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第80話「アモンの疑問」
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地下4階の魔物共を苦労しながらも倒した俺達は、漸く地下5階へ降りる階段を見つけた。
ここまで来たら、焦る必要も無い。
なので地下5階へ降りる前に、また休憩を兼ねた作戦会議を行う。
車座になって座る俺達の中でアモンが首を捻っている。
何か疑問や懸念があるのだろうか?
俺はそれが気になって尋ねる。
案の定、アモンはやはり何かが引っかかるらしい。
更に詳しく聞けば、アモンは過去に旧ガルドルド魔法帝国と戦った経験があるとの事。
俺などが想像も出来ない遥かな古の時代だと言う。
「トール……この地図を信じるとしたらこの先の地下5階がこの迷宮の最終階だ。だが、この迷宮がもしガルドルド魔法帝国の物なら余りにも歯応えが無さ過ぎる」
「歯応えが無いって?」
もしかしたら、今迄出て来た魔物達が弱過ぎるという事だろうか?
俺がそう聞くとアモンは「我が意を得たり」とばかりに頷いた。
「その通りだ。良く考えれば最終階のラストボスがミノタウロスというのもふざけた話だからな」
「ええと……ミノタウロスがラスボスって、そんなにふざけているの……か?」
怪訝そうな顔をする俺の問いに対し、渋い顔をして首を横に振るアモン。
「ああ、ミノタウロスなどは魔法も使えない単なる力だけの魔物だ。恐るるに足らずといった所だよ。もしガルドルドならば彼等の魔法技術の粋を集めた……ああ、そうだ」
アモンは何か言いかけると、頭の上に何か電球……いや今時ならLEDマークが点灯している。
こいつ……また何か思いついたな。
「それより……良い機会だ。この俺を圧倒したその膂力を見せてみろ」
「はぁ!? 膂力?」
何だよ。
膂力を見せろって?
「膂力で戦う……すなわち素手だけで戦うというものだ」
「す、素手ぇ!?」
俺は思わず大きな声を出してしまう。
「ははは、そう! 素手だ! お前の持つあの凄い魔剣を一切使わずにな……がつん! と行ってみろ」
あのさ……「がつん」と言ったってなぁ……
ミノタウロスの事は資料本は読み込んで知っているし、ゲームでは何回も戦ったけど……
あんな汗臭そうな筋肉達磨なんか、ちょっと触るだけでも嫌なのに……
それどころか、がっつり組み合うなんてとんでもない!
俺は露骨に嫌な顔をしたようだ。
アモンはそんな俺へ、またもや苦言を呈したのである。
「トール……何度も言うが、お前はこれからイザベラ様と、ジュリアと言うあの竜神族の娘ふたりを妻として護って行くのだぞ」
「まあ、そうだけど……」
「良く肝に銘じておけ。万が一、得物を持っていない時は自らの肉体を武器として敵に立ち向かわないといけなくなるのだ。その為の訓練相手にミノタウロスなら最適だと俺は思う」
自らの肉体を武器にだと?
さすがに武闘派悪魔の言う台詞だけの事はある。
例によって自分達の事を持ち出されたジュリアとイザベラはというと……
「トール! ねぇ、素手で戦うトールって格好良さそう……あたし、見てみたいな」
ジュリアめ!
最初はすっごく心配していたのに……戦う俺を見て『女』に火がついた?
片や、イザベラの答えは予想通りだ。
「私もジュリアと同じさ! 悪魔の女は強い男にはメロメロなんだよ」
う~む……俺の可愛い嫁ズもそう言うか。
俺は多数決……すなわち民主主義の暴力に負けた。
仕方が無い……頑張ろう!
ちらっとアモンを見ると案の定、にやにや笑っていやがった!
く~う!
やはり奴の計算された『手』かよ。
俺はしかめっ面をすると、拳を握り締めて気合を入れ直したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コーンウォール迷宮地下5階……
見ている地図を信じればというアモンの言葉があったが、今の所この地図は正確なようだ。
ええっと……
地図の通りだと地下5階の構造は少し特殊である。
簡単に言うと、階段を降りた所から最終ボスの居る玄室まで一本道なのだ。
不思議な事に途中の通路に魔物の姿は無い。
俺は先頭に立ちながら、ミノタウロスとの戦い方を模索する。
ミノタウロスの得物と言えばお約束。
大型の斧である。
どうせ斧を力任せに「ぶんぶん」と振り回してくる攻撃だろう。
これを掻い潜って、奴の身体に俺の拳と蹴りをぶち込む――そのようなイメージだ。
俺が戦いのシミュレーションをしていたのを、アモンは見抜いていたようだ。
「余り、拳や蹴りなどの技に頼ろうとするな。純粋なお前の力で圧倒してみろ、ミノタウロス如き、容易い筈だ」
そのような注意を受けつつ、そっと玄室に入ると俺の五感が捉えていた通り奴は居た。
部屋の1番奥に巨大で逞しい人間の身体に、牛の頭を持つ怪物が鎮座している。
こいつが……ミノタウロスである。
よくよく考えれば牛は草食の筈だったのにとくだらない事を考えながら、俺はミノタウロスに向かって行った。
俺を認めたミノタウロスは思っていたより機敏な動きで立ち上がると、お約束通り巨大な斧を振りかざす。
それにしても……
何という不気味な姿なのだろうか?
神話では人間の女性と牛が交わって出来たのがこいつだから、不気味と言えども彼に罪は無い。
彼は生まれたくて生まれたのではないのだからだ。
しかし、いかに不幸な生い立ちであろうが、関係ない。
人を喰う本能から、怖ろしい声で咆哮。
俺達を食い殺そうとしてしている奴を見直せば、そんな哀れみの気持ちなど無駄だという事が分かる。
だがミノタウロスの動きも最初に感じたほどではなく、やはり遅かった。
俺はまず奴の斧を取り上げるべく、斧が俺に向かって振られた所を楽々と躱《かわ》し、斧を持つ手の肘に手刀を打ち込む。
骨が砕ける音がしてミノタウロスは絶叫をあげ、あっさりと斧を落とした。
俺はダメージを受けた手を押えて呻く、ミノタウロスの顔に思い切り蹴りを放つ。
ミノタウロスの首が、思いっ切り不自然な方向に折れ曲がる。
「トールゥ!」
アモンの声が響く。
不満足そうな、非難の気持ちが篭もったような声だ。
ああ、奴の注意を忘れてた。
俺が手刀や蹴りを使って、純粋な力で戦っていないからだろう。
「ちいっ!」
仕方がない!
俺は倒れ込んだミノタウロスを掴み、渾身の力を篭めると相手の巨体が易々と持ち上がった。
あ、あれぇ!?
俺って、こんなに力持ち?
すげーじゃん!
拍子抜けした俺だったが、とにかくミノタウロスを抱えて持ち上げた。
途端に立ち昇るミノタウロスの強烈な体臭。
まるで1年くらい風呂に入っていない、ひで~悪臭だ。
うわぁ!
やっぱり凄い臭いがするぜ。
だから言ったじゃん。
離れて触らずに戦いたかったんだよ!
俺は口の中で舌打ちすると、ミノタウロスを思い切り、玄室の壁へ向かって投げ飛ばした。
既に首を折られて、殆ど即死状態だったらしい奴は嫌な音を立てて壁にぶつかり、完全に動かなくなった。
「トール!」
「やったぁ!」
これは可愛い嫁ズの声。
「トール……」
これは相変わらず非難の目を向けるアモン。
俺の戦い方に、相当不満があったようだ。
でもスルーしちゃえ。
だって……こいつったら、すげ~獣臭いんだもの。
その瞬間であった。
ぴいいいいいん!
玄室の中で鋭い音が鳴り響く。
不快感を催すハウリングのような独特な音が鳴っているのだ。
「え!?」
「トール! この部屋が! 玄室が鳴っているんだよ」
ジュリアの指摘に俺はピンと来た。
収納の腕輪から例の鍵を取り出してみたのだ。
すると俺の予想通り鍵が輝いていた。
もしや!
更に四方を見渡すと玄室の一角が淡く光っている。
これは迷宮の更なる秘密の扉か!?
俺はこれから遭遇するであろう未知の世界を想像して、ごくりと唾を飲み込んだのであった。
ここまで来たら、焦る必要も無い。
なので地下5階へ降りる前に、また休憩を兼ねた作戦会議を行う。
車座になって座る俺達の中でアモンが首を捻っている。
何か疑問や懸念があるのだろうか?
俺はそれが気になって尋ねる。
案の定、アモンはやはり何かが引っかかるらしい。
更に詳しく聞けば、アモンは過去に旧ガルドルド魔法帝国と戦った経験があるとの事。
俺などが想像も出来ない遥かな古の時代だと言う。
「トール……この地図を信じるとしたらこの先の地下5階がこの迷宮の最終階だ。だが、この迷宮がもしガルドルド魔法帝国の物なら余りにも歯応えが無さ過ぎる」
「歯応えが無いって?」
もしかしたら、今迄出て来た魔物達が弱過ぎるという事だろうか?
俺がそう聞くとアモンは「我が意を得たり」とばかりに頷いた。
「その通りだ。良く考えれば最終階のラストボスがミノタウロスというのもふざけた話だからな」
「ええと……ミノタウロスがラスボスって、そんなにふざけているの……か?」
怪訝そうな顔をする俺の問いに対し、渋い顔をして首を横に振るアモン。
「ああ、ミノタウロスなどは魔法も使えない単なる力だけの魔物だ。恐るるに足らずといった所だよ。もしガルドルドならば彼等の魔法技術の粋を集めた……ああ、そうだ」
アモンは何か言いかけると、頭の上に何か電球……いや今時ならLEDマークが点灯している。
こいつ……また何か思いついたな。
「それより……良い機会だ。この俺を圧倒したその膂力を見せてみろ」
「はぁ!? 膂力?」
何だよ。
膂力を見せろって?
「膂力で戦う……すなわち素手だけで戦うというものだ」
「す、素手ぇ!?」
俺は思わず大きな声を出してしまう。
「ははは、そう! 素手だ! お前の持つあの凄い魔剣を一切使わずにな……がつん! と行ってみろ」
あのさ……「がつん」と言ったってなぁ……
ミノタウロスの事は資料本は読み込んで知っているし、ゲームでは何回も戦ったけど……
あんな汗臭そうな筋肉達磨なんか、ちょっと触るだけでも嫌なのに……
それどころか、がっつり組み合うなんてとんでもない!
俺は露骨に嫌な顔をしたようだ。
アモンはそんな俺へ、またもや苦言を呈したのである。
「トール……何度も言うが、お前はこれからイザベラ様と、ジュリアと言うあの竜神族の娘ふたりを妻として護って行くのだぞ」
「まあ、そうだけど……」
「良く肝に銘じておけ。万が一、得物を持っていない時は自らの肉体を武器として敵に立ち向かわないといけなくなるのだ。その為の訓練相手にミノタウロスなら最適だと俺は思う」
自らの肉体を武器にだと?
さすがに武闘派悪魔の言う台詞だけの事はある。
例によって自分達の事を持ち出されたジュリアとイザベラはというと……
「トール! ねぇ、素手で戦うトールって格好良さそう……あたし、見てみたいな」
ジュリアめ!
最初はすっごく心配していたのに……戦う俺を見て『女』に火がついた?
片や、イザベラの答えは予想通りだ。
「私もジュリアと同じさ! 悪魔の女は強い男にはメロメロなんだよ」
う~む……俺の可愛い嫁ズもそう言うか。
俺は多数決……すなわち民主主義の暴力に負けた。
仕方が無い……頑張ろう!
ちらっとアモンを見ると案の定、にやにや笑っていやがった!
く~う!
やはり奴の計算された『手』かよ。
俺はしかめっ面をすると、拳を握り締めて気合を入れ直したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コーンウォール迷宮地下5階……
見ている地図を信じればというアモンの言葉があったが、今の所この地図は正確なようだ。
ええっと……
地図の通りだと地下5階の構造は少し特殊である。
簡単に言うと、階段を降りた所から最終ボスの居る玄室まで一本道なのだ。
不思議な事に途中の通路に魔物の姿は無い。
俺は先頭に立ちながら、ミノタウロスとの戦い方を模索する。
ミノタウロスの得物と言えばお約束。
大型の斧である。
どうせ斧を力任せに「ぶんぶん」と振り回してくる攻撃だろう。
これを掻い潜って、奴の身体に俺の拳と蹴りをぶち込む――そのようなイメージだ。
俺が戦いのシミュレーションをしていたのを、アモンは見抜いていたようだ。
「余り、拳や蹴りなどの技に頼ろうとするな。純粋なお前の力で圧倒してみろ、ミノタウロス如き、容易い筈だ」
そのような注意を受けつつ、そっと玄室に入ると俺の五感が捉えていた通り奴は居た。
部屋の1番奥に巨大で逞しい人間の身体に、牛の頭を持つ怪物が鎮座している。
こいつが……ミノタウロスである。
よくよく考えれば牛は草食の筈だったのにとくだらない事を考えながら、俺はミノタウロスに向かって行った。
俺を認めたミノタウロスは思っていたより機敏な動きで立ち上がると、お約束通り巨大な斧を振りかざす。
それにしても……
何という不気味な姿なのだろうか?
神話では人間の女性と牛が交わって出来たのがこいつだから、不気味と言えども彼に罪は無い。
彼は生まれたくて生まれたのではないのだからだ。
しかし、いかに不幸な生い立ちであろうが、関係ない。
人を喰う本能から、怖ろしい声で咆哮。
俺達を食い殺そうとしてしている奴を見直せば、そんな哀れみの気持ちなど無駄だという事が分かる。
だがミノタウロスの動きも最初に感じたほどではなく、やはり遅かった。
俺はまず奴の斧を取り上げるべく、斧が俺に向かって振られた所を楽々と躱《かわ》し、斧を持つ手の肘に手刀を打ち込む。
骨が砕ける音がしてミノタウロスは絶叫をあげ、あっさりと斧を落とした。
俺はダメージを受けた手を押えて呻く、ミノタウロスの顔に思い切り蹴りを放つ。
ミノタウロスの首が、思いっ切り不自然な方向に折れ曲がる。
「トールゥ!」
アモンの声が響く。
不満足そうな、非難の気持ちが篭もったような声だ。
ああ、奴の注意を忘れてた。
俺が手刀や蹴りを使って、純粋な力で戦っていないからだろう。
「ちいっ!」
仕方がない!
俺は倒れ込んだミノタウロスを掴み、渾身の力を篭めると相手の巨体が易々と持ち上がった。
あ、あれぇ!?
俺って、こんなに力持ち?
すげーじゃん!
拍子抜けした俺だったが、とにかくミノタウロスを抱えて持ち上げた。
途端に立ち昇るミノタウロスの強烈な体臭。
まるで1年くらい風呂に入っていない、ひで~悪臭だ。
うわぁ!
やっぱり凄い臭いがするぜ。
だから言ったじゃん。
離れて触らずに戦いたかったんだよ!
俺は口の中で舌打ちすると、ミノタウロスを思い切り、玄室の壁へ向かって投げ飛ばした。
既に首を折られて、殆ど即死状態だったらしい奴は嫌な音を立てて壁にぶつかり、完全に動かなくなった。
「トール!」
「やったぁ!」
これは可愛い嫁ズの声。
「トール……」
これは相変わらず非難の目を向けるアモン。
俺の戦い方に、相当不満があったようだ。
でもスルーしちゃえ。
だって……こいつったら、すげ~獣臭いんだもの。
その瞬間であった。
ぴいいいいいん!
玄室の中で鋭い音が鳴り響く。
不快感を催すハウリングのような独特な音が鳴っているのだ。
「え!?」
「トール! この部屋が! 玄室が鳴っているんだよ」
ジュリアの指摘に俺はピンと来た。
収納の腕輪から例の鍵を取り出してみたのだ。
すると俺の予想通り鍵が輝いていた。
もしや!
更に四方を見渡すと玄室の一角が淡く光っている。
これは迷宮の更なる秘密の扉か!?
俺はこれから遭遇するであろう未知の世界を想像して、ごくりと唾を飲み込んだのであった。
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