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第135話「形勢逆転」

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 正体不明の『影』が嘆息し、煙のように姿を消した直後の王の間。
 不思議な事に、どこからともなく「ひゅ」と一陣の風が吹いた。

 その風が吹いた直後……
 『王の間』で、またも 魔力が揺らいでいた。
 先程の魔力とは、また違う波動である。

 そして!
 いきなり空間が割れ、『王の間』に3人の男女が現れた。
 何と、地下10階の全く違う場所で消えた、ダン達3人であった。

 ……ダン達は魔法を使って異界へ跳び、一時的に身を潜めていた。
 表向きは、相手に所在不明とみせかけ、『ゆさぶり』を掛けたのだ。

『はは、あいつ……やはり、現れたな』

 ダンが「にやっ」と笑えば、エリンとヴィリヤも「してやったり!」という顔付きである。

『バッチリ! 旦那様の予想通り』
『呆気なく罠にかかりましたね』

 エリン達の言葉を聞き、ダンは大きく頷く。

『ああ、今度は俺も魔力波《オーラ》で把握したし、オリエンスに頼んで、風の精霊シルフにも見張らせた。奴の居場所はしっかり掴んだぞ』

 謎の存在を捕まえた!
 エリン達の顔が、喜色満面となる。

『じゃあ、もう袋の鼠だね、旦那様』
『絶対に逃がしません! お祖父様を冒涜した奴なんか』

『だな! それに奴の言っていた謎もほぼ解いた』

『謎も?』
『本当に!?』

 更にダンは、『謎解き』もしていた。
 謎とは、一体何?
 エリン達の『耳』が大きくなり、一斉にダンへ向けられる。
 
『ああ、この王の間には仕掛けがある。多分、魔法で隠された出入り口があって、新たな地下迷宮へ繋がるんだ』

『へぇ! ここから先があるんだぁ。旦那様、どうするの?』

『いっそ、思い切って、どかんと壊しちゃいます?』

『え? 壊す? ヴィリヤったら凄い!』

『そうですか?』

 「しれっ」と返すヴィリヤを見て、エリンは少し苦笑した。
 「のほほん」としたお嬢様のように見えて、結構ヴィリヤは過激なのだ。

『まあ、待て。急に現れた俺達を見て、奴も驚いている筈だ。少し待てば、きっとまた現れる。それまでケルベロス達に警戒させて、もうひと休みだ』

 「もうひと休み」と聞き、エリンとヴィリヤは緊張感が解け、脱力した。
 それは、「とりあえず危険はないぞ」というダンの判断が下った事といえるから。

 ダン達は、『王の間』の中央部分に車座となって、くつろぐ。
 エリンがわくわく顔で言う。

『うふふ、あの影はどんな顔して現れるかなぁ? って表情までは分からないかぁ……』

『エリンさん、はっきり言って……あいつの事、すぐ、ぶっとばしたいんですけど、私』

 どうやら……
 ヴィリヤの怒りは、まだまだ収まっていないようだ。

 「ぶっ飛ばす!」などという、全くお嬢様ではない物言いを聞き、エリンは、つい笑いそうになった。
 
 だが……
 ヴィリヤに軽く睨まれ、慌てて、口を押えたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 30分後……

 ダン達の予想通り、『影』はいきなり現れた。
 車座となった、ダン達の上空だ。
 相変わらず幻影の魔法を使っているようだ。
 どうやら危険はないようであり、ダンは勿論、護衛役のケルベロス達ものんびりしていた。

 その『影』は……相当怒っているようである。

「貴様!」

 高圧的な『影』の物言いを聞き、思わずヴィリヤが「切れそう」になる。

「何よ!」

「俺が対応しよう」

 怒気を含んだ肉声で返したヴィリヤを、ダンが手で制した。
 そして、飄々とした口調で問い質す。

「おい! 何、そんなに怒ってる?」

 しかし『影』は……ダンの質問に答えない。
 質問に、質問で返して来る。

「今迄……貴様等、どこに居たぁ!」

「あ~? 怒る意味が分からん。俺達はあんたとの約束通り、地下10階へ来たんだぜ」

 確かにダンの言う通りだ。
 『影』が言う通り、ダン達は地下10階まで来た。
 紛れもない事実である。

「…………」

 理屈で負け、影は言葉に詰まってしまった。
 ダンは微笑みながら、『影』を諭す。

「まあまあ、落ち着けよ」

「くう! 貴様ら、道中、全く会話をしていなかったぞ。まさか念話か?」

 影はやはり答えないし、質問で返して来る。
 だから、ダンも答えてやらない。

「はぁ? 聞こえませんなぁ……それより、あんた『謎』とか、尤もらしく言っていたけど、俺にはもう分かったよ」

「わ、分かった? な、何だと!」

「まず、この王の間には、隠された出入り口がある。そこに行けばあんたに会えそうだな?」

「…………」

 ダンの言う事に、『影』は反論しなかった。
 沈黙は肯定の証《あかし》であろう。

「それと、この迷宮自体の謎も分かった」

「な、何だと! 迷宮自体?」

 含みのあるダンの物言い。
 『影』は相当驚いたようだ。

 しかしダンの口調は、相変わらず軽い。

「ははは、半分以上あてずっぽうだがな」

「むむむ……」

 反論出来ず、唸った『影』へ……
 ダンは表情を切り替え、「びしっ」と言い放つ。

「言ってやろう。この迷宮は訓練場だ。遠き時代、古《いにしえ》の英雄と正式に約束した由緒正しき訓練場だ」

「な、何!?」

「ちなみに、迷宮を使う、あんた達の目的は、訓練と人集め」

「ななな!」

「そしてぇ、あんた達の正体はぁ……」

「ま、待て! それ以上喋るな!」

 面白可笑しく言うダンの話が、どんどん『核心』へ近付く予感を覚えたのだろう。
 『影』は必死になって、止めようとした。

 こうなるともう、ダンの意図通り……
 今の会話で、主導権を握る者が、ガラリと変わった。
 ダン達は、『影』に対し、優位に立てるだろう。
 
 それに加え、最初に『影』は言っていた。
 彼等の長、『ソウェル』なる人物がダンに興味を持ち、会いたがっていると。

 こうなると、ダンは考えていた『作戦』に移った。

「喋るな、か……ふむ、良いだろう。だがギブアンドテイク、交換条件を出すぞ」

「何! こ、交換条件だと!」

 完全に防御一辺倒になった『影』は、ダンの要求を聞く事しか選択肢はなかったのである。
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