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第201話「不吉な予言」

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 こうして……
 完全とも言える勝利を収めた俺達は、タトラ村大空亭へ戻った。
 
 地上に降りた俺達を、タトラ村の村人が総出で迎えてくれた。
 家にでも、隠れていれば良いのにと思ったが……
 
 もしも俺達が負ければ……
 『詰んでしまう』のはお約束だと、覚悟を決めて地上から大声で応援してくれていたらしい。
 俺にジュリアを取られて? 憎悪の目で睨んでいたあのダニーも、笑顔で大きく手を振ってくれていた。

 村人達の中から一歩進み出たのはドン村長である。
 もう80歳近い老人だ。
 何か、「もごもご」言うと、驚いた事にいきなり「ぺたん」と跪いてしまった。
 初めて会った時にも驚いていたし、一体どうしたというのだろう?

「おいおい、ジュリア、何だろう? 俺、何かまずい事したかな?」

 ジュリアは長いお付き合い?
 だから村長の「もごもご」が『翻訳』出来るらしい。

「ええと、ね。儂の見込んだ通りだってさ、使徒様、ありがとうって」

 ううむ、使徒様って……俺、ホントはもう『騎士』なんだけど……
 まあ、改めて使徒様って、正面切って言われると、何かくすぐったいな。
 今迄は身内にしか知られていなかったし、こういうのは俺も邪神様も嫌いだったから。
 さりげなく信仰心を上げるのが、珍しく一致した俺と邪神様の価値観。

「最初にね、旦那様を見た時に、後光が差していたんだって」

 後光?
 ああ、それって多分……
 ドン老人は初めて会った時、既に俺の神力波ゴッドオーラを見ていたらしい。
 だからあんなに驚いていたのか……うん、納得。

「さあ今夜は色々な意味でお祝いだよぉ!」

「「「「「「「「「お~っ!!!!!」」」」」」」」」」

 ジェマさんの声が響くと、俺達、村人達合わせて全員から鬨の声が上がったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ――3時間後

 宴会が始まって既にある程度時間は経っているが、まだまだ飲めや歌えのどんちゃん騒ぎが続いている。
 何せ、村存亡の危機が回避された上に、俺と嫁ズの結婚式と、モーリスさん&ジェマさんの結婚式も兼ねているのだ。
 
 この状況で盛り上がらないなんて、絶対にない!
 ばんばんボルテージは上がってる。

 俺も嫁ズも、散々エールを飲まされている。
 しかし、タトラ村の村人は礼儀正しい。
 酔っ払っても、決して嫁ズに抱きついたりなどしない。
 欲望をむきだしにしたりしないのだ。

 唯一の例外は、ジュリアを諦めてソフィアを口説こうとしたダニーであったが、ジュリアからきっつい拳骨を貰って涙目になっていたくらいだ。

 あまりにも可哀想だから、あいつに可愛い女の子でも紹介してやるか……

 俺がそう思った瞬間。
 
 再び、聞き覚えのある声が俺のこころに響いたのである。

『うふふ! 騎士デビューを華々しい大勝利で飾ったねぇ、さすがだねぇ、よ~くやったねぇ、オメデト~!』

 あ、また出た!
 邪神スパイラル様だ。
 まずは、騎士として俺の戦いを、称えてくれているようだ。

『君のお陰で、またこの世界における僕への信仰心がぐんと上がったよ。だからお礼に良い事教えてあ・げ・る』

 良い事?
 何だろう?
 でもこんな場合、この御方の性格からして、すっごく嫌な予感がする。

『何か引っかかる言い方ですね、それ……』

『だって、だって君がもうひと暴れ出来るから』

『俺が……もうひと暴れ?』

『そうだよ~。悪魔王国ディアボルスがきな臭いんだよねぇ。うふふ、面白くなりそうかも』

 悪魔王国ディアボルスが……きな臭い?
 まさか!

『それって!? もしかして!?』

『そう! そのもしかだよぉ、あそこで飲んだくれてる悪魔侯爵君と相談して急いで魔界へ行った方が良いよ』

『も、もう少し詳しく聞かせて下さいっ!』

『百聞は一見にしかず……行けば分かるよぉ! じゃあね、ばはは~い』

 追い縋る俺を気にもせず、例によって邪神スパイラル様は言いたい事だけ言って、さっさと行ってしまったのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 この世界の管理神、邪神様こと螺旋スパイラル様からお告げがあった事を伝えたのは、宴会が終わった翌朝の事である。
 俺の嫁のひとりで悪魔王女であるイザベラは当然何が起こっているのか心配したが……
 もうひとりの当事者である悪魔アモンは「ぶすっ」としてそっぽを向いていた。

 アモンが俺の事を分かっているように、俺にもアモンの事が分かる。
 概してそんなものだ。
 アモンが、不貞腐れている理由はふたつある。
 ひとつめは俺がすぐに報告しなかった事。
 あんなにどっしり構えているように見えて、実はアモンの奴、結構せっかちなのだ。
 いらいらしてくると、貧乏ゆすりをする癖がある。

 ふたつめは、邪神様に魔界の内情を見透かされているのが嫌なのだ。
 全てが邪神様の掌の上、良いように踊らされるなんてと、目が怒っている。

「これでは我々悪魔が、石ころから生まれたどこぞのサルと一緒ではないか?」

 何だ、アモンって『西遊記』の話を知ってるのか?

「まあまあ」

 俺がなだめても、アモンの奴、頭から湯気が出るくらい怒っている。

「何がまあまあだ! スパイラルからお告げがあった時点で何故イザベラ様や俺に報告しない?」

 ああ、短気でせっかちなアモンの波動がビンビン伝わって来る。
 しかし俺は、のらりくらりとはぐらかした。

「ああ、彼は急いで行けとは言ったけどさ、たった今即座に行けとは言わなかったよ」

「そんな事は、分からないではないか!」

「分かるよ」

「何故だ!」

「だって俺、彼の騎士だもの」

「…………」

 俺に正論を言われて、返す言葉がなくなったのか、アモンは黙り込んでしまう。

「どうしたの? 黙って」

「……お前はムカツク奴だと思ったのだ」

「まあ不出来な弟として、今後も役に立つから許してよ。とりあえずアモンより使えるよ、俺」

「馬鹿が! この兄より優れた弟など……存在しない!」

「だってさ、実際、俺に腕相撲で完璧に負けてるじゃん」

「お前は本当に……ムカツク!」

 アモンとはこんな会話をした。
 はっきり言って、甘えてる部分もある。
 まあ愛情表現の範疇に入れても許されるだろう。

 そんなこんなで……
 とりあえず邪神様の予言に対策を立てねばならない。

 俺と嫁ズ、アモン、シュルヴェステル様、そしてエドヴァルド父と竜神族、オブザーバーにモーリスさん&ジェマさんという面子で、早速家族会議が始まったのであった。
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