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第27話「俺が迷い、ためらっていると、シャルロットさんは笑顔で、 おねだりして来る」

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どしゅっ!

という独特な音とともに、リーダーオークは、シャルロットさんの魔法杖から放たれた大気の塊を背に受け、無様に吹っ飛んでいた。

しかし至近距離から急所を撃ち抜いた俺に対し、シャルロットさんの放った風弾は、致命傷を与えなかったらしい。

ぴくぴく、ぴくぴくと身体を震わせるリーダーオークへ、
俺は容赦なくとどめを刺した。

こうして、オーク5体との……戦いは終わった。

俺の勘働き――索敵に、今のところ敵の反応はない。

すぐに次の敵が現れるかもしれないし、
油断大敵で安心は出来ない。

だが、ひと息くらい、つく事は可能だろう。

絶命したオーク5体を残し、俺はシャルロットさんの下へ戻った。

オークを撃ち倒し、俺がとどめを刺した事で、
シャルロットさんは脱力、大いに安堵したようだ。

「はあ~」と大きく息を吐き、無言で力ない笑顔を、俺へ向けて来た。

さっき、シャルロットさんに聞いた話だと、
このようにとどめを刺す事は今まであったが、彼女が仮所属していたクランは10人以上の大所帯。
その10人にがっつり守られての最後方待機だったらしい。

俺とふたりだけで戦うのと比べ、緊張の度合いが全く違うという事だろう。

こういう時は、シャルロットさんをいたわり褒めるに限る。
当然年上彼氏モードで、である。
お約束の呼び捨てで。

「シャルロット」

「は、はい」

「お疲れ様! とりあえず、当面の戦いは終わったぞ」

「は、はい! お疲れ様です。それよりエル君は大丈夫ですか? おけがはありませんか?」

「ありがとう! 俺はかすり傷ひとつない。それより、本当に良くやったぞ、シャルロット」

「は、はい! エル君! わ、私! な、何とかやりとげました!」

「だな! とどめは俺が刺しておいたから」

「はいっ! 凄く嬉しいです! ありがとうございます! エル君!」

「おう! どういたしまして。でも次の敵はすぐ現れる。油断は大敵だぞ」

「分かりました! 気を付けます! エル君も気をつけてくださいね♡」

と神妙な顔つきで言うシャルロットさんだが、
嬉しそうに「くしゃっ」と表情を崩し、言葉遣いもフレンドリーに。

「でも、うふふ♡ やったね! 私とエル君が付き合い始めて、初めての共同作業だよ♡ これからも頑張るから! 末永くよろしくね♡」

は!?
今、何か凄い事言わなかった!?

付き合い始めて!?

……いやいやいや、付き合ってね~し。

それどころか、告白すらしてね~。

初めての共同作業!?

……結婚式のウエディングケーキ入刀じゃね~し。

末永くよろしくねって!!!???

……もしかして! 俺が必ず守ってやる!

と、言ったから、恋愛&結婚スイッチ入った!?

クラン内恋愛確定!!??

そのまま結婚一直線!!??

俺16歳でランクF、まだまだ半人前以下だぞ!!
甲斐性、全然ね~し。

性悪冷血女ミランダのせいで、女子にトラウマさえあるのに。

焦って、思わず、

「お、おいおい」

と言ったが、シャルロットさんの耳には入らず、完全に自分の世界へ入っていた。

「うふふ♡ エル君も嬉しい? 私も! すっごく幸せを感じるう♡」

などと、陶酔状態。

う~む……あのね。

と、思いつつ、考え直した。

……まあ、良いか。
シャルロットさんは、せっかく、やる気になっているし。
ここで下手な事を言い、ネガティブ化させ、やる気をそぐのは愚の骨頂。
やけになって、暴れでもしたらヤバイ。

それにシャルロットさんは一途な女子だ。
俺の事を想って、細やかな気遣いもしてくれる。

うん!
覚悟を決めた。
シャルロットさんを信じよう。

そして、この研修が終わって、
もしもシャルロットさんの気持ちが変わらなかったら、
『彼女』にしてしまえ!!!

性悪冷血女ミランダから生じた女子へのトラウマ。
半人前の自分という不安等々いろいろあったが……

責任を取ると決めたら、悩んでいた気持ちが思いっきり軽くなった。

「シャルロット! 敵が出たら、次も同じパターンで行くぞ」

「了解です! 次は怖がらず、もっと落ち着いて出来ると思いますよ」

「そうか。それは良かった」

「うん! エル君が居れば、私、一生懸命、頑張れるもん♡」

敬語とフレンドリー言葉を織り交ぜられると新鮮だなあ。

どんどん、シャルロットさんが愛おしくなって来た。

ふたりバトルの経験を積み、自信が芽生えたシャルロットさんは、
「にこにこっ」と笑ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

オーク5体を倒した俺とシャルロットさんは、石畳を歩き、
『散歩』を続けて行く。

最初の通過ポイントより少し前で、またもオーク10体と遭遇。

数は倍であったが、俺は8体をあっさり倒し、シャルロットさんも2体のオークを、
魔法杖の風弾で撃ち抜き、倒した。
ちなみに、しっかりと息の根を止めたので、俺のとどめ刺しは必要なかった。

そこからしばし歩いて……

ぴ!
ぴ!

と、最初の通過ポイントの魔法水晶に、
所属登録証をかざす時のシャルロットさんは、本当に嬉しそうだった。

「よし! やったね! 第一ポイント通過だよ、エル君」

「あ、ああ! そうだな!」

「エル君、私ね、もう大丈夫! 自信がついた。凄くやる気になって来たよ♡」

「おお、そりゃ、良かった」

「うふふ♡ だから第一ポイント通過記念として、ご褒美頂戴!」

「え? ご、ご褒美?」

ええっと……ご褒美って、何だろ?

何をあげたら?
何をしたらいいんだろ?

俺が迷い、ためらっていると、シャルロットさんは笑顔で、
おねだりして来る。

「うん! またぎゅ!ってして」

「え? ぎゅ?」

「さっきみたいに、私を抱きしめて。そしたら、また頑張れる!」

ハグしてくれって事か。

でもさっきは自然な流れだったけど、改めてって言うと、
中々、出来ない。

俺、彼女いない歴16年。
生まれてから、今まで、恋愛経験ゼロだから。

「ええっと……」

思わず俺が口ごもれば、

「だめ?」

ああ、乙女の必殺技。
せつない、流し目攻撃さく裂。

この眼差しに敵うのは、よほどの奴だ。

少し考えたが……OKする方が賢明だと答えが出た。

「い、いいよ。……おいで、シャルロット」

仕方なく、俺は両腕を広げた。

すると!

すかさず、超速攻。

シャルロットさんは思い切り、俺の胸の中へ飛び込み、
顔をうずめ、すりすりと甘えまくったのである。
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