上 下
12 / 176

第12話「ふ~ん。エルヴェさんは、達観してるのね」

しおりを挟む
馬車が止まり……

扉を開け、乗り込んで来たのは、

「は~い。皆さん、おはようございま~す!」

グランシャリオのメンバーで紅一点。
独身男子冒険者憧れの的、美貌の回復役ヒーラー
創世神教会元女性司祭の、セレスさんことセレスティーヌ・エモニエさんだった。

はっきり言って、全然想定外だった。
俺のピックアップが一番最後だと思っていたのに。

御者台に居るバスチアンさんからは何の説明もないし。

セレスさんはさっさと馬車に乗り込むと俺の隣に座り、

「私も、皆さんの研修に同行しますね」

と嬉しい事を言い、素敵な笑顔を振りまいた。

おお!
やはり綺麗なお姉様セレスさんも、俺達新人の研修へ、一緒に行ってくれるのか。

ラッキー!

セレスさんの言葉を聞き、改めて実感する。

お客様様扱いで、甘ったれかつネガティブな同期に、若干げんなりしていたので、
俺は少しやる気が出た。

そんな俺よりも喜んだのは、ドラフト2位指名ストロベリーブロンドの魔法使い少女シャルロット・ブランシュさんだ。

「よ、良かったああ! 同性のセレスさんが一緒でえ! 私、同行するのが男ばっかりで、すっごく不安だったんですよお!」

と、能天気に喜んでいた。

一方、ドラフト第3位、元騎士見習いで、現在は戦士のフェルナン・バシュレさんは、ほんのちょっぴり嬉しいという雰囲気のレベル。

シャルロットさんよりは現実を見ているようだ。

「はあ」と息を吐き、セレスさんへ言う。

「あの、セレスさん」

「は~い、何? フェルナンさん」

「あの、俺達……これから王都郊外の訓練場へ向かうんですよね?」

「ええ、そうよ」

「セレスさん、それとバスチアンさんも。俺達のフォローしてくれるんですよね? そういう認識で構いませんよね?」

「ええ、フェルナンさん、当然フォローするわよ」

「ありがとうございます、セレスさん。本当に助かります」

お礼を言うフェルナンさんだが、セレスさんは悪戯っぽく笑う。

「うふふ、但し、必要最低限ね」

「え?」

というフェルナンさん。
やっぱり?って顔に書いてある。
さすがに口には出さないが、
3年前ドラフト1位指名された人から聞いた通りかよ……って感じだ。

「ええっと、必要最低限ですか?」

改めてセレスさんへ聞き直したフェルナンさん。

対して、

「うん、私は回復役。だから具体的に言えばフォローは怪我したら、その都度応急手当レベル。体力回復も1日ノーマル薬草1回分のみ」

あはは、笑っちゃうよ。
本当に必要最低限のフォローだ。
ちなみにノーマル薬草だとHPはほんのわずかしか回復しない。

「えええ!!??」

シビアな答えを聞き、のけぞるフェルナンさん。

ええっと、ちょっとオーバーアクションだろ。

しかしセレスさんは、容赦なくとどめを刺す。

「だから! みんな、出来るだけ怪我は避けて! 当然体力も温存して! 研修終了後にダメージが大きかったら厳しく減点対象だからね! よろしくう!」

「そんなあ……」

がっかりするフェルナンさんの傍らで、シャルロットさんはそれ以上に、
どよ~んとしていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ガトゴト音を立てて走る馬車の車内。

再び沈黙が包んでいた。

同期のふたり、シャルロットさんとフェルナンさんは、陰キャの如く、
真っ暗だった。

一方、俺は覚悟していたのと、クラン『シーニュ』で「鍛えられていた」から、
それほど悲観的ではない。

実は迷宮の奥で、ひとり置き去りにされた事もあったし。

まあ、『シーニュ』のメンバーはぶっとばしてやりたいほど憎たらしいが、
結果良しって感じかな。

俺が唯一心配なのが協調性。

このヘタレな同期ふたりを庇いながら戦うのは相当に高難度だ。
だが、もしも見捨てたように判断されたら、俺の評価も下がるに違いない。

そんな空気を察してか、セレスさんがアドバイス。

「新人同士、協力し合って、事にあたるのが賢明ね。ひとりよりふたり、ふたりより三人で対応した方がピンチを切り抜けられるわ」

個人プレーではなく、連携力を重んじる。
グランシャリオでクランを組むメンバーとなるならば、常識的な事だ。

セレスさんが釘を刺すのは、そこが評価ポイントにつながるから。

俺はそう受け止めた。

そう考えていると、言葉を発さない俺へ、セレスさんが話しかけて来る。

「エルヴェさんは、先ほどからコメントがないけど、どう?」

「はあ、まあなるようにしかならないかと……」

落ち着き払った俺を見て、セレスさんは微笑む。

「ふ~ん。エルヴェさんは、達観してるのね」

「ええ、赴く訓練場は物騒な原野か、ヤバイ迷宮だと思えば、仮所属の時と変わりませんし」

「へえ」

「まあ、俺は持てる技を駆使して、全力を尽くすのみです」

そんな会話をしながら、馬車は王都の正門を出て……
南への街道を走る事、休憩をはさみ、約4時間。

……ついに馬車は、研修場所へ到着したのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】 「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」 ――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。 勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。 かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。 彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。 一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。 実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。 ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。 どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。 解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。 その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。 しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。 ――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな? こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。 そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。 さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。 やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。 一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。 (他サイトでも投稿中)

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

処理中です...