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第167話「停戦の申し入れ」

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 俺の声に素早く反応したのは、ジュリアである。 

 「了解! 旦那様! じゃあ転移門からすぐ上の4階層に撤退だね」

 さすが、ジュリア。
 完璧な軍師ぶりを発揮してる。
 竜神族に覚醒してから『鋭さ』に一層磨きがかかっている。
 
 リーダーとしては、とっても助かる。

「おう、ジュリア、お前の言う通りだ! 悪いが、先導役を頼むぞ」

「任せといてっ!」

 ここで、俺がジュリアに先導役を任せたのは理由がある。。

 ちなみに悪魔ヴォラクは俺が声を掛ける前に、とっくの昔に逃げている。
 もう、あいつめ!

 俺は傍らのフレデリカを振り返る。

「フレデリカ、大丈夫か?」

 「お兄ちゃわん、大丈夫! 撤退だね」

 そして、

 「アマンダ、ハンナ!」

 「大丈夫よ! 旦那様!」

 「ご主人様マスター、かしこまりました!」

 ん? ご主人様マスター

 ハンナの、俺への呼び方が気になったが、確かめるのは後で良い。

 ここで俺は、残った魔法使いふたりへ指示を出した。
 イザベラとソフィアのコンビである。

「ふたりとも一過性の魔法障壁は使えるな?」

「旦那様、大丈夫!」

「任せておくのじゃ!」

 おお、そんなの当たり前という力強いリアクション。
 頼もしい限りだ。

「ようし、奴等を対物理の魔法障壁で足止めしてくれ。魔法が発動したら俺が殿しんがりを務めるから、お前達もすぐ撤退しろ」

 殿しんがりとは軍事用語において最後方で戦う部隊の事を指す。
 特に後退や撤退する際に攻め寄せる敵を防ぎながら、本隊を逃がす防波堤の役割もする部隊である。
 すなわち敵を一手に引き受けるので、1番リスクを背負う事になるのだ。

「駄目だよ、トール! 一緒に逃げるんだ」

「そうじゃ! 夫と妻はいつも一緒じゃぞ!」

 イザベラとソフィア。
 ふたりとも俺の身を案じて嬉しい事を言ってくれる!
 これが、家族の強い絆って奴だろう。

「大丈夫さ、念の為に一瞬だけ残るんだ。すぐお前達に追い着く。俺の素早さは知っているだろう?」

「……分かった、絶対に無理しないでね!」

「約束じゃぞ!」

 そう言っている間に、ガーゴイル軍団が押し寄せて来た。
 他の嫁ズ+@はジュリアの先導でとっくに撤退している。

 「「城壁《ランパート》!」」

  間を置かず、ふたりの魔法が発動した。

  ようし!

  放出された魔力波オーラを見る限り、間違いなく強固な魔法障壁が張り巡らされている。
  魔法障壁は常人の目には見えない。
  ガーゴイル達も止まらない所を見ると、どうやら障壁は見えていない。
  
 突っ込んで来た先頭のガーゴイル達が障壁にぶつかってこけ、その後ろの奴等も将棋倒し状態になっている。

 うん、頃合いだ。

 「ようし! イザベラ、ソフィア、撤退してくれ!」

 「はいっ!」

 「了解じゃ! よいか、トール! すぐに来るのじゃぞ!」

  イザベラとソフィアは、そう言い残すと俺の指示通り、撤退して行った。
  俺はふたりが退いたのを見届けると、魔法障壁の方へと向き直る。

  ええと……魔法障壁の隙間から1体くらい来ないかな?

  彼を知り己を知れば百戦殆うからず……
 
 これは有名な兵法書である孫子の一節である。
  すなわち敵と味方の実情を熟知していれば、百回戦っても負けることはないという意味だ。
  逆に言えば、相手を知らないで戦うと負ける可能性も大きくなると俺は理解している。

 これまでは既に戦った相手が多く、余裕を持って対処出来た。
 万が一、新たな敵が出現しても戦の『生き字引き』であるアモンがアドバイスをくれたから敵を良い意味で見切る事が出来た。
 
 だが、今後はそうはいかない。
 アモンはもう……居ないのだ。
 俺や嫁ズが経験を積んで行くしかない。
 だが、経験を積むために毎回全員を危険な目に遭わせるわけにはいかないのだ。

 盾役の俺が相手の全てを熟知して行くしかない。

 と、そんな事を考えていたら……
 上手い事、障壁を掻い潜って2体がこちらへ向かって来る。
 これはシメタ!
 しかし焦っては駄目だ。  

 慎重に!
 慎重に、だぞ!

 俺は自分に言い聞かせながら、魔剣を抜くと相手に突進して行った。
 最初から倒すつもりは無い。
 相手の情報収集の為だ。
 あっちがやばそうな攻撃をして来たらすぐ逃げる態勢だ。

 果たしてガーゴイルはどんな奴なのか?

 まずは話しかけてみる。
 最初は肉声、それに反応しなかったら念話でいくつもりだ。

「お~いっ! お前等! 元は人間なんだろう? 俺は戦う気はないっ!」

 俺の声は、その気になればでかい!
 先日、冒険者ギルドで怒鳴った時も相当なもの。
 確実にガーゴイルへ届いている筈だ。

「やめろ! 戦いをやめるんだぁ」

「!」

 あ! 俺の声に反応したのだろうか?
 2体駆けて来るうちの1体が止まる。
 おお、攻撃するのをやめたようだ。
 どうやら言葉が通じたらしい。

 もう1体は襲い掛かって来たが、やはり俺の動きの前では敵ではない。
 俺は襲って来た奴を楽々と躱し、間近で相手を見た。
 やはり欧州某有名寺院のガーゴイルと一緒である。
 元々、ガーゴイルには色々なタイプが居るが、またしても俺の知識が反映されてしまったのかもしれない。

 果たして奴は……
 一見、石像風だが良く見ると違う。

 表面の色こそは大理石そのものだが、俺の見る所、決して石などではなく、もっとしなやかな雰囲気の謎の素材である。

 ソフィアの魂を宿した自動人形の素材だって人間の肌そっくりだ。
 多分、ガルドルド魔法帝国の魔法工学師達は様々な素材を研究していたのであろう。

 と、その時。

「待て! やめるんだ」

 俺の声に反応して攻撃をやめた1体のガーゴイルが、はっきりとした言葉を発した。
 それは攻撃しようとする仲間を押し留める、制止の声であった。
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