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第142話「フレデリカ失踪」
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サンドラさんから情報と地図を得て外へ出ると、既に陽は暮れかかっていた。 だが、ベルカナの街は只ならぬ雰囲気に包まれていた。
目立つのは街中に立っているアールヴ美男美女の衛兵達。
あちこちで、全員血相を変えて走り回っている事だ。
街中でイケメンと美女が泡食っている絵は、俺にとっては余り美しくない。
そのような衛兵には到底話し掛けられる雰囲気ではないので、俺は話し易そうな通行人を捕まえて聞いてみた。
すると!
あのフレデリカが……行方不明になったらしい。
ソフィアが、ぽつりと呟く。
「あの娘は多分『失われた地』に行ったのではないか。あんなに自分のクランの自慢をしていたからのう」
俺もそう思う。
多分、フレデリカは兄の救出作戦を実行に移したのだ。
でも、ひとつ疑問が生じる。
この街の出入り口は正門しか無い筈。
だから、彼女の親父さんも僅かな見張りを付けるだけで放任していたのであろうから。
しかし!
それでもフレデリカは消えた。
いろいろ話を聞くと、彼女の率いるクラン、スペルビアごと消えたらしい。
街へ入った時の事を考える限り正門の見張りはきっちりとしている。
フレデリカ達は、正門以外に街の外に出る手立てを知っていたのだ。
今頃フレデリカの父マティアス・エイルトヴァーラは泡を食って愛娘を探しているに違いない。
跡取り息子が遺跡に入り込んでほぼ絶望的。
その上、目の中に入れても痛くないくらい可愛がっているらしい娘をここでまた失ったら……
いや、これ以上考えるのはよそう。
今の俺達には何の関係もないから。
ジュリアがきっぱり言った通りだ。
フレデリカの兄を助けるのなら、それより先に身内であるソフィアを助けないといけない。
だって、かけがえのない家族なのだから。
でも……
つい俺は考えてしまう。
直接頼って来た相手を冷たく突き放してしまうのは、あまり気持ちが良くない。
あんなに泣いていたものなぁ……
だが、このようにずっと悩んでいても堂々巡り。
仕方がないから、俺達も買い物をして帰る事にした。
以前、コーンウォールの迷宮に潜った時のように装備品と食糧等を買い足しておいた方が良い。
いつもながらすぐ道を教えてくれる衛兵がまだパニック状態。
なので、俺達は仕方なく通行人に聞いて冒険者向けの商店に向かったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この街には冒険者向けのいわゆる万屋《よろずや》があった。
一軒の店で何でも揃うので便利である。
俺達は保存用に魔法で処理した食糧と水、回復や解毒の薬草、そしてジュリアの使用する魔法杖用の魔法水晶等様々なものを購入した。
最初と違って迷宮に潜る為の買い物は二度目なので、勝手が分かっている。
今回は何が必要か、足りないものは何か? ある程度見極めながら買い込む事が出来たのである。
ソフィアにも装備一式を揃えてやる。
ぴったりなサイズの革鎧があったので購入してやると嬉しそうにしていた。
なので、大サービス。
予備の法衣も追加で買ってやると、俺に抱きついて来た。
王女という身分であっても、プレゼントというのは女性にとっては喜ばしいものなのだろう。
一方、ヴォラクにはソフィアと同じ様に必要な買い物をしてやった。
最初から奴の金を貰おうなんて気持ちはさらさら無いから。
ショートソード、革鎧、盾、その他装備品一式等を、奴と選びながら購入したのだ。
ある程度使い込んだ中古品を買ったので、余り高い買い物をしたわけではないが、ジェトレ村と比べれば若干割高だ。
これは需要と供給の差で、ベルカナの物価という奴だろう。
とりあえず……
これで『失われた地』の迷宮に入る準備は出来た。
俺達は店を出た。
白鳥亭へに戻る事にする。
今夜はクラン内で地図を元にして迷宮の内部の再確認。
そして出現する敵の対策を立てる。
道すがらヴォラクの得意な事も聞いて、奴の役割を考えよう。
「ヴォーラ、念の為に聞くけど……お前って戦えるよな?」
「ええっと……戦いか。嫌だねぇ、兄貴ぃ。俺はぁ仮にも○魔だぜぃ。楽勝、楽勝」
※お聞き苦しい部分の音声は消去しております。
お前の事を折角偽名で呼んでいるのに……
声が……でかいよ……
意味無いじゃん!
「楽勝って……お前の『売り』は何なんだよ?」
「俺って『運』のステータスが飛び抜けて良いんでねぇ。だから、罠も引き当てねぇし、お宝だってすぐ探し当てます」
「おお、凄いな」
「でしょう!……但し、戦いは」
「戦いは?」
「てんで駄目なんでさぁ」
「え?」
俺は思わず吃驚。
凶悪な悪魔なのに?
戦いは駄目で運だけ良い?
それってどっかのゲームの『ごく潰しキャラ』みたいじゃないか?
「はぁ……」
ため息を吐く俺を見て、ヴォラクは「きょとん」としている。
こいつはどうして俺が溜息を吐いたのか、分からないみたいだ。
でも運だけで生きているこいつは……
文句無く『シーフ』に決定!
「ヴォーラ……」
「何です? 兄貴」
「クランのメンバーとして宝探しの能力は認めてやる。但し罠外しと開錠だけは必ず覚えろ! もし出来ないっとかって、言ったら……」
「言ったら?」
「すぐに放り出す! つまり縁を切る!」
「えええ、あ、兄貴! マジですか?」
「マジ!」
俺がきっぱり言うと、ヴォラクは表情を引きつらせて黙ってしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
万屋で買い物が終わると、もう夜になっていた。
俺達は宿である『白鳥亭』に急いだ。
既にジュリアとイザベラは宿に戻っていた。
ふたりとも大きなトラブルはなく、色々と各所で話が出来たようである。
ナンパもされなかったようなので、めでたし、めでたし!
しかし!
『白鳥亭』ではもっと大変な事が起こっていた。
何故か白鳥亭がいつもと違う……のだ。
その原因は一目瞭然。
カウンターに女将のアマンダ・ルフタサーリさんが……居ない!
何と!
そこには全然タイプの違う別のアールヴの女性が立っていたのである。
何だよ!
思わず大きな声で叫びそうになった。
俺の『癒し』を返してくれよ、と。
心の底から叫んだ俺はカウンターのアールヴ女性に勢い込んで聞く。
「ええと……女将さんは?」
「私が女将ですよ。エリナって言います。エリナ・ハールスですよぉ」
エリナさんか!
ハスキーな声だ!
金髪で碧眼、そしてこの人もアマンダさん同様、アールヴなのに、胸も結構大きい……
この人はこの人で結構、綺麗な女性だ……
充分、俺の中では許容範囲なんだが……
ぽっこん!
「いてぇ!」
思い切り足を蹴られた。
この怒った魔力波は……ジュリアだろう。
「こらっ! トール、駄目!」
ジョリアの叱る声で我に返った俺は、エリナさんに尋ねる。
「エリナさん、つかぬ事をお聞きしますが……元女将のアマンダさんは?」
「私ならここに!」
聞き覚えのある鈴のような声!
俺が振り返ると、あのアマンダさんが革鎧を着込み、ショートソードを下げた姿でにっこりと笑っていたのであった。
目立つのは街中に立っているアールヴ美男美女の衛兵達。
あちこちで、全員血相を変えて走り回っている事だ。
街中でイケメンと美女が泡食っている絵は、俺にとっては余り美しくない。
そのような衛兵には到底話し掛けられる雰囲気ではないので、俺は話し易そうな通行人を捕まえて聞いてみた。
すると!
あのフレデリカが……行方不明になったらしい。
ソフィアが、ぽつりと呟く。
「あの娘は多分『失われた地』に行ったのではないか。あんなに自分のクランの自慢をしていたからのう」
俺もそう思う。
多分、フレデリカは兄の救出作戦を実行に移したのだ。
でも、ひとつ疑問が生じる。
この街の出入り口は正門しか無い筈。
だから、彼女の親父さんも僅かな見張りを付けるだけで放任していたのであろうから。
しかし!
それでもフレデリカは消えた。
いろいろ話を聞くと、彼女の率いるクラン、スペルビアごと消えたらしい。
街へ入った時の事を考える限り正門の見張りはきっちりとしている。
フレデリカ達は、正門以外に街の外に出る手立てを知っていたのだ。
今頃フレデリカの父マティアス・エイルトヴァーラは泡を食って愛娘を探しているに違いない。
跡取り息子が遺跡に入り込んでほぼ絶望的。
その上、目の中に入れても痛くないくらい可愛がっているらしい娘をここでまた失ったら……
いや、これ以上考えるのはよそう。
今の俺達には何の関係もないから。
ジュリアがきっぱり言った通りだ。
フレデリカの兄を助けるのなら、それより先に身内であるソフィアを助けないといけない。
だって、かけがえのない家族なのだから。
でも……
つい俺は考えてしまう。
直接頼って来た相手を冷たく突き放してしまうのは、あまり気持ちが良くない。
あんなに泣いていたものなぁ……
だが、このようにずっと悩んでいても堂々巡り。
仕方がないから、俺達も買い物をして帰る事にした。
以前、コーンウォールの迷宮に潜った時のように装備品と食糧等を買い足しておいた方が良い。
いつもながらすぐ道を教えてくれる衛兵がまだパニック状態。
なので、俺達は仕方なく通行人に聞いて冒険者向けの商店に向かったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この街には冒険者向けのいわゆる万屋《よろずや》があった。
一軒の店で何でも揃うので便利である。
俺達は保存用に魔法で処理した食糧と水、回復や解毒の薬草、そしてジュリアの使用する魔法杖用の魔法水晶等様々なものを購入した。
最初と違って迷宮に潜る為の買い物は二度目なので、勝手が分かっている。
今回は何が必要か、足りないものは何か? ある程度見極めながら買い込む事が出来たのである。
ソフィアにも装備一式を揃えてやる。
ぴったりなサイズの革鎧があったので購入してやると嬉しそうにしていた。
なので、大サービス。
予備の法衣も追加で買ってやると、俺に抱きついて来た。
王女という身分であっても、プレゼントというのは女性にとっては喜ばしいものなのだろう。
一方、ヴォラクにはソフィアと同じ様に必要な買い物をしてやった。
最初から奴の金を貰おうなんて気持ちはさらさら無いから。
ショートソード、革鎧、盾、その他装備品一式等を、奴と選びながら購入したのだ。
ある程度使い込んだ中古品を買ったので、余り高い買い物をしたわけではないが、ジェトレ村と比べれば若干割高だ。
これは需要と供給の差で、ベルカナの物価という奴だろう。
とりあえず……
これで『失われた地』の迷宮に入る準備は出来た。
俺達は店を出た。
白鳥亭へに戻る事にする。
今夜はクラン内で地図を元にして迷宮の内部の再確認。
そして出現する敵の対策を立てる。
道すがらヴォラクの得意な事も聞いて、奴の役割を考えよう。
「ヴォーラ、念の為に聞くけど……お前って戦えるよな?」
「ええっと……戦いか。嫌だねぇ、兄貴ぃ。俺はぁ仮にも○魔だぜぃ。楽勝、楽勝」
※お聞き苦しい部分の音声は消去しております。
お前の事を折角偽名で呼んでいるのに……
声が……でかいよ……
意味無いじゃん!
「楽勝って……お前の『売り』は何なんだよ?」
「俺って『運』のステータスが飛び抜けて良いんでねぇ。だから、罠も引き当てねぇし、お宝だってすぐ探し当てます」
「おお、凄いな」
「でしょう!……但し、戦いは」
「戦いは?」
「てんで駄目なんでさぁ」
「え?」
俺は思わず吃驚。
凶悪な悪魔なのに?
戦いは駄目で運だけ良い?
それってどっかのゲームの『ごく潰しキャラ』みたいじゃないか?
「はぁ……」
ため息を吐く俺を見て、ヴォラクは「きょとん」としている。
こいつはどうして俺が溜息を吐いたのか、分からないみたいだ。
でも運だけで生きているこいつは……
文句無く『シーフ』に決定!
「ヴォーラ……」
「何です? 兄貴」
「クランのメンバーとして宝探しの能力は認めてやる。但し罠外しと開錠だけは必ず覚えろ! もし出来ないっとかって、言ったら……」
「言ったら?」
「すぐに放り出す! つまり縁を切る!」
「えええ、あ、兄貴! マジですか?」
「マジ!」
俺がきっぱり言うと、ヴォラクは表情を引きつらせて黙ってしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
万屋で買い物が終わると、もう夜になっていた。
俺達は宿である『白鳥亭』に急いだ。
既にジュリアとイザベラは宿に戻っていた。
ふたりとも大きなトラブルはなく、色々と各所で話が出来たようである。
ナンパもされなかったようなので、めでたし、めでたし!
しかし!
『白鳥亭』ではもっと大変な事が起こっていた。
何故か白鳥亭がいつもと違う……のだ。
その原因は一目瞭然。
カウンターに女将のアマンダ・ルフタサーリさんが……居ない!
何と!
そこには全然タイプの違う別のアールヴの女性が立っていたのである。
何だよ!
思わず大きな声で叫びそうになった。
俺の『癒し』を返してくれよ、と。
心の底から叫んだ俺はカウンターのアールヴ女性に勢い込んで聞く。
「ええと……女将さんは?」
「私が女将ですよ。エリナって言います。エリナ・ハールスですよぉ」
エリナさんか!
ハスキーな声だ!
金髪で碧眼、そしてこの人もアマンダさん同様、アールヴなのに、胸も結構大きい……
この人はこの人で結構、綺麗な女性だ……
充分、俺の中では許容範囲なんだが……
ぽっこん!
「いてぇ!」
思い切り足を蹴られた。
この怒った魔力波は……ジュリアだろう。
「こらっ! トール、駄目!」
ジョリアの叱る声で我に返った俺は、エリナさんに尋ねる。
「エリナさん、つかぬ事をお聞きしますが……元女将のアマンダさんは?」
「私ならここに!」
聞き覚えのある鈴のような声!
俺が振り返ると、あのアマンダさんが革鎧を着込み、ショートソードを下げた姿でにっこりと笑っていたのであった。
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