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第86話「滅ぼす者」

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 結局……俺のアイディアは採用された。

 アモンは『使い魔』として下級悪魔のインプを召喚、先方の陣へ送った。
 軍使として、一騎打ちの旨を伝える手紙を託したのである。
 
 ちなみに手紙はアモンに書いて貰った。
 彼は旧ガルドルド魔法帝国が使用していた古代文字を知っていたから。

 果たしてどうなるか?
 
 俺は半信半疑であったが、暫くしてインプは無事帰って来た。
 注目の返事だが、何と!
 この申し入れを受けるという。
 その代わり俺達が負ければ、無条件でこの階から撤退するという条件付きだ。

 1時間後―――支度をした俺は、前に進み出る。
 嫁ズの心配そうな視線を背に受けながら。
 
 気になる相手だが、今迄俺達が戦って来た鋼鉄の巨人ソルジャーゴーレムよりひと際大きい。
 形状の全く違う巨人が、ずしずしと地響きを立てながら進み出たのである。

 使われている金属もまるで異なっていた。
 俺の前世で言えば、眩く輝くクロームシルバー仕様。
 和製英語で言えばシルバーメタルゴーレムとでも呼べば良いだろうか。
 
 アモンが「むう」と呟いた。
 表情が少し曇っている。

 何だ?
 アモンの奴、珍しく難しい顔をしているじゃあないか。

「どうしたの?」

「……トール、気をつけろよ。あの巨人《ゴーレム》は悪魔戦を想定して作られた奴等の最終兵器、滅ぼす者デストロイヤーに違いない」

「はぁ!? さ、最終兵器? 滅ぼす者デストロイヤー?」

「ああ……通常タイプの鋼鉄の巨人ソルジャーゴーレムの3倍の強度の対物理、対魔法の魔法障壁を誇る装甲は勿論、機体の自動修復装置と擬似魔法射出装置まで備えている。また奴等の唯一の弱点である関節の裏側も攻撃を殆ど受け付けないように強化されている筈だ」

 えええっ!?
 な、何それ!?
 それって……

「ガルドルド魔法帝国の技術の粋を集めて造った鋼鉄の巨人ソルジャーゴーレムの中でも最高傑作で幻の試作品だ。確かもう1体戦場に投入された時は悪魔数百体を瞬時に殺したと記憶している……こちらも俺が指揮を執って精鋭悪魔の一個大隊でやっと倒した」

「…………」

 確かに俺も邪神様の使徒で人間離れしているのは認めるけどさ。
 ちょっと凶悪過ぎるだろう、それ?

「うむ! 俺も燃えて来た。相手にとって全く不足はない! 真の男であれば燃える相手だな! はっははは!」

 あのね……俺も燃えて来たって、コノヤロ。
 お前は直接戦わないだろ、このド悪魔!
 他人事だと思いやがって!

「まあ、勝てないと思ったら両手を挙げてギブアップしろ……しかし、お前は俺を軽く凌駕した男だ。期待しているからな」

 ええと……もう良いかな?
 俺は即座に手を挙げようとしたら……押さえられた、手を!

「トール、まだ相手と戦ってもいないぞ! 頼むから、俺の期待を裏切るなよ」

 いやぁ、そんな期待に応える義務は全く無いし!
 それに俺だって一応生身の人間だし、あんな化け物とは戦うのは無理無理無理ぃ!

「ねぇ、トール……私、オリハルコン……欲しい」
 
 イザベラの縋るような視線が俺に注がれる。
 
 あれ?
 さっきと態度が違う。
 心配してたんじゃないの?

「え? お、おう……欲しいよな」

 う~……何だよぉ。
 曖昧な返事をする俺。
 そして、イザベラを見たジュリアも遠回しに……戦えと。

「トール、もし危なかったら『負け』って言って良いから」

「…………」

 ……ふ~ん。
 とりあえず全員が俺にチャレンジしろって意見ですか?
 そうですか……

「分かったよ……だけど皆、無茶言うなぁ……」

 皆の期待を背負った俺は一歩前に出て、仕方なく魔剣を構えたのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 俺と滅ぼす者デストロイヤーは距離をとって正対した。
 
 相手の武器はと見れば……
 刀身の長さが3m近くはあろうかという、幅広の巨大な剣だ。
 あれで一体どんな攻撃をして来るのか?
 
 そして問題は俺が相手よりどれだけ早く動けるか。
 また攻撃をある程度読み切って避けられるかである。
 
 が、ちゃり!
 がっしゅうううううう……

 俺がそう考えていると滅ぼす者デストロイヤーが起動する。

 緊張の一瞬だ!

 だだだだだだ!

 そこからワンテンポおいて滅ぼす者デストロイヤーは地響きを立てながら結構な速さで俺に迫って来た。
 おお、奴の脚の回転が速い。
 
 だが俺にとって幸いだったのが、想像していた半分くらいの速度という事。
 あと、やはりと言うか、攻撃の意思を示す魔力波オーラが立ち昇る。
 これなら相手の攻撃がある程度予測出来るというもの。

「よっと!」

 滅ぼす者デストロイヤーは巨大な剣を軽々と振り回し、俺の首を刎ねようとした。
 俺は、亀の子のように首を引っ込めてそれを躱《かわ》す。
 と、同時にさっと奴の傍から離れた。
 
 本来ならカウンター的に魔剣で一撃を加える所だが、あの硬い装甲にどこまで通じるか、分からない。
 魔剣が万が一折れたりでもしたら、目も当てられないからやめておく。

 幸い邪神様から与えられた身体は常人より遥かにスタミナがある。
 少々動いたくらいでは全くこたえない。

 しかし守ってばかりでは、相手を倒せない事も確かだ。
 普通に考えれば通常の鋼鉄の巨人ソルジャーゴーレムと同様に関節の裏側を攻めれば良い。

 相手は俺の動きに驚いたようで、すぐに守りを固めた。
 奴の中身も人間なんだよな……
 敵の力を推し量りながら勝機を待つ……さすがは滅ぼす者デストロイヤーを任されたガルドルド魔法帝国の軍人だ。
 
 さぞかし名のある有能な軍人だったのだろう。
 愛する家族だって居ただろうに……
 そう思うと俺は少し物悲しくなった。

 いかん!

 感傷に浸っている暇は無かった。
 俺はじっくりと攻める事にする。
 相手も迂闊に攻めて来ないので、暫し睨み合いが続く。

 誘いを掛けてみるか?

 剣の腕は知られていても、相手は俺がどのような魔法を使うか知らない。
 ちょっとした思い付きで、俺はイザベラの火炎の魔法の真似をする事にした。
 彼女の繰り出す業火に比べれば、ガスライターの炎を最大限強力にしたような『しょぼい炎』なのだが……フェイントになれば御の字。

 いけ~!
 猛炎よ!

 しかし俺が発した炎を見た滅ぼす者デストロイヤーは、アモンの放つ地獄の業火を思い浮かべたのであろう。
 両手をがっちり交差させて、魔法障壁まで可動させたのである。

「今だ!」

 俺は全速で滅ぼす者デストロイヤーの下に潜り込む。
 と同時に、奴の片足を掴んで、思い切り転ばした。
 いくら重い鋼鉄の巨人ソルジャーゴーレムと言っても上級悪魔に腕相撲で楽に勝てる俺の膂力《りょりょく》。

 滅ぼす者デストロイヤーは派手な音をたてて、思い切り転がり、巨大な剣を放したのだ。
 俺はすかさずその剣を両手で掴んで、思い切り遠くに投げ飛ばした。
 これで奴の攻撃手段をひとつ奪った。
 武器が無ければ、戦局はだいぶこちらに有利になる筈だから。
 
 しかしこの攻撃が相手の怒りに火を点けてしまう。
 考えてみたらみっともない。
 転がされて、武器を奪われたなんて。
 怒るのは当然だろう。

 ぶっしゅうううううう!

 滅ぼす者デストロイヤーは思いのほか素早く立ち上がり、排気口から大量の蒸気を噴射した。
 
 そして両手を広げると、さっきより全然早い速度で俺に襲い掛かって来たのであった。
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