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第100話「ソフィアの気持ち」

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 ジュリアの『覚醒』が始まってから……もう4日が過ぎた。
 
 俺は毎日、ジュリアが寝ている部屋で彼女の世話をしている。
 アモンからは、7日ほど経てば覚醒に伴う体調不良は収まると聞いたので、もう峠は越えたと思って良いらしい。

「おおい、ジュリア。汗、拭いてやるからな」

「トールゥ!」

 俺はベッドに横たわったジュリアの服を脱がせると、優しく汗を拭いてやる。
 そんな事だけでも、ジュリアは余程嬉しいのかすぐにうるうる涙ぐんでしまう。

「馬鹿だな、泣く奴があるか」

「だってぇ……」

 基本、俺がジュリアの世話をして、買い物や雑用とかはイザベラとアモンに頼んでいる。
 ふたりとも有り難い事に、とても協力的だ。
 そしてソフィアはというと……単にあてがわれた部屋でぼうっとしているだけ。
 
 俺はイザベラに頼んで、ソフィアの背格好にぴったりなフード付きの法衣ローブを買って来て貰った。
 ソフィアには適当な場所で着替えて貰い、遠方から来た商人仲間と言うことにする。
 法衣を着込んでフードを深く被れば、ソフィアが自動人形《オートマタ》とは、簡単にばれないであろうから。
 
 『商人仲間』であればドーラさんも異存は無い。
 あっさりと絆亭に部屋を取ってくれたのである。
 但し、相部屋になどするとうるさいので、当然個室だ。

 俺が色々と世話をしていると、ジュリアが何か思い出したらしくて真っ赤になって俯いた。

「は、恥ずかしい……あたし……それにおしっことか、ええと『あれ』とかって……汚いよ」

 実はジュリアは今、ひとりではトイレにも行けない状態だ。
 なので……いわゆる『おしめ』をしている。
 取替え、付着した排泄物の処理、汚れたおしめをきれいに洗濯して乾かす事も、この俺の仕事なのだ。

「全然汚くないさ。赤の他人には絶対にやらせられないだろう? こんな時の旦那だぜ、遠慮なく使ってくれよ」

「だ、だって……こんな事やってくれる優しい旦那なんて……絶対に居ないよ。そ、それを……か、考えたら……あたしって……とても幸せ者なんだなぁって……あううううう」

 ジュリアは、また泣き出してしまう。
 無理もないかも。
 いくら『覚醒』の際の体調不良とはいえ、不安で堪らないだろうから。
 
 と、その時、ドアがノックされる。
 この魔力波オーラは……ソフィアだ。
 俺は一応確認してみる。

「誰だ?」

わらわじゃ」

「ああ、入れ」

 最近、ソフィアは俺がジュリアの事を世話しているのを、「じいっ」と眺めている。
 特に邪魔をしたりしないので、例の『おむつ』以外の時は自由にさせている。

 今度はジュリアの顔の汗を拭いてやる。
 彼女は満面の笑みを浮かべて、とても幸せそうだ。

 それを暫くじいっと見詰めたソフィアはいかにも面白くなさそうに首を振ると「はぁっ」と大きな溜息を吐いたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 竜神族覚醒の際に起きる体調不良からジュリアが回復したのは、アモンの言う通り、やはり発症後7日経ってからであった。
 その間も俺はせっせと、ジュリアに対してありとあらゆる世話をやいていた。

 発症直後のジュリアは食欲が全く無く、碌に水も飲めなかった。
 かと言って水なしではもたないので、俺は少量の水を口移しで飲ませていた。
 
 やがて回復間近になった時にはスープが食べたいとジュリアから言われたので、病人でも食べ易いようにと、長時間煮た消化の良さそうなスープをドーラさんに用意して貰った。
 その際に、俺がスプーンで掬ったものを口に運んでやると、ジュリアはやはり涙ぐんで俺をじっと見つめたのである。

 元々、これは病気というわけではなかったので、ジュリアがどんどん元気になって行くのを俺は安心して見ていたのだ。

 俺が看病する様子を相変わらずじっと見続けていたのがソフィアである。
 
 長時間居るので「何か用事か?」と聞くと、首を横に振って特に何も無いという。
 先程、ソフィアが俺の部屋を辞去して暫く経つと、突然念話で話があると告げて来たのはイザベラであった。

『どうした?』

『トール、あの木偶人形でくにんぎょう……いや、御免……ソフィアの事だけどさ』

『……ああ、少しは彼女に優しくしないと、まずいとは思っていたんだ』

 いくら世界征服の野望を持っていたとしても、俺は彼女に冷淡にし過ぎた。
 やはり少しはフォローしないといけないだろう。

『そうだよね。最近、ちょっと可哀想かなと思ってね。私も世間知らずの悪魔だから、余り人の事は言えないけど、あの娘はその上を行く王族の箱入り娘さ。その上数千年も眠っていたら、ああなるのも分かるよ』 

『最近は俺がジュリアの看病をするのをじっと見てるよ。俺に対して何を言うのでもないけどね』

 俺がそう言うと、イザベラからは少し考え込む気配がした。
 そして、思い直したようにゆっくりと俺に語り出した。

『あの娘はね……凄く寂しいんだよ。そしてトールがジュリアに優しくしているのを見て羨ましいのさ。そんな中で常に身体崩壊の不安や恐怖と戦っているんだからね』

『そうだな、確かにソフィアが辛いというのは分かるよ。自分の本当の身体に少しでも早く戻りたいだろうし、こうやっている間にもガルドルドの技術を受け継いだ人間を探したいのは当たり前だ。本当の身体は確実に壊れ続けているんだからな』

『……うふふ、やっぱりあの娘の事を気にかけていたんだね。さすが、私の旦那様だ。分かったら少しはソフィアに優しくしてやって……多分、ジュリアもそう思っているよ』

『おう!』

 こうして俺は、次にソフィアがアプローチして来た時に優しくしてやろうと決めたのであった。
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