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第98話「残念な王女②」
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ソフィアはどうしても自分の存在感をアピールしてクランの主導権を握りたいらしい。
それには俺に認めて貰うのが一番だと考えたのだろう。
早速、自分の力を発揮したいと申し入れて来たのである。
「トールよ、ここで妾が役に立つ所をしっかりと見せておこうぞ。良いか? 妾が素晴らしい魔法を発動するからな」
「はい、はい、どうぞ」
俺の醒めた返事に対して、ソフィアの怒りの波動が伝わって来る。
「トール、お主という奴は妾を全く信用しておらぬな」
ソフィアは6階から5階に上がる階段の入り口で腕組みをして立ちはだかっている。
そりゃ信用していないよ。
俺達を『しもべ』にして世界征服を狙っている女の子だもの。
ソフィアは俺達を忌々しげに睨むと言霊の詠唱を開始した。
いわゆる創世神の魔法式という奴らしい。
「我は知る、神の力を! 天の御使いよ、我が願いを聞き給え! ビナー・ゲブラー・ネツアク・ホド」
ソフィアは言霊を唱えると一瞬の溜めをもって決めの言霊を言い放つ。
「門!」
何の魔法だろう?
これ?
そんな事を考えていると、アモンが感嘆してソフィアを褒めた。
「ほう! 大したものだ。これは迷宮に隠された転移門を開く魔法だな」
「ほほほ、悪魔よ! そなたは分かっておるな、流石じゃ。 ええと名は……」
「アモンだ……」
「そうか、アモンか! お前は妾の力を評価してくれたようだな。聞いたか、トールよ。下賎な低級悪魔でさえ妾を理解しておるというのに、人の子のお前が何故分かろうとせぬ。おかしいぞ?」」
「…………」
あ~あ、
下賎な低級悪魔でさえ……とか余計なひと言を言わなければ良いのに。
アモンの「いらいらっ」とした波動が見える。
まあ、良いや。
「分かったよ、ソフィアは偉い。で、その転移門とやらを使ってどうするの?」
「むう、とってつけたような褒め方じゃの……」
ここで見かねたジュリアが、ソフィアを擁護する。
「トール、ソフィアもよかれと思って一生懸命やっているみたいだし……ここはちゃんとお礼を言おうよ」
「おおお、卑しい下民の娘よ。良く言ってくれた! そうじゃ、よかれと思ってしているのじゃ!」
「…………」
また余計なひと言が出た。
折角のジュリアのフォローだったのに「卑しい下民」とか言うから恩を仇で返すようなものだ。
しかも当のソフィアだけが、自分の失言に気付いていない。
『トール……いい加減、この馬鹿な木偶人形、殴って良い? 思いっきりグーパンで?』
傍らで話を聞いていたイザベラもとうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。
不快そうに眉間に皺を寄せ、念話で怒りの感情を伝えて来たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうじゃ! 妾の素晴らしい魔法は!」
えっへん! という擬音が今にも聞こえて来そうな表情。
偉そうに胸を張るソフィア。
……今、俺達はコーンウォール迷宮地下1階に居る。
ソフィアが発動した魔法により、迷宮内の『隠し転移門』とやらが開放され、何と俺達はそこから一気に地下1階へ戻って来たわけなのだ。
「やっぱり妾は有能であろう? ほれ、トールよ、大きな声で言ってみせい!」
「……ああ、分かった。君は有能だよ、うん」
「はぁ、相変わらず、そのとってつけたような言い方をしおって! 何が気に入らないのじゃ!」
俺の冷たい言葉に、とうとうソフィアの我慢の限界が来たらしい。
彼女はいきなり平手で、俺を思い切り殴ろうとしたのだ。
驚いたのは、自動人形のせいなのか、分からないが人間離れした速さな点だ。
しかし!
俺の異常とも言える動体視力から見れば、この怖ろしい速さのビンタも避ける事など容易《たやす》い。
常人には捉える事が難しいと思われるソフィアのビンタではあるが、俺は簡単に彼女の手を掴《つか》んで防いだ。
逆に吃驚したのはソフィアである。
彼女はまさか手を掴まれるとは思ってもみなかったのだろう。
「くううっ!?」
「ほらっ、いきなりそんな無茶をするなよ。だが俺も言い過ぎた、悪かったよ」
手を掴みながら謝罪する俺を、大きく目を見開いて見つめるソフィア。
その瞳は真っ青な宝石の筈なのに、人間の瞳のように感情が籠ったように見える。
「は、放してたもれ」
「あ、ああ……」
――そんなこんなで俺達は絆亭に帰って来た。
迷宮を出る時に俺はソフィアにお願いをした。
クランの人数が増えていると、迷宮の入り口に詰めている衛兵から余計な突込みを入れられ、痛くもない腹を探られる。
元々、俺達のクランは迷宮からの生還を、勝手に賭けの対象とされている。
つまり必要以上に注目されてしまっていたのだ。
加えてソフィアはガルドルド魔法帝国の巫女という独特の衣装からして、とても目立つ。
この娘は一体どこの誰だ!? という取り調べに近い事が絶対に行われるのに決まっている。
もし取り調べを受けたとしたら……
いくら旧ガルドルド魔法帝国の最新技術を使った自動人形と言っても、必ず人間ではないと気付かれてしまうであろう。
俺は今回の一件で大人しくなったソフィアを説得して、収納の腕輪に入って貰う事にした。
少し渋ったソフィアだったが、俺が頭を下げて理由を説明すると意外にも素直に腕輪の中へ入ってくれた。
ソフィアは王族であり創世神の巫女という女性だから、知性だって持ち合わせている。
ただ価値観が俺達と全く違い、帝国再興の意思に沿って動いているだけだ。
宿の部屋に入って腕輪から出されたソフィアは、当然の如く部屋の狭さに文句は言った。
だが、以前のような我儘ぶりは何故か消えていたのであった。
それには俺に認めて貰うのが一番だと考えたのだろう。
早速、自分の力を発揮したいと申し入れて来たのである。
「トールよ、ここで妾が役に立つ所をしっかりと見せておこうぞ。良いか? 妾が素晴らしい魔法を発動するからな」
「はい、はい、どうぞ」
俺の醒めた返事に対して、ソフィアの怒りの波動が伝わって来る。
「トール、お主という奴は妾を全く信用しておらぬな」
ソフィアは6階から5階に上がる階段の入り口で腕組みをして立ちはだかっている。
そりゃ信用していないよ。
俺達を『しもべ』にして世界征服を狙っている女の子だもの。
ソフィアは俺達を忌々しげに睨むと言霊の詠唱を開始した。
いわゆる創世神の魔法式という奴らしい。
「我は知る、神の力を! 天の御使いよ、我が願いを聞き給え! ビナー・ゲブラー・ネツアク・ホド」
ソフィアは言霊を唱えると一瞬の溜めをもって決めの言霊を言い放つ。
「門!」
何の魔法だろう?
これ?
そんな事を考えていると、アモンが感嘆してソフィアを褒めた。
「ほう! 大したものだ。これは迷宮に隠された転移門を開く魔法だな」
「ほほほ、悪魔よ! そなたは分かっておるな、流石じゃ。 ええと名は……」
「アモンだ……」
「そうか、アモンか! お前は妾の力を評価してくれたようだな。聞いたか、トールよ。下賎な低級悪魔でさえ妾を理解しておるというのに、人の子のお前が何故分かろうとせぬ。おかしいぞ?」」
「…………」
あ~あ、
下賎な低級悪魔でさえ……とか余計なひと言を言わなければ良いのに。
アモンの「いらいらっ」とした波動が見える。
まあ、良いや。
「分かったよ、ソフィアは偉い。で、その転移門とやらを使ってどうするの?」
「むう、とってつけたような褒め方じゃの……」
ここで見かねたジュリアが、ソフィアを擁護する。
「トール、ソフィアもよかれと思って一生懸命やっているみたいだし……ここはちゃんとお礼を言おうよ」
「おおお、卑しい下民の娘よ。良く言ってくれた! そうじゃ、よかれと思ってしているのじゃ!」
「…………」
また余計なひと言が出た。
折角のジュリアのフォローだったのに「卑しい下民」とか言うから恩を仇で返すようなものだ。
しかも当のソフィアだけが、自分の失言に気付いていない。
『トール……いい加減、この馬鹿な木偶人形、殴って良い? 思いっきりグーパンで?』
傍らで話を聞いていたイザベラもとうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。
不快そうに眉間に皺を寄せ、念話で怒りの感情を伝えて来たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうじゃ! 妾の素晴らしい魔法は!」
えっへん! という擬音が今にも聞こえて来そうな表情。
偉そうに胸を張るソフィア。
……今、俺達はコーンウォール迷宮地下1階に居る。
ソフィアが発動した魔法により、迷宮内の『隠し転移門』とやらが開放され、何と俺達はそこから一気に地下1階へ戻って来たわけなのだ。
「やっぱり妾は有能であろう? ほれ、トールよ、大きな声で言ってみせい!」
「……ああ、分かった。君は有能だよ、うん」
「はぁ、相変わらず、そのとってつけたような言い方をしおって! 何が気に入らないのじゃ!」
俺の冷たい言葉に、とうとうソフィアの我慢の限界が来たらしい。
彼女はいきなり平手で、俺を思い切り殴ろうとしたのだ。
驚いたのは、自動人形のせいなのか、分からないが人間離れした速さな点だ。
しかし!
俺の異常とも言える動体視力から見れば、この怖ろしい速さのビンタも避ける事など容易《たやす》い。
常人には捉える事が難しいと思われるソフィアのビンタではあるが、俺は簡単に彼女の手を掴《つか》んで防いだ。
逆に吃驚したのはソフィアである。
彼女はまさか手を掴まれるとは思ってもみなかったのだろう。
「くううっ!?」
「ほらっ、いきなりそんな無茶をするなよ。だが俺も言い過ぎた、悪かったよ」
手を掴みながら謝罪する俺を、大きく目を見開いて見つめるソフィア。
その瞳は真っ青な宝石の筈なのに、人間の瞳のように感情が籠ったように見える。
「は、放してたもれ」
「あ、ああ……」
――そんなこんなで俺達は絆亭に帰って来た。
迷宮を出る時に俺はソフィアにお願いをした。
クランの人数が増えていると、迷宮の入り口に詰めている衛兵から余計な突込みを入れられ、痛くもない腹を探られる。
元々、俺達のクランは迷宮からの生還を、勝手に賭けの対象とされている。
つまり必要以上に注目されてしまっていたのだ。
加えてソフィアはガルドルド魔法帝国の巫女という独特の衣装からして、とても目立つ。
この娘は一体どこの誰だ!? という取り調べに近い事が絶対に行われるのに決まっている。
もし取り調べを受けたとしたら……
いくら旧ガルドルド魔法帝国の最新技術を使った自動人形と言っても、必ず人間ではないと気付かれてしまうであろう。
俺は今回の一件で大人しくなったソフィアを説得して、収納の腕輪に入って貰う事にした。
少し渋ったソフィアだったが、俺が頭を下げて理由を説明すると意外にも素直に腕輪の中へ入ってくれた。
ソフィアは王族であり創世神の巫女という女性だから、知性だって持ち合わせている。
ただ価値観が俺達と全く違い、帝国再興の意思に沿って動いているだけだ。
宿の部屋に入って腕輪から出されたソフィアは、当然の如く部屋の狭さに文句は言った。
だが、以前のような我儘ぶりは何故か消えていたのであった。
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