってから、彼女と改めて話しますよ」

「そうか……」

もしかしたらと思ったが、反応が薄いフェルナンさんから、
嫉妬の波動は出ていない。

どうやらシャルロットさんに片思いとか、執着しているわけでもなさそうだ。

「それが何か?」

と、俺が尋ねると、

「ああ、エルヴェ君はシャルロットさんと仲良くて、うらやましいな……と思ってね」

と言い、遠い目をした。

「どういう意味です?」

「ああ、俺の方は、恋人と中々上手くいかなくてな」

おお、フェルナンさんのカミングアウト。
成る程ねえ、恋人が居たんだ。

「そうなんですか?」

「ああ、同じ貴族家子息のエルヴェ君だったら分かるだろう? 俺は彼女と婚約し、結婚したいんだけど……相手の家との兼ね合いがなあ……しがない男爵家の3男坊じゃ、いかんともしがたい」

むむむ。
これは真っ向から反論。

「いや俺には貴方の事情は分かりませんよ、フェルナンさん。貴族家と言っても、俺の実家は名誉貴族の騎士爵家ですから……正式な貴族家の男爵家とは全然違います」

「む、そうか」

おいおい、今そんな話していてもしょ~がないだろ?
肝心の話をしてくださいな。

「フェルナンさん、格下の俺に対し、何か、さりげなく自分の実家自慢してません? それより本題へ入ってください」

回りくどい物言いをやめさせ、話を促す為、
俺が少しだけ怒った様子で問いかけると、

「あ、す、すまん! 申し訳ない! もう本題へ入るよ!」

フェルナンさんは平謝りし、改めて話し出したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「エルヴェ君」

「はい」

「話を聞いてて分かるかもしれないが、俺の恋人は俺の実家より格上の上級貴族で伯爵家令嬢なんだ」

「成る程」

「だから、しがない男爵家3男坊の俺は婚約、結婚を許して貰えなくてね。困ってるんだ」

「そうなんですか」

「ああ、彼女のお父上は、とある侯爵家の長男、次期当主へ嫁にやろうとしているんだよ」

ようやく……話が見えて来た。
スフェール王国の貴族制度は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、名誉職の騎士爵の順番で形成されている。

フェルナンさんは男爵家の3男坊。
しかも、冒険者。
彼女さんは伯爵家の令嬢で、彼女さんのお父上は、
侯爵家の長男、次期当主へ嫁がせようとしているらしい。

う~ん。
身分格差は、はっきりしている。
フェルナンさんのライバルは、超が付く強敵すぎる。
はるかに上級貴族の御曹司と言って良い。

「エルヴェ君! 俺は何とか、彼女のお父上に認められたい。その為に、冒険者となって、強大な魔物を退治し、手っ取り早く武功を立てたいと思ったんだ」

うむむ……でも、このヘタレ具合じゃ、強大な魔物を退治なんて無理じゃね?

と思ったが、そんな事言ったら、また落ち込むだろうな。

「そうだったんですか」

「ああ、何故なら、もう時間がない。どこかへ仕官して、下積み生活を送るなんて、悠長な事はしていられない。ぐずぐずしていると、彼女が侯爵家の花嫁になってしまうから!」

「ですね」

「だが、焦燥感にかられていた俺にも素晴らしい幸運が訪れた! 何と! マエストロ、英雄ローラン様からドラフト指名されたからだ! やった! と思った! 大喜びした! もしもマエストロに認められれば、彼女の父上は絶対に認めてくれるからな!」

「ええ、一発大逆転ですね」

「そうだ! エルヴェ君! 一発大逆転だよ! 彼女に伝え、俺がグランシャリオにドラフト指名された事はお父上へも伝えて貰った! しかし……このままでは……マエストロに、到底認めて貰えない」

フェルナンさん、さすがに自分が置かれた状況を分かってる。

「そこでだ! 頼む! 一生のお願いだ! 俺がマエストロに認められる為、力を貸して貰えないか! たのむううう!!!!!」

またも涙目になったフェルナンさんは、板の前に土下座し、俺に懇願したのである。
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