上 下
173 / 205

第173話「アウグストの行方」

しおりを挟む
 悪魔の魂を宿した、自動人形オートマタ軍団を加えた俺達クランバトルブローカー。
 大所帯となって、更に地下5階を探索し続けた。
 
 だが地下5階を守護していたのはこのふたつの軍団だけで、事前の情報にあった鋼鉄の巨人ソルジャーゴーレムタイプの敵は居なかった。
 各所に仕掛けられた多くの罠もふたつの軍団からの情報と、罠を熟知したソフィアのフォロー、クランバトルブローカー所属の優秀なシーフメンバーによる撤去作業により、無効化された。

 見つけた地下6階への転移門も地図通りの場所にあり、何故か封鎖はされていなかった。
 こうなると地下5階は俺達にとって完全な安全地帯となり、次に向う地下6階への攻略の為の拠点となったのである。

 情報屋サンドラさんこと、アマンダの母ミルヴァさんはここから先の詳細な情報を持っておらず、俺達は現時点でこの先がどうなっているか知り得ていない。
 そこで俺と嫁ズは仲間となった軍団メンバーから、改めてこの先の情報収集をする事にした。

 ソフィアと巡り会ったコーンウォールの迷宮でも同様の感想を持ったが、相変わらずこの地下都市は凄い。
 ちなみに安全になった地下5階を少し探索したが、魔力を使ったライフラインが完璧に備えられており、いつでも人が住める状態になっていたのだ。

 俺はガーゴイルAことアラン・ボワロー、そして自動人形化した悪魔セーレを呼んだ。
 両名はとても仲が良いというわけではないが、お互いに面識はあるらしくぎこちなく一礼をした。

 俺は、早速質問を開始する。

「まず地下6階以降の構造について聞きたい」

「じゃあ、まず俺から話そう……」

 最初に口を開いたのはアランである。

「地下6階はここ地下5階と同じ造りの居住区さ。だが地下7階は様相が、がらりと変わって自然溢れる領域となっている……この迷宮における生産区域なんだ」

「生産区域?」

「ああ、魔力を使った人口農場さ。生活魔法で水を生み出し、強力な魔導灯を太陽代わりにして麦や野菜が特殊な形態で栽培され、家畜を主とした地上の動物が実験的に育成されている」

 へぇ!
 それって俺が居た過去の世界の植物工場みたいじゃないか!
 ちなみに植物工場とは、無菌を前提に人工的な水耕栽培等で作られる安全、安定供給を目指した野菜などの生産システムだったと思う。
 まあ、もっと凄いものなんだろうが、その上動物まで飼われているんだ……

「人口農場? それは……凄いな!」

 色々な想像をした俺が思わず大きな声を出すと、今度はセーレが口を開く。

「ああ、アランの言う通りだ。この美しい身体もそうだが、あの素晴らしい技術が僕達を魅了した大きな原因なのさ」

 セーレの目は遠くを見つめていた。
 
 自分の故郷である魔界は、基本的に砂漠と岩の荒れ果てた世界である。
 全く同じとはいえないが、陽も射さない地下深き迷宮で魔力を使用した豊かな人口農場を目の当たりにしたら……

 俺はそう考えて、はたと手を叩いた。

 そうか!
 こいつ、真ガルドルド帝国の国民になると宣言しながら、頭の片隅には故国の事を忘れずにしっかりインプットしていたんだと。

「地下7階が農場なのは分かった! そこから先は?」

 俺が質問すると、再びアランが話し始める。

「地下8階は指導者達の業務用兼居住区域だ。いわゆる役所と宿舎になっている。構造はこの街並みと基本同じさ」

 ううむ、成る程!
 官邸と公務員宿舎って奴ね!

「そして地下9階は高貴なる方々をお迎えする為の階《フロア》だと彼等指導者は言っていた。だから俺は立ち入った事がない」

「ああ、僕もさ」

 高貴なる方々?
 ああ、ソフィアや彼の兄である皇帝など……ガルドルド王家の人達なんだろう。
 多分、王宮などがそびえたっているに違いない。

「最下層の地下10階は?」

 俺が質問するとアランとセーレは顔を見合わせた。

「それがなあ……」

「そうなんですよ……」

 口籠るふたり……

「国民でも国家機密はあると言われて、一切教えて貰ってないんだ」

「そうそう! そうなんです」

 ふ~ん……
 一切教えてくれないのか。

 でも俺には、ほぼ想像がついていた。
 多分、地下10階はこの迷宮の心臓部であり、迷宮自体を運営、保全する装置……ダンジョンコアとかがあるのに違いない。
 ダンジョンコアに興味は凄くあるけど、とりあえず今は認識するくらいで良いだろう。
 
 次は、フレデリカが探しているアウグストの行方を聞きたい。

「人間は悪魔の持つ誰にも負けぬ猛々しさを、片や悪魔はアールヴの持つ透明感ある美しさを求めた……と、なるとアールヴ達は究極の人間ともいえる人工巨人の、逞しい身体とゆるぎない強さを求めたのだな?」

 俺がずばり切り込むと、アランとセーレはとても吃驚した様子であった。

「何故?」

「分かるのですか?」

「分かるよ! それでアウグストは?」

 目の色を変えてこちらへ質問するふたりを軽くスルーして、俺は逆に問い質した。

「はい! アウグスト様は地下6階で帝国騎士団を率いる騎士団長を務められておいでです」

「そうなんだ! あいつ、白金色の神々しい巨人に魂を宿しているぜ」

「あ、ああ……ううう」

 アランとセーレの衝撃発言を聞いて、うめいたのはフレデリカであった。
 
 俯いてしまったフレデリカは小柄な身体を震わせ、嗚咽している。
 敬愛する兄は、生命こそ落としてはいなかった。
 それは嬉しい!

 だが、真ガルドルド魔法帝国の騎士として、あの滅ぼす者デストロイヤーに相当する巨人の身にその魂を移していたのだ。
 
 肉親のフレデリカとしては、とても複雑な思いであろう。

 俺はその時、決めた。
 押し切られて結婚するような雰囲気になっていたけれど、自分のしっかりした意思を持った。
 超ツンデレではねっかえりの我儘娘だが、甘えん坊で兄思いの優しいアールヴ美少女を引き受けようと!

「フレデリカ、おいで!」

「あううううう、お兄ちゃわ~ん!!!」

 目に涙を一杯にしたフレデリカは、俺が呼ぶと一目散に駆け寄って来る。

 俺は号泣するフレデリカを確りと受け止めると、震える小さな背中を優しくさすっていたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

巻き込まれ転移者の異世界ライフ。○○人の女を囲って幸せに生きる ~ざまぁで終わらせるわけないだろ~

みかん畑
ファンタジー
異世界転移に巻き込まれた男が底辺から成り上がり、調子に乗った挙句ドSな性癖を開花して女を囲いまくる話です。主人公は力をつけてから好き放題します。中盤以降は性描写モリモリな作品です。 5/14 追記:内容を分かりやすくする為に旧題からタイトル変えてます。タイトルと一緒に途中で話の方向性が変わったりとかはないです。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

処理中です...