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第128話「白樺の街」

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 悪魔王国ディアボルス、王都ソドムの王宮の魔法陣から俺達が到着した転移門はとんでもない場所にあった。
 
 北に位置するアールヴの国イェーラ……目的地であるベルカナの街から10kmほど離れたロドニア王国との国境に跨る山脈……
 その中の、とある山の険しい絶壁にある洞窟……さらに奥深くに転移門は設置されていたのである。
 まあ、却って良かったともいえる。
 並みの人間では絶対に近付けない場所であり、秘密の転移門には最適の場所だから。

 悪魔の棲む異界と地上には『時差』があるらしい。
 昼前に出発したのに、今の時間は早朝に近い時間のようだ。
 洞窟の入り口から見ると地平線から太陽が昇る直前……夜明け前の雰囲気である。
 ロドニアとイェーラは険しい山脈のお陰で平和が保たれていると、バルバトスは話していた。
 
 今、俺達が居るのが、その山脈の洞窟だろう。
 そして真下に広がるのは一面の緑の絨毯、広大な針葉樹の森である。

 ちなみに街と街を結ぶ街道はひとつしかないそうだ。
 これは防衛上、わざとそうしているのだ。
 アールヴ側としてはその街道に守備隊をしっかり配置していけば良い。
 正規ルートをとらず、この深い森を抜けて険しい山を登り、わざわざ国境を越える苦労をする奴など普通は居ないから。

 だが今の俺達には悪魔王アルフレードルから賜った『羽衣はごろも』がある。
 陸路の難儀さなどさておき、鷹と白鳥に変身して自由に大空を飛べる。
 ちなみに悪魔ヴォラクは元々背に翼を持っている。
 なので、飛行には全く支障が無い。

 羽衣に付呪エンチャントされた魔法の発動は簡単だ。
 ひと言、言霊を唱えるだけである。

「「「「変化ムータティオー!」」」」

 俺を含めて羽衣の持ち主全員が言霊を詠唱すると目の前の景色が歪み、自分の身体が小さくなって行く感覚に囚われる。

「おお! 凄いですよ!」

 傍らに居たヴォラクが、感嘆の声をあげた。
 見ると俺の目の前に3羽の美しい白鳥が居る。
 一方俺の姿も、強そうな鷹になっていたのだ。
 そして鳥の姿になると人の言葉が使えなくなり、自動的に念話設定になるようである。

『行くぞ!』

『『『はい!』』』

 俺の身体は金色に輝き、神々しい。
 それは目の間の白鳥達も一緒だ。
 とても眩しくて正視出来ない程である。

 俺達は軽く羽ばたきするとあっという間に大空に消えて行った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 15分後――

 人の姿に戻った俺達は、ベルカナに向かう街道を歩いている。
 左右に広がるのは聞いた通り、白樺の広大な森であった。
 木々が密集していないので見通しが良い。
 外敵が潜まないように、街が周辺の森だけ木々の手入れをしているようだ。

「綺麗な森ね! 雰囲気がタトラ村の周囲とも全然違うわ!」

 ジュリアが感嘆の声をあげるとイザベラ達も追随する。

「本当に綺麗。こんな森でトールとデートしたいわ」

 ジュリアとイザベラを見て、ソフィアの顔もほころぶ。

「おうおう、空気が良くて魔力も澄んでおるのう!」

 可憐な彼女達を見て、ついヴォラクも本音を呟いた。

「はああ、俺も可愛い彼女が欲しいなぁ!」

 切実なヴォラクの溜息に苦笑した俺は、すっすっと軽やかに歩いて行く。

 一方、その綺麗さと裏腹に、さっきの針葉樹の森やこの白樺の森にアールヴや人間の外敵は多いと言う。
 木々の手入れをしていたのがそれを証明していた。
 害を為そうとする凶悪な魔族は勿論、人間を捕食する魔獣に獣までが跋扈しているというから一般の人にとっては確かに怖ろしくて堪らないだろう。

 更に歩くとやがて……高くそびえ立つ石造りの壁と大きな門が見えて来た。
 俺達は、遂にベルカナの街へ着いたのである。

 門を警備しているのはやはり人間ではなく……革鎧姿のアールヴ達のようだ。
 細身の剣を腰に吊り、片手には小型の弓。
 背中には矢筒を背負っている。

 背は170cmくらいはあるだろうか? 
 皆、異様に色が白くて綺麗な肌をしている。
 鼻筋の通った顔立ちも整っており、転生前の俺ならこそこそと逃げたであろう。
 そして独特の尖った耳……

 間違い無い!
 中二病の俺が知る典型的なアールヴ、いわゆるエルフだ。

 やがて門を警備していたひとりが俺達に気付いて近付いて来た。
 端正な顔をした比較的若いアールヴだ。
 ただアールヴは長命だから、確実に俺より遥かに年上であろう。
 彼はにこやかに俺達に問う。

「お前達は旅行者かな? よければ名乗って欲しい」

 おお、丁寧な頼み方だ。
 俺も何度か練習した台詞セリフを言い放つ。

「ああ、俺はトール・ユーキ。彼女達は妻と友人だ。クラン名はバトルブローカーで、このベルカナへ交易をしにやって来たヴァレンタイン王国の商人兼冒険者だ。ヴォラクだけは途中で一緒になったバートランドの商人さ」

 立て板に水の俺の説明に対して、アールヴは満足したように小さく頷いた。

「成る程! 私はこの街の入場管理官ローペだ。ではこちらで街への入場手続きをする。身分証明証は持っているな?」

 俺達は全員頷いて、ジェトレ村の村民証を提示する。
 ヴォラクの提示した身分証明書も現在ヴァレンタイン王国のバートランドに住む人化した某悪魔が送って来た『本物』だ。

 アールヴの男はジェトレの時と同様に魔法水晶に身分証明書をかざして行く。
 試験の合格発表さながらで、いつもながらドキドキする瞬間だ。
 魔法水晶がこう反応したらOKで、こう反応したらアウトなどという説明が一切無いからである。

 魔法水晶には色々なタイプがあるようだ。
 このベルカナの街の魔法水晶は白く発光すればOKらしい。
 イザベラとヴォラクも白く発光し、俺達は無事にベルカナへ入る事が出来たのであった。

 ローぺは忙しそうだったが悪い人には見えなかった。
 なので、俺はこの街の事を聞くには誰を訪ねれば良いかを聞いてみる。
 ついでに商人向けの宿も。

「この街の事か? まあ商いが目的なら商業ギルドに問い合わせるが良い。冒険者ギルドに登録しているならこの街にも支部がある。宿ならあんた達みたいな商人は白鳥亭が良いだろうな」

「「「白鳥亭!?」」」

 ローぺの言葉に思わず女性陣の声が大きくなる。
 ここまで飛んで来た羽衣の名がいきなり出たからだ。

「ああ、そうさ。最高級ではないが、気立ての良い女将がやっている使い勝手の良い宿さ。お勧めだよ」

 俺の質問に対してローぺは予想以上に丁寧、親切に教えてくれた。
 礼を言うと彼は笑顔で答える。

「お前達はヴァレンタインの人間なんだろう? ヴァレンタイン王国の祖であるバートクリード殿は『破邪の勇者』としてアールヴにも尊敬されている。俺も同じだからな」

 ローぺは屈託の無い笑顔を見せてそう言うと、手を振りながらまた門の方へ戻ったのであった。
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